神の瞳

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*また、話が複雑なのであとがきに解説を書きました。このページの一番下から飛ぶことができますので、読んでくださると嬉しいです。

素敵なボイスドラマを作っていただけました!!皆様の演技も編集も素敵ですので聴いてくださったら嬉しいです!!

登場人物

・千賀琴子(♀)/せんがことこ

 神の瞳を与えられたとされる一族の最後の一人で、今回の瞳返しの贄。10代半ば~10代後半。


・九条尭(不問)/くじょうあきら

 贄に仕え、瞳返しの祭主を行う九条家の人間。20代後半~30代。

 *九条を演じられる方は特にあとがきを読まれることをおすすめいたします。


・嗣永環(♀)/つぐながたまき

 陰郷村(かげさとむら)の村長を務める嗣永家の当主。香月の妻。20代後半か~30代前半。


・香月冬也(♂)/かづきとうや

 村長の補佐を務め、村で唯一の診療所を営む香月家最後の一人。だが、嗣永に婿入りしたが、香月と呼ばれている。

 20代後半~30代。

『神の瞳』

作者:なずな

URL:https://nazuna-piyopiyo.amebaownd.com/pages/6231295/page_202207012256

千賀琴子(♀):

九条尭(不問):

嗣永環(♀):

香月冬也(♂):

本文

千賀:「瞳返し。

神の瞳を与えられた一族の者を差し出すことで、神に瞳をお返しし、感謝するという意味を持つ儀式。

かつて、この地を守っていた美しい金色の瞳をもった神が、その美しい瞳を人の子に与えた。

人の子は新たな神となり、この地を守ることとなった。

このことから、ここ陰郷村(かげさとむら)では、神は瞳に宿ると信じられ、瞳返しが行われてきた。

瞳返しをしなければ、神は怒り、村に祟りが降り注ぐという。

5年前、瞳返しが行われた。

しかし、神はお許しにならなかった。

返しても返しても、終わらない儀式。

神の瞳を喰らったのは誰なのだろうか?」



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(薄暗い座敷牢にて)


九条:「琴子様、おはようございます。」


千賀:「おはようございます、九条さん・・・。」


九条:「そのご様子だとあまり眠れなかったようですね。」


千賀:「・・・本当に今日瞳返しを執り行うのですか?」


九条:「そう定められていますから。前の儀式から5年しか経っていませんが、皆さん限界でしょう。今回の眼痛は酷いですからね。」


千賀:「自ら瞳を抉り出してしまった人もいるとお聞きしました。

どうしてこんなことに・・・。」


九条:「眼痛がこの村を襲うたびに瞳返しを行い鎮めてきましたが、ここまで重たいことは初めてですね。

やはり、五年前の贄が不完全だったからでしょうか。」


千賀:「・・・っ」


九条:「5年前の今日、瞳返しが行われるのと同時に火事が起き、多くの命が奪われました・・。

此度は何も起きず、成功するといいですね。

ね、琴子様。」


千賀:「・・・そうですね。」


九条:「ああ、この後香月様がお見えになります。」


千賀:「香月さんが・・・?

村で唯一のお医者さんでお忙しいだろうに。」


九条:「5年前のように贄に急に亡くなられては困りますからねぇ。ただでさえ琴子様は千賀家…、神の瞳を与えられた一族の最後の方なのですから。」


千賀:「・・・嗣永さんは?」


九条:「来られませんよ。琴子様もそのほうがよろしいでしょう?」


千賀:「苦手なんですよ、あの人・・・。」


九条:「嗣永家と千賀家は代々距離を取ってきましたから。

村長(むらおさ)を務める嗣永家と村で神として崇められる千賀家の仲が悪いのも面白い話ですがね。」


千賀:「・・・。」


九条:「それに、現当主の環様は気が強い方ですから余計にそう思われて仕方のないことかと。

香月様と婚姻されて、子にも恵まれて、少しは丸くなると思っていたのですが・・・。

ああ、儀式には当たり前ですが同席されますよ。」


千賀:「・・・はい。」


九条:「・・・では、後ほど香月様をお連れいたしますのでお待ちください。」



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(座敷牢に入ってくる香月)


