青い青い夏の日のこと

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登場人物

・ハヅキ(♀)28歳

 三姉妹の長女。両親亡き後、妹二人を育ててきた。

・ナギ(♀)21歳

 三姉妹の次女。大病を患い、安楽死を望んでいる。

・ウミ(♀)16歳

 三姉妹の三女。女子高生。

『青い青い夏の日のこと』

作者:なずな

URL:https://nazuna-piyopiyo.amebaownd.com/pages/6344300/page_202208141705

ハヅキ(♀):

ナギ(♀):

ウミ(♀):

サイドストーリーがあります。お読みになる際は本編を読んだ後にお読みください。

本文

ハヅキ:「ウミ!さっさと朝ごはん食べてよ。」


ウミ:「分かってるよー。もうちょっと待って、あともう少しで巻き終わるから。」


ハヅキ:「あんた、何時だと思ってるの?」


ウミ:「ハヅキ姉ちゃん、うるさい・・・、女子高生の準備は時間が掛かるんだよ。どうせまだ・・・え?は?やばいやばいやばい!!どうして言ってくれなかったの!?」


ハヅキ:「何度も呼んでますー。どうせウミのことだから起きてなかったんだろうけど。」


ウミ:「待って、落ち着いて。今は・・・20分。大丈夫、これなら余裕で間に合う。」


ハヅキ:「はいはい。もう朝ご飯おいてあるからさっさと準備して食べてよね。」


ウミ:「はーい!」


(一階へ降りるハヅキ。)


ハヅキ:「もう、ほんと寝坊助なんだから。」


(テレビをつける)


ハヅキ:「・・・どの番組もおんなじことばっかり。」


ウミ:「もー、前髪失敗しちゃった・・・。本当に夏期講習とか面倒。なんで夏休みなのに学校に行かなきゃならないわけ?」


ハヅキ:「・・・。」


ウミ:「ハヅキ姉ちゃん?

あ・・・。もう、テレビ消すからね。」


(テレビを見ているハヅキに気付き、テレビを消すウミ)


ハヅキ:「あ、ウミ・・・」


ウミ:「・・・こんな話聞きたくないもん。」


ハヅキ:「・・・。」


ウミ:「ねえ、明日本当に行くの?」


ハヅキ:「・・・行くよ。あの子が行きたいって言っているんだから。」


ウミ:「あたし行きたくない。」


ハヅキ:「なに言ってんの。」


ウミ:「あたし絶対に嫌だよ。ナギちゃんが死んじゃうの。」


ハヅキ:「そんなこと言ったって仕方ないでしょ。」


ウミ:「でも・・・!」


(ぎしっと床が鳴る音)


ウミ:「・・・っ」


ハヅキ:「あ・・・」

 

ナギ:「・・・おはよう、二人とも。」


ウミ:「ナギちゃん・・・」

 

ハヅキ:「ナギ、おはよう。」


ウミ:「そうだ!あたし急がないと・・・!」


ハヅキ:「あ!こら!食べながら行くなんてお行儀悪い!」


ウミ:「仕方ないじゃん。数学の先生、怒るとちょー怖いんだもん。

あ、ナギちゃん!学校から帰ったらまた海に行こ!じゃあ、行ってきます!」


(急いで家を飛び出すウミ) 

 