千賀:「・・・香月さん?」


香月:「おはよう、琴子ちゃん。

相変わらずすごいな。驚かせようと思って音を立てないようにしていたのに。」


千賀:「目が見えなくなると、気配とか匂いとかに敏感になるみたいで・・・。」


香月:「・・・そっか。

・・・どこか具合が悪かったり、気になるところはあるかな?」


千賀:「どこも問題はありません。香月さん・・・、あ、」


香月:「どうした?」


千賀:「嗣永さんって呼んだ方がいいのかなって。婿入りしたのにずっと香月さんって呼んでたから・・・。

もう四年も経っているのに慣れなくて。」


香月:「香月で良いよ。5年前の火事でみんな亡くなって、今じゃ香月家の人間は僕しかいないし。

それに環さんだって名前で呼ばないで香月って呼ぶからね。同じ嗣永なのに。」


千賀:「・・・そうですか。」


香月:「昔みたいに、冬也お兄ちゃんって呼んでもいいんだよ。」


千賀:「もう子供じゃないですから。・・・娘さんはお元気ですか?」


香月:「ああ、お転婆娘で困ってるよ。口が達者になってきてね。

環さんも娘には負けるからなあ。」


千賀:「嗣永さんが・・・?」


香月:「ふふっ、そんなに恐ろしい人じゃないんだよ。

でも・・・、変わってしまったな。昔はあんな人じゃなかったんだけど。」


千賀:「・・・。」


香月:「眼痛のこともあって、大変なんだろうな。

・・・特に娘は眼痛が酷くてね。僕も環さんも正直言って辛いけど・・・、特にあの子は。」


千賀:「・・・儀式を行わなければ、祟りが降り注ぐ・・・。」


香月:「祟りか・・・。5年前の瞳返しの際の火事と言い、この眼痛といい、やはり祟りなのかな。

琴子ちゃんは大丈夫かい?」


千賀:「私は皆さんより軽いと思います。

こうして閉じ込められ、瞳も塞がれてしまったからかもしれませんが。」


香月:「贄と贄に仕える九条家は瞳を隠さないといけない。

九条家は薄布だから目が見えないわけじゃないんだけど、贄は文字通り塞ぐからね。」


千賀:「・・・亡くなった兄のように何も知らずにいたほうが幸せなのかもしれません。

外を知っていて、目が見えていればこんな狭く、書物に埋もれた座敷牢にはとてもじゃないけどいられませんから。」


香月:「・・・そうだね。」


千賀:「5年前、贄として育てられた兄が急死し、本来なら代わりに私が贄となる予定でした。

でも、私は両親に逃がされて・・・。その両親が贄になりました。

もしかしたら、私が最初から行えば成功していたのかもしれません。」


香月:「それは」


千賀:「贄は赤子のうちから目を塞がれて、清められます。何も見ないで、綺麗なまま瞳を返すようにと。

でも、両親はそうじゃなかった。私もそうではありませんでしたが、瞳が綺麗な若い方がいいと聞いたことがあります。

それに・・・、私結局捕まっちゃったから・・・。」


香月:「琴子ちゃん・・・。」


千賀:「あの、頼んでいたもの持ってきてくれましたか?」


香月:「ああ・・・。」


千賀:「ありがとうございます。」


香月:「それは一体何なんだい?」


千賀:「・・・父と母が残してくれた大切なものです。」


香月:「・・・そうか。

誰にも見つかってないから安心してね。」


千賀:「ありがとうございます。本当に助かりました。」


香月:「ううん、いいんだ。

僕は結局、これくらいしかできなかったから。」


千賀:「え?」


香月:「さて、そろそろ戻らないと怒られそうだ。」


千賀:「あの・・・っ。」


香月:「なんだい?」


千賀:「ありがとうございました。

香月さんだけだったから。私のことを人間として扱ってくれたの・・・。お兄ちゃんみたいで嬉しかったです。」


香月:「琴子ちゃん・・・、ごめんね。ただの女の子にこんなことを・・・」


千賀:「いいんですよ。私、逃げるつもりはもうありません。

きちんと自分の役割を全うします。・・・だから、頑張りますね。」


香月:「・・・うん。」



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(外掃除をしている九条)


嗣永:「・・・九条。」


九条:「ああ、珍しいですね。嗣永様がここへいらっしゃるなんて。

どうなさったんですか? ああ、香月様・・・、旦那様のお迎えでしょうか?」


嗣永:「違う。お前に用がある。

・・・これはどういうことだ?」


九条:「なんでしょうか? ・・・ああ、村方文書のページが落丁していますね。」


嗣永:「ちゃんと管理していたのだろうな?」


九条:「ええ。でも、座敷牢に収蔵されているものだけでも何百冊とありますからねえ。

心配なら嗣永家で管理したらよろしいのでは?」


嗣永:「座敷牢の方が安全だろう。

目が見えない贄と嗣永、香月、九条の人間しか入れない。」


九条:「確かにここは村外れですからね。

5年前も、離れていたおかげで燃えることもありませんでしたし・・・。まあ、同じく離れている儀式の間は燃えましたけど。

それで、この文書はどうされますか?」


嗣永:「戻しておけ。」


九条:「かしこまりました。」


嗣永:「・・・此度の瞳返し、成功するんだろうな?」


九条:「どうでしょうかね。私には分かりません。私は代々やってきたことを行うだけですから。」

    

嗣永:「5年前、あいつさえ逃げなければこんなことにはならなかっただろうに。」


九条:「言葉が過ぎますよ。贄は神様なのでしょう?

それによかったじゃありませんか。どうして、儀式の間にいたのか不思議でしたが琴子さまを生きた状態で捕まえることができて。」


嗣永:「・・・いいな、此度の瞳返しだけは失敗するな。」


九条:「失敗しなかったとしても、どうなるかは分かりませんよ。」


嗣永:「どういう意味だ?」


九条:「今回は5年、その前は10年、その前は20年とだんだんと間隔が短くなっています。

今回の儀式が成功しても、またすぐに眼痛やらなんやらと起こるかもしれません。

そうしたらどうするおつもりですか?村長。もう、千賀家はいないんですよ。

それにまた火事が起きれば」


嗣永:「陰郷村ができる前、この土地一体で山火事があり、それを神が消し止めた。」


九条:「・・・何ですか?急に。」


嗣永:「神は力をなくす瀬戸際、美しい金色の神の瞳を人の子に与え、代わりにこの土地を守るようにと仰った。

そして、新たな神となった千賀家の一族、そしてこの土地を守るために、私たち嗣永家がこの陰郷村をつくり上げ、今に至る。

・・・もしも、火事が起これば再び新たな村を作ればいいだけだ。」


九条:「ふふっ、先代と似ていますねぇ。」


嗣永:「は?」


九条:「嗣永の血ですかね。」


嗣永:「馬鹿にしているのか?」


九条:「そんなつもりはありませんよ。すいませんね。この立場になると話し相手が贄か、香月と嗣永の当主ぐらいなものですから。

ついつい口が動いてしまうんですよ。

ああ・・・、でも先代と比べると環様には少し迷いがあるみたいですが。」


嗣永:「・・・黙れ。これ以上口を開けるな。」


九条:「難しいことを仰る。

嗣永様もそろそろお戻りになられたほうがよろしいのでは?目が痛いのはさぞかし辛いでしょう。」


嗣永:「・・・いいか、絶対に成功させろよ。」


(立ち去る嗣永)


九条:「・・・ふふふ、随分と脆いお方だ。」

  


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(夜になり、座敷牢にて話す九条と千賀)


九条:「琴子様。そろそろお時間です。」


千賀:「・・・九条さん。

私の瞳には神が宿っているのでしょうか?」


九条:「なぜ、そんなことを?」


千賀:「九条さんは不思議に思ったことはないのですか?」


九条:「なにがです?」


千賀:「瞳返しも、この村も・・・。全て。」


九条:「さあ・・・。

九条家は瞳返しの祭主を嗣永家に任命されてから務めてきました。

私は代々行ってきたことを行っているだけで、そこに意味を見出していませんから。

それに、誰も疑問など持てなかったと思いますよ。」


千賀:「え?」


九条:「陰郷村は山火事の跡地に作られた村です。

火事の後、最も生き残りが多い嗣永家が中心となって、この村が作られたとされています。

この村にあるどの家も血筋を辿ればどこかで嗣永家の人間と交わっていますから、最初から大きい力を持つ一族だったのでしょう。

力がある村長がこれを信仰しろと、これが正解だと言ってしまえばそうなるんですよ。」


千賀:「千賀家が神の瞳を宿していなかったとしても・・・?」


九条:「千賀家を贄にして、瞳返しを行うのが九条家の務めですから、私からは何も言えません。

まあ、今回の瞳返しを行えば分かりますよ。

村が滅ぶのだったら、そういう運命だったのでしょう。」


千賀:「運命、ですか。なんだか他人事ですね・・・。」


九条:「抗ってもどうしようもないことだってあるんですよ。この世にはね。

さあ、そろそろ行きましょう。ここからもっと山奥へ行かなくてはいけませんので。」


千賀:「・・・はい。」



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(儀式の間にて集う4人)


九条:「これより、瞳返しの儀を執り行います。」


千賀:「・・・。」


九条:「神の瞳が宿りし、この者こそ陰郷村を守りし神である。

天へと瞳を清めに還る、現世に在りし神の名を教え給え。」


千賀:「・・・誰が神の瞳を喰らったのか。」


香月:「琴子ちゃん・・・?」


千賀:「私は瞳返しを成功させなければいけません。それこそが私の役割だと思っています。

両親や兄、今までの贄となってきたもののためにも。」


嗣永:「・・・九条、どういうことだ?」


九条:「どういうことと聞かれましても。

・・・琴子様、どうされたのですか?」


千賀:「私はこの日を待っていました。何も映らない暗闇のなかでずっと・・・。

この儀式を終わらせるために、真実を明らかにする日を待っていました。

今こそ、はっきりさせましょう。

“誰が神の瞳を喰らったのか”。」


香月:「神の瞳を喰らう・・・?」


千賀:「陰郷村ができる前、この土地一体で山火事があり、それを神が消し止めてくださった。

その神がこの土地を守るようにと瞳を与えた一族が千賀家。

そしてこの土地と新たな神を守るために嗣永家がこの陰郷村をつくり上げた。

でも、本当は違う。

神の瞳に魅入られた人間がその瞳を喰らい、神の怒りによってこの地は炎に包まれた。

・・・そうなのでしょう?」


嗣永:「何を仰る?

神は瞳を与えてくださった。そのことは千賀家が一番ご存じのはずだ。」


香月:「・・・琴子ちゃん、どうしてそう思ったんだい?」


嗣永:「香月・・・!」


九条:「まあ、いいではありませんか。瞳返しが成功しなければ困るのでしょう? だったら、聞いて損はないのではありませんか?