ナギ:「ふふっ、ウミまた寝坊したの?」


ハヅキ:「そ。

さあ、ナギも用意しちゃおっか。体は痛くない?先に薬飲む?」


ナギ:「ううん、大丈夫。」


ハヅキ:「そっか、じゃあ着替えだね。服はこれとこれでいいでしょ・・・。ナギ、手上げられる?」


ナギ:「うん。これで大丈夫?」


ハヅキ:「大丈夫。あ、今日はお店の方が少し忙しくてあまり家の方に顔を出せないんだけど、なにかあったらすぐ呼んでね。ウミも学校が午前だけだからすぐ帰ってくるから。

あと、ご飯なんだけど」


ナギ:「お姉ちゃん。」


ハヅキ:「・・・なに?」


ナギ:「ごめんね。」


ハヅキ:「・・・何言ってんの。別に謝ることなんかないでしょ。」


ナギ:「お姉ちゃん、朝忙しいのに。お店だって私が病気になっちゃったから手伝えなくなって。」


ハヅキ:「いいんだよ。それに朝は特に体に力が入りにくいんだから一人じゃ大変でしょ。別に私は大変だとも思ってないし。」


ナギ:「・・・。」


ハヅキ:「ナギ・・・、明日なんだけど本当に行くの?」


ナギ:「うん。行くよ。明後日の朝までなんだもん。薬の期限。」


ハヅキ:「・・・そう。」


ナギ:「私、良かったって思ってるよ。簡単に自分の好きなところで楽に死ねるようになって。」


ハヅキ:「・・・。」


ナギ:「昔は海外じゃなきゃできなかったけど、この国でもできるようになった。しかも、昔は点滴だったのが今じゃ飲み薬だよ?

薬の処方に関してはとても厳しいけど。それでも病院じゃなくて好きなところで死ねるんだから。死んだ後にすぐに電話しないといけないからお姉ちゃんには迷惑かけるけど・・・。」


ハヅキ:「ナギ・・・」


ナギ:「最後は自分の好きなところで死にたいの。でもどこが良いか分からないから。」


ハヅキ:「・・・うん、分かってるよ。」


ナギ:「ごめんね。二人をこんなお出かけに付き合わせることになって。」


ハヅキ:「ううん、いいの。

ほら、ご飯食べちゃおう。ナギもお腹減ったでしょ?」


ナギ:「・・・うん。」



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ハヅキM:「ナギとウミ。

私の少し歳の離れた可愛い妹たち。

10年前に両親が亡くなってから私が親代わりになって育ててきた子たち。


3年前、上の妹のナギはある病だと診断された。

治療法もなく、全身の痛みと徐々に広がっていく麻痺に苦しみつづけている。

ナギは私たちの知らないところでいつの間にかある選択をしていた。


数年前から認可されるようになった安楽死。

薬の服用により簡単にもたらせる死については今でも議論が続けられている。 


両親が残してくれた店に行くために外へ出ると、夏らしい日差しが眩しくて思わず目を瞑った。

目の前の海も空もどこまでも青い。

私は夏が一番好きだ。なんでかは分からない。でも夏は特別な季節だ。

今は苦しくて仕方がないけれど。

目に映るものも感じるものもすべてが夏でできていて、私は滲んだ涙をぬぐった。


明日、私たちはナギの死に場所を探しに出かける。」



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(学校から帰ってきたウミ) 


ウミ:「ただいまー!!」


ナギ:「お帰り、ウミ。」


ウミ:「今日さあ、山田先生にちょー怒られたのー。」


ナギ:「山田先生って数学の?」


ウミ:「そ。そりゃさ、あたしが馬鹿なのが悪いんだけどさ。だから夏期講習に強制参加だったわけだし・・・。

ナギちゃん、お昼ご飯食べた?」


ナギ:「うん。」


ウミ:「じゃあ、散歩しにいこっか。今日いい天気なのに割と過ごしやすいんだよねー。」


ナギ:「ウミはお昼たべないの?」


ウミ:「あたしは後でいいや。友達からお菓子貰って食べちゃったんだよね。

ナギちゃん、車椅子のる?」


ナギ:「ううん。大丈夫。」


ウミ:「そっか。

あ、帽子かぶった方がいいかも・・・。帽子は・・・、あ、あったあった。はい、ナギちゃん。」


ナギ:「ありがとう。」


ウミ:「これで準備よし。行こっか。」


ナギ:「うん。」


(外へ出るウミとナギ。)

 

ナギ:「ほんとだ。風が気持ちいいね。」

 