成功させるために必要なことなのでしょう?」


嗣永:「おい!」


香月:「環さん落ち着いて。」


九条:「それで・・・、琴子様はなぜそうお思いに?」


千賀:「・・・書物です。贄が閉じ込められる座敷牢には大量の書物がありますよね。」


九条:「ああ・・・。」


千賀:「あの部屋には九条、嗣永、香月の者しか近寄れないし、村人は神である贄を恐れて近づこうとも思わない。

誰の目にも触れさせたくないものを置いておくには都合のいい場所でしょう。

牢にいる贄は本来、赤子の時から目が見えないんですから。」


香月:「目が見えない・・・?あ、先代と琴子ちゃんは・・・!」


千賀:「これを・・・。」


香月:「あ・・・」


九条:「これは・・・村方文書ですね。落丁していると思ったら琴子様がお持ちになっていたのですか。どこに隠していたんだか・・・。」


香月:「・・・。」


千賀:「ここに重要な文書の一覧、そして村の歴史がまとめられていました。

・・・父と母の字です。両親が私に残してくれたんです。きっと。」


九条:「・・・これは抜かりましたねえ。まさか、そんなものを残していたとは。」


嗣永:「だが、それは先代の千賀家当主がまとめたもの。真実かどうか分からないのでは?」


千賀:「・・・確かに真実だとは言い切れません。ですが、嘘とも言えないでしょう。」


九条:「もういいじゃありませんか、嗣永様。」


嗣永:「九条・・・!余計なことを言うな!」


九条:「ですが、本当のことです。

確かに神の瞳は与えられたものではない。魅入られた人間が奪ったものなのですから。」


香月:「今まで聞いてきた伝承は嘘だったのか?」


九条:「ええ。でも、今は九条か嗣永の者しか知りません。

香月家の先代も知っていたのでしょうが、引き継ぐ前に5年前の火事で亡くなられましたからね。」


嗣永:「・・・与えられたか、奪ったかの違いだけだ。

伝承の真実が明らかになったところで、儀式となんの関係はあると仰るので?」


千賀:「そこに、地図が二枚ありませんか・・・?」


香月:「ああ・・・、この村の地図だね。ずいぶんと古いもののようだが・・・。」


千賀:「一つは現存する中で最も古いものです。

その地図には、嗣永、香月、九条の名はありますが千賀の名はありません。

そして、もう一枚の地図はその二年後につくられたものです。」


香月:「あ・・・。ここには書いてあるね。」


千賀:「千賀家はこの中でも新しい一族ということですよね。おかしくないですか?伝承通りなら新たな神となった千賀家を守るために、作られた村なのですから。」


香月:「・・・神の怒りにより火事が起き、その後、ここに陰郷村ができた。

それが本当なら」


嗣永:「最初から村にいる一族ではないか、と。」


千賀:「・・・返しても返しても終わるわけがないんですよ。だって、千賀家ではないのですから。

村長を務めてきた嗣永、その補佐を務めてきた香月、瞳返しの祭主を務めてきた九条・・・。

神の瞳を喰らったのは誰なのか、はっきりさせましょう。」


嗣永:「なにを馬鹿なことを・・・」


九条:「私は嗣永家が怪しいと思いますけどねえ。」


嗣永:「何だと?」


九条:「だって、村を作ったのは嗣永家なのでしょう?」


嗣永:「それが何だというんだ?

私は九条家こそ、怪しいと思うがな。」


九条:「面白いですねえ。なぜそう思うのですか?」


嗣永:「九条家は嗣永と香月の当主、そして贄にしか姿を見せない。

先代の九条と会ったこともないし、お前以外の九条家の人間とも会ったことがない。」


九条:「それは5年前の火事で亡くなりましたからね。

それに、嗣永が決めたことですよ。九条家が瞳返しの祭主を務め、贄に仕えることも。

そして、九条家の存在自体秘匿し、干渉しないということも。」


香月:「・・・ちょっといいかな?」


嗣永:「お前は黙っていろ!」


香月:「ごめんね。環さん。でも少し聞きたいことがあるんだ。

どうして、瞳返しは行われるようになったんだ?」


九条:「と、言うと?」


香月:「神の瞳を喰らった者がいて、その祟りで火事になって。その焼け跡に陰郷村が嗣永家によって作られた。

じゃあ、瞳返し自体はいつから始まったんだ・・・?」


嗣永:「瞳返しは九条が助言してから、行われるようになった。」


九条:「もともと、九条はこの辺りの人間ではありませんでした。

何らかの修行の道中でこの村に流れ着いたのが始まりだとされています。」


千賀:「その九条がなぜ瞳返しを?」


九条:「原因不明の眼痛で苦しむ村人をどうにかしたいと相談され、九条はこう助言したそうです。

”神に瞳を返せばいいのではないか”と。

ですが、瞳返しのやり方や贄の選出は九条ではなく、嗣永が行いましたよ。

ね? 何だか怪しいでしょう。」


千賀:「・・・瞳返しは祟られてから行われ始めた、ということですね?」


九条:「そうなりますね。嗣永様は疑っているようですが。」


香月:「・・・あ」


千賀:「どうかしましたか?」


香月:「僕も教えてもらう前に先代が亡くなってしまったので詳しくは覚えていないんだけど・・・。」


嗣永:「はやく言え。」


香月:「昔、眼痛を訴え始める人が出てきたころ、痛みの程度と瞳の色が関係していたと。」


千賀:「色、ですか?」


香月:「色素が薄ければ薄いほど痛みが重たかったそうだよ。

大昔のことだから関係あるかは分からないけど・・・。」


嗣永:「・・・神の瞳を受け継ぎ、新たな神となった者は、それは美しい金色の瞳をしていた。」


九条:「ああ、そんなことが書いてある書物もありましたね。」


香月:「もしもそれが本当だったら、神の瞳を喰らった一族の眼痛は強いということにならないか?」


九条:「ですが、その書物は嗣永によって作られたものですよ。」


嗣永:「なにが言いたい?」


千賀:「・・・嗣永が嘘を書いたということも考えられるということですか?」


九条:「そんなはっきりとは言っていませんが。でも、あり得る話なのでは?」


香月:「痛みが強い・・・。」


千賀:「香月さん?」


香月:「いや・・・、なんでもないよ。」


九条:「ですが、神の瞳を喰らった者がこの中にいたとしても、今はもう違いが分からないぐらいの色合いですからねえ。」


千賀:「待ってください。

・・・九条さんの瞳は誰もみたことがないのではありませんか?」


九条:「そんなことを言われても、これは決まりですから。」


嗣永:「決まりだとか何だとか言って、本当は瞳の色を隠すためではないだろうな?」


九条:「・・・違いますよ。」


嗣永:「いいから、その布を取ってみせろ。」


九条:「嫌だと言ったらどうしますか?」


嗣永:「お前が神の瞳を喰らった者ということになるな。」


九条:「今ここで贄になっても構いませんよ。私は。

ですが、神に仕える身としてこの布を取ることはできません。そう定めたのは嗣永家でしょうに。」


嗣永:「では、九条家が神の瞳を喰らったのだな?」


九条:「言葉が通じない方ですね。そんなこと一言も言っていません。

そこまで言うのであれば贄になりましょうか?

貴女がそれで納得するのであれば。」


嗣永:「できるものならやってみろ」


香月:「環さん・・・っ!」


九条:「ですが、これでもしも違っていた場合、誰が瞳返しの祭主を務めるのでしょう?

そもそも、この神聖な場を違う血で汚していいのですかね?」


嗣永:「・・・・・・。」


九条:「まあ、村長がそういうのであれば、私が贄になりましょう。」


香月:「待ってくれ・・・っ!」


九条:「・・・はい?」


香月:「違う。違うはずだ・・・。だって、それなら何で今までの瞳返しで抑えることができていたんだ?

年々と祟りが出始める間隔が近くなってはいたが、瞳返しを行えば収まってきた。

だから、千賀家が贄で誰も不思議に思わなかったんだ。」


千賀:「・・・同じ血が流れているから、ですかね。」


香月:「同じ血?」


千賀:「九条さん、さっき言っていましたよね?