ウミ:「でしょー。ナギちゃん、砂浜まで降りる?」


ナギ:「ううん、今日はいいや。」


ウミ:「そっか。」


ナギ:「ウミ、ごめんね。」


ウミ:「・・・なにがー?」


ナギ:「夏期講習の後とか友達とお昼食べたり、遊びに行ったりしたかったんじゃないかなって。

ウミ、私が病気になってからすぐ帰ってくるから。」


ウミ:「・・・別に。帰りたくて帰ってるわけだし。

それにこんな田舎じゃ、もう遊びにいくとこないよ。本当に何にもないんだもん。」


ナギ:「ごめんね。」


ウミ:「もー、謝らないでよ!あたしがナギちゃんといたいだけなんだもん。

あ、ねえ、ナギちゃん。覚えてる?あの砂浜に降りる階段で」


ナギ:「3人ですっころんだこと、でしょ?」


ウミ:「あはは、そうそう!そんなまとめて3人で転ぶことあるって感じだよね。」


ナギ:「私はウミが転びそうになっているのを止めようとして足を滑らせたんだよ。」


ウミ:「あたしは早く海に入りたくて急いでいたら転んじゃった。」


ナギ:「ウミは泳ぐの好きだもんね。」


ウミ:「ま、名前が海なもんで。」


ナギ:「ふふっ、確かに。」


ウミ:「あー、潮風気持ちいい。やっぱ夏がいっちばん好き。」


ナギ:「私も。」


ウミ:「ケーキ食べられるし。」


ナギ:「私たち、3人とも夏生まれだからね。」


ウミ:「たっくさん遊んだよね。この海で。」


ナギ:「家の真ん前だしね。きっとこの海で一番遊んだよね。私たち。」


ウミ:「うん。」


ナギ:「またたくさん遊びたいなあ。」


ウミ:「 ・・・これからもたくさん遊ぼうね。ほら、今年まだ花火してないし。」


ナギ:「・・・ウミ」


ウミ:「あ!!」


ナギ:「な、なに?どうしたの?」


ウミ:「ううん。何でもない。良いこと思いついただけ。」


ナギ:「良いこと?」


ウミ:「ナギちゃんにはないしょー。

ほら、もう少しだけお散歩しよ。」


ナギ:「う、うん・・・。」


 

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(夜、3人で夕食を食べる。)

 

ハヅキ:「こら、ウミ。好き嫌いしない。」


ウミ:「えー、別にいいじゃん。きゅうりって青臭いし、なんか美味しくないんだもん。

それよりもさ!明日、どうするの?どこに行く?」

 

ハヅキ:「な、なに?どうしてそんな急に乗り気なの?」


ウミ:「別に。気が変わっただけ。

ナギちゃんはさ、どこに行こうとか決めてた?」

 

ナギ:「ううん。そんなにはっきり決めてたわけじゃないよ。」


ウミ:「じゃあさ、あたしに任せてくれない?」


ハヅキ:「ウミ、あんた何言ってんの?」


ウミ:「ちゃんと考えるからさ。ね、お願い。」


ハヅキ:「・・・ナギ、どうする?」


ナギ:「分かった。いいよ、ウミに任せる。」


ウミ:「やった!」

 

ハヅキ:「本当に良いの?」


ナギ:「うん。」


ウミ:「ありがと!ナギちゃん!」


ナギ:「その代わり、きゅうり食べてね。」


ウミ:「うげ・・・っ」

 

ナギ:「あははっ。」

 

ハヅキ:「・・・。」


(俯いているハヅキに気付くナギ)

 

ナギ:「・・・お姉ちゃん?」 


ウミ:「ハヅキ姉ちゃん、どしたの?」


ハヅキ:「ううん・・・、なんでもないの。

ご、ごめん。ちょっとトイレ。」


(足早に部屋を出て行くハヅキ)


ナギ:「あ・・・。」


ウミ:「・・・あー、もうっ。ちょっとナギちゃん待ってて。すぐ戻ってくるから。」

 

ナギ:「う、うん。」


(部屋を出て行くウミ)


ナギ:「・・・私、もう死ぬんだ。本当に。」



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(外で海を見ながら泣いているハヅキ)


ハヅキ:「・・・。」


ウミ:「やっぱり外にいた。なんか昔から喧嘩したり、なにか落ち込むことがあったりすると3人とも、海の方に行くよね。」


ハヅキ:「ウミ・・・。」


ウミ:「なに泣いてるの、ハヅキ姉ちゃん。」


ハヅキ:「・・・本当にナギ、死んじゃうんだって思って。まだ実感ないのに、急に本当にいなくなっちゃうんだって。」


ウミ:「・・・あたし、良いこと思いついたの。」


ハヅキ:「え?」


ウミ:「ナギちゃんがまだ生きていたいって思ってくれるようにすればいいんだって。」


ハヅキ:「どうやって・・・?」


ウミ:「明日、3人で思い出めぐりしよーよ。」


ハヅキ:「思い出めぐり?」


ウミ:「そ。明日はお昼前に家出てさ、昔よく遊んだ公園に行ったり、そこでハヅキ姉ちゃんがつくったお弁当食べたり、いろいろ。

そうしたらさ、楽しいこと思い出してまだ3人でいたいなって思ってくれるんじゃないかなって。」


ハヅキ:「・・・そんなの上手くいくかな。」


ウミ:「分かんないけど、でもあたしはナギちゃんに死んでほしくない。」


ハヅキ「・・・分かった。ナギが寝た後、二人で明日のこと考えよ。」


ウミ:「うん。

・・・じゃ、戻ろっか。ナギちゃん一人で待たせちゃってるし。」


ハヅキ:「ねえ、私泣いたって分かる顔してる?」


ウミ:「大丈夫じゃない?ま、ナギちゃんなら分かってるような気もするけど。」


ハヅキ:「あー、私が泣いてどうすんのよね。全く・・・。」


ウミ:「・・・ねえ、ハヅキ姉ちゃん。明日、楽しい一日になるといいね。」


ハヅキ:「なるに決まってるでしょ。私たち3人一緒なんだから。」



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(翌朝、ナギの部屋をノックするウミ)

 

ウミ:「ナギちゃん、おはよー。入っても大丈夫?」


ナギ:「うん。どうぞ。」


ウミ:「おはよ、ナギちゃん。」


ナギ:「おはよ、ウミ。どうしたの?」


ウミ:「今日はね、あたしがナギちゃんの準備を手伝うの。」


ナギ:「ほんと?ふふっ、じゃあ可愛くしてね。」


ウミ:「任せて―!ね、あたしとお揃いにしてもいい?髪型。」


ナギ:「いいよ。」


ウミ:「わーい。痛かったりしたら言ってね。」


ナギ:「うん。

昔、よくウミの髪結んだなぁ。」


ウミ:「あたし、ナギちゃんに髪触られるの好きだった。」


ナギ:「ふふっ、元気でじっとしているのが苦手だったのに髪結ぶときだけは大人しくしてたもんね。

・・・あの時と逆になっちゃった。」


ウミ:「あたしはナギちゃんの髪をいじるのも好きだから楽しいよ。」


(部屋をノックする音)


ハヅキ:「あけるよー。」


ウミ:「ちょ・・・っ」


ハヅキ:「二人とも準備どんな感じ?」


ナギ:「あ・・・」


ウミ:「あー、もうハヅキ姉ちゃん、どうして今来ちゃうの。できてから見せたかったのに。」


ハヅキ:「え?あ、ごめん。」 

 