どの家も血筋を辿ればどこかで嗣永家の人間と交わっているって。」


九条:「ええ。」


千賀:「それって、千賀家もでしょうか?」


九条:「・・・そうですね。」


香月:「・・・神の瞳を喰らった一族は眼痛が強い。

環さん。だから、僕たちの娘はあんなに苦しんでいるのか?」


嗣永:「・・・・・・。」


千賀:「嗣永さん、貴方たち一族が神の瞳を喰らったのですね。」



=======================



嗣永:「・・・昔、この地には金色の美しい瞳をもった神がいたそうだ。」


千賀:「・・・・・・。」


嗣永:「その瞳に魅入られ、神の力を得るために喰らった人間がいた。

その者は神の怒りにより燃えつくされたこの地に村を築き、神から得た瞳を持って、神としてこの地に在ろうとした。」


千賀:「それが・・・。」


嗣永:「ああ、そうだ。私たち嗣永家こそが神だ。」


香月:「環さん・・・?」


九条:「在ろうとした、ではないですよね?」


嗣永:「・・・ああ。初代の嗣永家当主は瞳が金色だったらしい。そんなものを見れば誰もが信じるだろう。

事実、嗣永は神として崇められ、神の血を欲して、嗣永の血縁者と婚姻する家が多かった。」


千賀:「じゃあ、なんで千賀家が・・・?」


嗣永:「幾年か過ぎ、嗣永の金色の瞳の色も薄れ始めた頃になって、原因不明の眼痛に襲われるようになった。

やがて嗣永家の者だけではなく、他の家の者も苦しむようになった。

それで嗣永は勘づいたんだ。

・・・ああ、これは神の祟りなのだと。」


九条:「嗣永家の血が流れていますからね。村人のほとんどに。」


嗣永:「その時に九条が村を訪れたんだ。神道に精通しているというその言葉を信じて、当時の村長は藁にも縋る思いで相

談したんだろう。

九条は神に瞳を返せばいいと言ってきたが、嗣永はそれを良しとしなかった。

そして、考えついたのだ。嗣永の血が流れている者全員が祟られるのであれば、返す者もまた嗣永の血が少しでも入っていればいいのでは、と。」


千賀:「・・・でも、どうして千賀家になったんですか?ほかにも家はあったのに。」


嗣永:「すでに村にある家から選ぶよりも、余所者を贄にするほうが都合がいいだろう。

・・・丁度、戦火から逃れてこの村に流れ着いた男がいた。

嗣永はその者に家も与え、独り身だったその男に嗣永の血縁者である嫁も与えた。」


千賀:「その男が・・・」


嗣永:「千賀の最初の男だ。そして、その二人の間に子どもが生まれた。


九条:「それが瞳返しの最初の贄、というわけですか。」


嗣永:「その儀式は上手くいき、眼痛も収まった。それからだ。瞳返しを行うようになったのは。」


香月:「でも、嗣永家が神だということになっていたんだろう?」


九条:「そんなものどうにでもなりますよ。 

人間なんてそんなものです。そもそも余所者の千賀家と九条家が行ってるんですから。神の使いだとかなんとかいえば信じてしまうんですよ。」


嗣永:「ああ。お前らだって何も疑わなかっただろう?」


千賀:「・・・嗣永は自分たちが死にたくないがために、今まで千賀家を贄にしてきたということですか?」


嗣永:「私たち嗣永家こそが神だ。

その神がなぜ贄にならなければならない?村人には千賀家こそが神であると信じ込ませた。

だがな、それがどれだけ屈辱的なことだか分かるか・・・?余所者のお前たち千賀家に頭を垂れるのがどれほど屈辱的か!!」


千賀:「嗣永がそうしたんでしょう・・・!?

だったら、貴方たち嗣永家が担えばよかったじゃないですか・・・!」


嗣永:「・・・ああ、だからそうするんだ。

お前ら千賀家による瞳返しはただの時間稼ぎでしかない。

千賀家に流れる嗣永の血がどんどんと薄くなったせいで、瞳返しを行う間隔が近くなり、お前の両親による瞳返しも無意味に終わった。

時は満ちた。

新たな村を築き、嗣永こそが神であると知らしめる時がな・・・!」


香月:「新たな村・・・?」


嗣永:「5年前のあの日、村を作り変えようとして火をつけたのは私だ。」


香月:「環さんが・・・?」


嗣永:「陰郷村は神により燃やされた跡地に作られた。

新たな村を作るのであれば、燃やさなければならないだろう? 嗣永は神なのだからその権利がある。」


香月:「あの日の火事でどれだけの人が亡くなったと思っているんだ!!」


嗣永:「神の行為の前に人の命など無意味だ。」


香月:「環さんのお父さんだって、あの火事で亡くなったんだろう・・・!?」


嗣永:「先代を殺すつもりはなかったんだがな。

まさか、この儀式の間まで燃えるとは思っていなかった。」


香月:「そんな・・・。」


嗣永:「だが、あの日、贄であったお前の兄が死んだことですべて狂ったんだ。

お前は逃げ、お前の両親は何の役にも立たなかった。祟りを収められず、贄の役目も果たせず、惨めに死んだだけ!!

・・・せめて、お前が逃げなければ時間が稼げただろうに。」


千賀:「・・・っ。」


香月:「・・・時間を稼ぐ?」


嗣永:「新たな贄を清め、正しい瞳返しを行うための時間が必要だった。」


九条:「ああ・・・、お嬢様ですか?」


香月:「っ!!」


嗣永:「そうだ。・・・あの子こそ正しい贄の姿だ。」


香月:「なぜ、あの子が贄にならなくてはいけないんだ・・・?」


九条:「だから、嗣永様は香月様との間に子を成したのですね?」


千賀:「どういう意味ですか・・・?」


九条:「おかしいでしょう?両親よりも娘の方が、眼痛がひどいだなんて。」


千賀:「え・・・」


九条:「初代の村長には子供が二人いた。一人は嗣永を継ぎ、もう一人は香月家に嫁いだ。

香月家は嗣永の次に神の血が濃いのですよ。」


千賀:「お二人の娘さんの眼痛が非常に強いのは神の血が濃いからということですか・・・?」


嗣永:「ふふふっ、そうだ。こいつは何も知らなかったからな。何も疑わずに嗣永の婿になった。

・・・お前の父親が火事で死んだのは都合がよかったんだよ。生きていれば止めただろうからな。」


香月:「どうして、そんな・・・。」


嗣永:「瞳返しをしなければいずれこの村は滅びる。」


香月:「でも、だからって・・・!」


嗣永:「嗣永家こそが・・・、私こそが神だ!

ならば、この地を守らなければならないだろう!?」


香月:「本当に、それが君の本心なのか・・・?」


嗣永:「無論だ。」


香月:「・・・っ!」


嗣永:「幼いころから、嗣永は神の一族だと散々言われてきた。神としてあれと・・・!!何度も先代から言われて育ってきた!

神としてあり続けることが私の生きる意味だ・・・!」


九条:「面白いことを仰る。あんなに後ろで怯えていたのに。」


嗣永:「・・・怯えるだと?」


九条:「琴子様のご両親の話ですよ。貴女のお父様は琴子様を逃がしたことに大変ご立腹で、琴子様のご両親にあの手この手で苦痛を味合わせていましたけど貴女は何もしませんでしたね。

ただただ怯えていて、見ていて可哀そうでした。

きっと、村に火をつけるのもさぞかし怖かったでしょう。あんなに燃えて驚いたんじゃないですか?」


嗣永:「黙れ!!」


九条:「嗣永家の当主は自分たちこそが神だという信念から、村で神として崇められる千賀を妬み、贄に暴力を振るう方が多いのですが・・・。環様は琴子様で遊ぶことはしませんでしたね。

特に先代はそれが行き過ぎて、贄であった琴子様のお兄様を殺してしまうんですから。困ったものです。」

   

千賀:「兄は、殺されたのですか・・・?」


九条:「ああ、すいません。配慮が足りませんでしたね。」


千賀:「答えてください・・・、兄は、両親は何をされたんですか?」


九条:「聞いてもいいことなんてありませんよ。そんなこと。」


千賀:「いいから答えてください!!」


嗣永:「・・・お前が逃げなきゃよかったんだ。」


千賀:「どうして・・・、どうして九条さんも止めてくれなかったんですか・・・?