ナギ:「ふふっ、お姉ちゃんもお揃いなんだね。」


ハヅキ:「やっぱおかしい?ぴちぴちじゃないと似合わないよね、やっぱり。」


ウミ:「ぴちぴちって・・・。ハヅキ姉ちゃんだってまだ若いよ。それにあたしが結んだんだから可愛いに決まってるでしょ。」


ハヅキ:「それウミが結んだことと関係ないでしょ。」


ナギ:「似合ってるよー、お姉ちゃん。可愛い。」


ハヅキ:「え?ほんと?」


ウミ:「だから言ったじゃん。ね、あたしは?」


ナギ:「ウミも可愛いよ。」


ウミ:「ありがとー!ナギちゃんもかわいいー!」


ハヅキ:「ナギ、今日は車椅子いる?結構歩くけど。」


ナギ:「ううん。大丈夫。今日ぐらいは歩きたい。」


ハヅキ:「・・・そっか。分かった。」


ナギ:「一体どこに行くの?」


ハヅキ:「ないしょ―。でも、楽しみにしてて。」


ナギ:「・・・うん。楽しみ。3人で出かけるの久しぶりだもんね。」


ウミ:「ね。

楽しみだな。夏休みって感じ。こうやって家族で出かけるの。」


ハヅキ:「いい天気だしね。」


ウミ:「当たり前でしょ。あたし」


ハヅキ:「晴れ女だから、でしょ。言っとくけど私もだから。」


ナギ:「え?私も自分のことそう思ってた。」


ウミ:「あはは、三人とも晴れ女ならそりゃ晴れるよね。」


ハヅキ:「ほんとにね。」


(三人で笑い合う)


  

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(外を歩く3人)


ウミ:「風はいい感じだけどやっぱりあつーい。」

ハヅキ:「当たり前でしょ。真夏に何言ってんのよ。ほら、ちゃんと水分補給して。」


ウミ:「あーい。」


ナギ:「ね、ここって」


ハヅキ:「そう、お父さんとお母さんのお墓参りしようとおもって。」


ナギ:「それでそんな花束もってたんだ。」


ハヅキ:「ナギも行きたいって言ってたでしょ?」


ナギ:「覚えててくれたんだ。」


ハヅキ:「うん。」

 

ウミ:「ねー、お水持ってきたよ。」


ハヅキ:「ありがとう。」


ウミ:「ナギちゃんはお父さんとお母さんのこと覚えてるの?」


ナギ:「覚えてるよ。そこまではっきりとはしてないけど。ウミは覚えてないか。まだ4歳だったもんね。」


ウミ:「うん。」


ハヅキ:「ウミは絶対にお母さん似。」


ナギ:「ふふっ、確かに。」


ウミ:「そうなの?」


ハヅキ:「うん。どことなくお母さんに似てる。」


ナギ:「二人とも少し変わってたよね。」

 