そんな、私が逃げたせいで・・・・私が・・・。私があの時、贄になっていれば父と母は・・・」


九条:「それは関係ないと思いますよ。どちらにしろ、千賀家は殺されていたはずです。

千賀家がいれば、生き残った村人は変わらず千賀家を神として崇めるでしょうから。」


嗣永:「・・・新たな村を作り、娘を贄にすれば瞳返しは終わるはずだ。返すべきものを正しく返すのだから。

そうすればやっと・・・、やっと嗣永家は神の一族として崇められるようになる。」


千賀:「じゃあ、何の意味もなかったんだ・・・。お父さんたちの犠牲は、なんの・・・っ」


香月:「・・・琴子ちゃん。そんなことないよ。」


千賀:「え・・・?」


香月:「九条さん、その刀を取ってくれないか。」


九条:「ですが、これは儀式用の・・・。」


香月:「いいから。」


九条:「・・・かしこまりました。どうぞ。」


香月:「・・・ありがとう。」


嗣永:「お前、なにを・・・?」


香月:「・・・琴子ちゃん。意味はちゃんとあるんだよ。君が今、生きているだけでご両親の行動には大きな意味がある。」


千賀:「香月さん・・・」


香月:「琴子ちゃんのご両親にね、頼まれていたんだ。

あの子のことを逃がすために鍵を開けてやってほしいって。

自分たちが贄になるのはいい。でも、あの子だけは生きていてほしいって。」


九条:「・・・そういうことでしたか。誰が鍵を開けたのか気になっていたんですよ。

ご両親はもう捕らえられていましたからね。」


嗣永:「なにをふざけたことを・・・」

    

香月:「ふざけてなんかないよ。

・・・琴子ちゃんのご両親の話を聞いたとき、正直すごいと思ったんだ。強い方たちだな、と。

でも、今なら分かる。僕だってそうするだろうから。」


嗣永:「・・・っ」


香月:「僕たちの間に愛と呼べるものはなかった。

でも、僕はね娘のことを愛しているんだ。君と僕の娘をね。

だから・・・、僕と君が贄になろう。」


嗣永:「なにを・・・?」


香月:「この刀で腹でも刺して、燃やされながら死ねばいいんだろう?」


嗣永:「自分が何を言っているのか分かっているのか?!」


香月:「分かってるよ。でも、僕は父としてあの子を守りたいんだ。」


嗣永:「・・・っ。」


香月:「環さんは変わった。

でも・・・、君は優しさを捨てきれていなかった。

それに、娘にだって君は・・・」


嗣永:「あの子には、自分のようになってほしくはないと思っていた。」


香月:「・・・」


嗣永:「幼い頃から神だ、神としての自覚を持てと言われて育ってきた私のようには・・・。

・・・だが、もう遅い。」


香月:「何としてでもあの子を瞳返しの贄にするつもりなんだね?」


嗣永:「・・・ああ。

私は良き母であることではなく、嗣永家の当主であることを選んだ。

私が選んだんだ・・・。自分の父のようになることを。

もう戻れない。私はもう嗣永の当主としてでしか生きていけない。私はあの子を贄にするしかないんだ・・・っ!

だから・・・、もう・・・っ」


香月:「・・・分かったよ、環さん。

・・・っ!!」


(嗣永を刺す香月)


嗣永:「・・・っ、ぐ・・・っ」


千賀:「っ!」


香月:「環さん・・・。死んだら君は自由になれるのかな。」


嗣永:「はっ、そんな日は永遠に来ないだろう、な・・・。

私は・・・、嗣永に生まれたのだから。

だが・・・、ふふっ、なぜだろうな・・・。楽になった気がする。

・・・親の愛を知らない私でも・・・、あの子には情があったのだな・・・。

ああ・・・、考えてしまう。もしも、嗣永の生まれでなかったらどうなっていたんだろうかと・・・。」


香月:「環さん・・・。」


嗣永:「そうしたら私は、お前とあの子のことを・・・・・・」


九条:「・・・・・・。」


香月:「・・・素直に殺してくれって頼まないあたりが環さんらしいなぁ。」


千賀:「香月さん・・・」


香月:「愛し方は下手くそだったのかもしれないけど、君は良いお母さんだったんだよ。

あの子の大好きなお母さんだったんだ。」


九条:「・・・。」


香月:「九条さん・・・、火をつけてください。」


九条:「いいのですか?」


香月:「はやくしないとあの世で怒られそうだからね。

・・・仲は良くなかったけど、それでも僕はこの人のことが結構好きだったんだ。」


九条:「・・・。」


香月:「娘はまだ幼いし、甘えん坊だから心配だけど・・・。

でも、生きていてほしいんだ。それと、幸せでいてくれたらこの上なく僕も幸せだな。

・・・・・・あの子のこと、よろしく頼むね。」


千賀:「香月さん・・・っ」


香月:「ごめんね、琴子ちゃん。

本当は君を逃がしてあげたかったんだけど・・・、できなかった。

娘やみんなのことを考えてしまって、できなかったんだ・・・。約束したのにね。

・・・本当、僕にはお似合いの最期だ。」


九条:「琴子様、離れてください。」


(自分の腹を刺す香月)


香月:「ぐ・・・、あ・・・っ。」


千賀:「香月さん・・・!!