ハヅキ:「あんまり親らしくなかったかも。自由人って感じで。でも面白い人たちだったよ。」


ナギ:「そうだね。二人とも夏になると私たちと同じぐらいはしゃいでたの覚えてる。」


ハヅキ:「そうそう。それで二人して違う海に行く途中で事故にあって死んじゃうんだもん。本当に呆れちゃう。

・・・でも、親としてはあれかもしれないけどいい人たちだったよ。愛情はあったと思うからさ。」


ウミ:「・・・そっか。」


ハヅキ:「ほら、お線香。」


ウミ:「ありがと。」


ハヅキ:「ナギも。」


ナギ:「ありがとう。」


ハヅキ:「・・・。」


ウミ:「・・・。」


ナギ:「・・・よかった、今日来られて。挨拶しておきたかったんだ。」


ハヅキ:「あいさつ?」


ナギ:「急に行ったらびっくりさせちゃうかもしれないでしょ?」


ハヅキ:「・・・。」


ウミ:「ねー! あたし、おなかへった!はやく公園行こーよ。」


ナギ:「・・・。」


ハヅキ:「・・・。」


ウミ:「え?なに?」 


ナギ:「ふ・・・っ、あははは。」


ウミ:「ナギちゃん・・・?」


ハヅキ:「あはははは・・・っ。」


ウミ:「ハヅキ姉ちゃんまで・・・!なに?なんか変なこと言った?」


ナギ:「ううん。言ってないよ。でも、ずっと昔と変わらないんだもん。」


ハヅキ:「ね。ウミがこーんな小さい時もそうやっておんなじこと言ってた。」


ウミ:「えー、なにそれ。ちょーはずかしいんだけど。」


ナギ:「ウミらしくていいよ。」


ハヅキ:「そうそう。

じゃ、はやく公園に行こうか。少し離れてるし、はやくしないとウミ、泣いちゃうかもしれないし。」


ウミ:「泣くわけないじゃん!」


ハヅキ:「はいはい。・・・行こっか。私もお腹減っちゃった。」



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(昼食後、歩いている3人) 


ウミ:「おなかいっぱーい。」


ハヅキ:「あんたは食べすぎ。」


ウミ:「昔もさ、あたしお墓参りのときお弁当のことしか考えてなかった。」


ナギ:「それはよーく知ってるよ。」


ハヅキ:「今もじゃんね。」


ウミ:「うるさいっ。」


ハヅキ:「にしても午後になるとさすがに日差しきついわ。」


ウミ:「はやくアイス食べたい。」


ナギ:「じゃあ、やっぱりササキ商店に行くんだ。」


ウミ:「あったりー!」


ハヅキ:「ついでに夕飯につかうものも買っていかなきゃ。」


ウミ:「あ、見て。あのもくもくしてる雲。カニに似てる。」

  

ハヅキ:「カニ?」


ナギ:「カニかなあ。どちらかというとクジラじゃない?」


ウミ:「えー、どうみてもカニだよ。カニ!」


ナギ:「そうかなあ。お姉ちゃんには何に見える?」


ハヅキ:「え?あー・・・、そうだなあ。いや、どっちにも見えないかも。」


ナギ:「想像力がないなあ。」


ハヅキ:「ていうか、カニとクジラって大分違くない?」


ウミ:「どっちも海にいるよ?」


ハヅキ:「それは関係ないでしょ。でも大きな入道雲だなあ。」


ウミ:「青い空に白い入道雲。夏だねぇ。」


ナギ:「夏だねぇ。」


ハヅキ:「ほら、もう着いたよ。アイス選びな。」


ウミ:「わーい!」


ハヅキ:「ナギ、食べれる?」


ナギ:「うん。私、バニラのがいい。」


ウミ:「あたしもー。」


ハヅキ:「じゃあ、3人ともバニラね。先にベンチに座ってて。

おばちゃん、アイスキャンディー3本ちょうだい。」


ナギ:「・・・ウミ、バニラすきだったけ?」


ウミ:「チョコの方が好き。でも今日はバニラの気分なの。」


ナギ:「そっか。

あ・・・、みけちゃん。」


ウミ:「え?あ、こんなとこにいたんだ。」


ナギ:「お久しぶりだね、みけちゃん。」


ウミ:「にゃーっだって。お久しぶりーってことかな?」


ナギ:「ふふっ、そうかも。」


ハヅキ:「はい、二人とも。あ、みけ。相変わらず太々しい可愛い顔をしてる猫ちゃんだねえ。」


ナギ:「お姉ちゃん、そのスイカどうしたの?」


ハヅキ:「おばちゃんが三人で食べなって。」


ウミ:「わー!!うれしいー!おばちゃん、ありがとっ!」


ナギ:「いただきます。」

 