・・・やだ、・・・やだよっ!冬也お兄ちゃん!!どうして・・っ!!」


香月:「ふふっ、・・・久しぶりだなあ。そうやって呼ばれるの・・・。

ごめんね、琴子ちゃん・・・。今度こそ、ただの人間として幸せになってね・・・。

はは・・・っ、ご両親との約束、大分遅れちゃったけどこれで果せるかな・・・。」



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(儀式の間が燃えるまで立ち尽くす琴子)


九条:「・・・琴子様、離れてください。貴女まで燃えますよ。」


千賀:「もう・・・、ぜんぶ燃えてしまえばいい・・・。」


九条:「琴子様?」


千賀:「・・・ほらみてください、よく燃えますよ。こんな場所、ぜんぶ、ぜんぶ燃えちゃえばいいんだ。

ふふふ、あはは、あははははははは!!」


九条:「・・・・・・。」


千賀:「死んだ!やっと死んだんだ・・・。お父さんも、お母さんも、兄さんも嗣永に、神に殺された!!

何の意味もないのに、何の意味もなかったのに!!

あははは!!

ざまあみろ!! 嗣永の血を受け継いでいるあの子だって神なんでしょう!?

神はぜんぶぜんぶ奪っていった!!お父さんもお母さんも!!

あの子もお父さんもお母さんも死んでいなくなって独りぼっちだ!!

ふふふ、あははは・・・、ほらあ、私と一緒・・・。独りぼっちで・・・。

・・・・あ、ああ、私と、一緒になっちゃった・・・。みんないなくなって寂しい私と・・・っ。」


九条:「大丈夫ですよ。どちらにしろ、もう終わる命です。」


千賀:「え・・・?」


九条:「ほら、見てください。綺麗ですよ。」


千賀:「なにが・・・」


九条:「ああ、見えないんでしたっけ。村が炎に包まれて綺麗に輝いているんです。」


千賀:「燃えてる・・・?村が・・・?

そんなっ!どうして・・・っ!?」


九条:「言ったでしょう?抗ってもどうしようもないことがあるんです。」


千賀:「でも!!」


九条:「これも神の祟りですよ。貴女たちの言い方を借りるのであれば。

ふふっ、そうやって炎の前で立っていると、5年前を思い出しますね。」


千賀:「5年前・・・?」


九条:「ええ。貴女は覚えていないようですが。」


千賀:「なにを・・・?」


九条:「不思議に思いませんでしたか?

なぜ、貴女の両親が贄となった時、何の意味も為さなかったのか。

確かに本来の贄とは異なりますが。」


千賀:「どういう意味ですか?」


九条:「貴女のご両親は贄になっていませんし、そもそも瞳返し自体行われていません。」


千賀:「じゃあ、お父さんとお母さんは・・・?」


九条:「火事でできなかったんですよ。最後まで。

さっき、嗣永も言っていたでしょう?

まさか、この儀式の間まで燃えるとは思っていなかった、と。

ここよりも村に近い社は燃えず、なぜここは燃えたのでしょう?

・・・貴女は5年前、どうしてここにいたのですか?」


千賀:「あ・・・」


九条:「いいですよねえ。都合の悪いことだけ忘れることができて。

・・・琴子様ですよね? ここに火をつけたのは。」


千賀:「あ、あの日・・・逃げていたけど、やっぱり憎くて・・・」


九条:「何が?」


千賀:「村も、嗣永も神も瞳返しもぜんぶが・・・。それで」


九条:「殺したんですか?ご両親のこと。」


千賀:「ああ・・・、あああああああああああ!!」


九条:「だから、意味なんてなかったんです。嗣永様の言う通り、貴女の両親の死に意味なんて何にも。」

    

千賀:「私が殺した・・・?」


九条:「見ていて面白かったですよ。自分で燃やしといてよくもまあ・・・ってね。

ですがあの日、あなたが贄になっていようと、この村が今日滅びることに変わりはありません。」


千賀:「どうして・・・っ、瞳返しを行ったのに・・・?」


九条:「人は愚かだ。喰ったものをどうやって返すというのです?

ですが、さすがに千賀家の者にはかわいそうなことをしました。面白かったとはいえ、ね。

最期に慈悲でも見せましょう。

・・・さあ、ゆっくり目を開けてみてください。」


千賀:「・・・あ、あぁ・・・。」


九条:「何が見えますか?」


千賀:「・・・美しい、金色の瞳・・・。」


九条:「面白いですよね。人って。なんで誰も気がつかないのでしょう。

もう何百年とみてきましたけど、滑稽で仕方がありませんでした。

私は神に瞳を返せばいいと確かに教えたんですがね。」


千賀:「・・・。」


九条:「最後に教えてあげましょう。愚かな人の子に。

瞳返しをしようと、贄をどうしようと、こうなることは決まっていたのです。

神の瞳を喰らった者は誰なのか。

その答えが分かったところでそれは・・・。

 

神ではなく、神の瞳を喰らった者でしかないのだから。」



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