ハヅキ:「日陰気持ち―。生き返る。」


ナギ:「ふふっ、大袈裟なんだから。」


ハヅキ:「ここにもよく来たよね。」


ナギ:「お姉ちゃんに毎回アイス買ってってねだってたの覚えてる。」


ウミ:「最初はだめって言うのに結局は買ってくれるんだよね。」


ナギ:「そうそう。」


ハヅキ:「・・・色々我慢させている自覚はあったからさ。何だかんだで甘くなっちゃうんだよ。」


ナギ:「お姉ちゃんはすごいよ。」


ハヅキ:「え?」


ナギ:「だってまだ9歳だった私と4歳だったウミを育ててくれたんだよ。お墓参りに行ったりさ、お弁当つくって公園に連れて行ってくれたり、お出かけもしてさ。

お姉ちゃんだってまだ16歳だったわけでしょ?」


ウミ:「今のあたしと変わらないって考えるとすごすぎ。信じられないもん。」


ハヅキ:「まあ、ね。でもそれが良かったのかも。あんたたちの面倒見るのが大変でお父さんとお母さんのことで落ち込む暇なんてなかったから。」


ウミ:「それって良かったって言えるの?」

 

ハヅキ:「言えるよ。それに楽しいからね。二人の面倒を見るのも。」


ウミ:「ふふん、これからも面倒かけるね。ナギちゃんもあたしも。」


ハヅキ:「・・・なんでそんなにあんたが得意げなのよ。」


ナギ:「・・・。」


ウミ:「・・・あー、もう・・・っ。」


(ナギの方に倒れ込み、膝に頭をのせるウミ)


ナギ:「ウ、ウミ・・・?」


ハヅキ:「ウミー、食べながら寝ないの。」


ウミ:「だって・・・、別にいいじゃん。

あーあ、ナギちゃんの膝あったかーい。」


ナギ:「あつくない?」


ウミ:「違うの。これは心のはなしだから。」


ナギ:「ふふっ、なにそれ。」



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ウミM:「ハヅキ姉ちゃんとナギちゃん。

私の自慢のお姉ちゃんだ。

これからもずっとずっと3人で一緒にいられると思ってた。

でもナギちゃんはいなくなろうとしてるんだ。

 

ナギちゃんの手が優しく私の前髪を梳く(すく)。

泣いているのがバレないように顔を隠した。


青い空、白い入道雲。

あたしは夏が一番好きだ。

なんだか3人の思い出が一番あるような気がするから。

次の夏だってあたしは3人でいたい。その次の夏だって。

 

風鈴の音がちりんとなった。」



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(太陽が傾き始めた頃、3人は坂道を登ろうとしていた。)


ウミ:「ここの坂道ってきっついよね。」


ハヅキ:「ナギ、大丈夫?」


ナギ:「う、うん。」


ウミ:「もう夕焼けだよ。日が沈んじゃう。」


ハヅキ:「ササキ商店で3人そろってうたたねしちゃったし、いろんなところに寄ったから仕方ないよ。」


ウミ:「展望台行きたいなって思ったんだけど、ごめんね。ナギちゃんのこと考えるんだったらやめとくんだった。」


ナギ:「そんなことないよ。今日は調子良いし大丈夫。」


ウミ:「・・・ほんと?」


ナギ:「うん。それに今日は夕日がきれいに見えるだろうから楽しみ。」


ウミ:「で、でも」


ハヅキ:「よーしっ、ナギ。おんぶしてあげる。」


ナギ:「え?」


ハヅキ:「ほーら、はやく。」


ナギ:「でも、私重たいよ?」


ハヅキ:「何言ってんの。あんたたちのこと、どれだけおんぶしてきたと思ってるのよ。昔は二人を抱っこして歩いたこともあるんだから。」


ナギ:「・・・。」


ハヅキ:「ね。」


ナギ:「・・・うん。ありがと。お姉ちゃん。」


ハヅキ:「・・・よし。立つよ。・・・っと。」


ナギ:「大丈夫?」


ハヅキ:「大丈夫。軽いもんよ。」


ウミ:「いいなー!あたしも今度おんぶしてもらお。」


ハヅキ:「私がしてもらおうかな。」


ウミ:「やだよ。重いもん。」


ハヅキ:「ばか。」


ウミ:「いてっ。」


ナギ:「お姉ちゃん。」


ハヅキ:「なあに?」


ナギ:「・・・ううん。何でもない。」


ハヅキ:「・・・。」


ナギ:「昔もこうやって、夕焼けの中この坂道を登ってるときにお姉ちゃんにおんぶしてもらった気がする。」


ハヅキ:「・・・うん。」


ウミ:「ねえ!!後ろ見て!!」


(夕焼けに染まる空と海、街が見える。)


ナギ:「わあ・・・。」


ハヅキ:「きれいな夕焼け。最近で一番きれいかも。」


ウミ:「ね。すっごくきれい。」


ナギ:「ぜんぶぜんぶ夕焼け色。空も海も街も。」


ハヅキ:「展望台まで行く必要なかったね。」


ウミ:「こうしてみると小さい街だよね。

あ、うちの家!」


ハヅキ:「ほんとだ。」


ナギ:「・・・思い出がたくさん詰まった街だね。」


ハヅキ:「ナギ・・・。」


ナギ:「お姉ちゃん、降ろして。」


ハヅキ:「う、うん。」


ウミ:「ナギちゃん・・・?」

 

ナギ:「・・・今日楽しかった。久しぶりにお姉ちゃんとウミとお出かけできてうれしかった。

どこ歩いてもお姉ちゃんとウミとの思い出ばかりなんだもん。

・・・どこで死のうかなって考えるのも忘れちゃうぐらい楽しかった。」


ウミ:「じゃ、じゃあ、死ななくていいじゃん・・・!」


ナギ:「・・・。」


ウミ:「ハヅキ姉ちゃんだってナギちゃんに死んでほしくないんだよ。だから・・・」


ナギ:「分かってるよ。だから、こうして思い出がたくさんある場所に連れて行ってくれたんだよね。」


ウミ:「・・・っ。」


ナギ:「でもね、もう決めたことだから。これ以上生きて居たら迷惑かけちゃうし。」


ハヅキ:「ナギ。

・・・私はナギがこれから先、動けなくなってもなにもできなくなっても迷惑だなんて思わないよ。」


ウミ:「そうだよ!あたしだって思わないよ。何だってするし・・・っ。」


ナギ:「私が嫌なの・・・っ!!」


ウミ:「・・・っ。」


ナギ:「私だって・・・、私だって生きていたかったよ・・・!!もっとお姉ちゃんとウミと一緒にいたかったに決まってるでしょ・・・!!

でも、私はいつか体も動かなくなって、喋れなくなって、笑うことだってできなくなるんだよ・・・。

そしたら私、二人になにも伝えられない。ありがとうもごめんねも、大好きだよも何も伝えられなくなるの。さよならも言えないんだよ・・・?

そんなの嫌だよ。そんな私を二人の思い出の中に置いておきたくない・・・っ!!」


ハヅキ:「ナギ・・・。」


ナギ:「たくさん、たくさん考えたよ。私が何もできなくなったとしても、お姉ちゃんもウミも気にしないでって、大丈夫だよって言ってくれるって分かるもん。

お医者さんだって何度も確認してくるし、何度もやっぱりやめようかなって思った。

それでもやっぱり私は嫌なの。二人にはちゃんと言いたいことを言って笑ってお別れしたい。」


ウミ:「・・・なにそれ。あたしもう家に帰る。」


(走って坂を下りて行くウミ)


ハヅキ:「あ、ウミ・・・っ!!」


ナギ:「・・・。」


ハヅキ:「・・・。」


ナギ:「お姉ちゃん、ごめんね。」


ハヅキ:「何謝ってんの。私もごめんね。

私もどこかで、ナギがやっぱり死ぬのやめよって言ってくれないかなって、そう思っちゃった。」


ナギ:「・・・うん。」


ハヅキ:「でも、そうだよね。ナギがたくさん、たくさん考えて決めたことなんだもんね。」


ナギ:「・・・うん。」


ハヅキ:「きっとウミも分かってくれるよ。大丈夫。だから、ほら泣かないで。」


ナギ:「お姉ちゃん、ごめんなさい・・・っ。」


ハヅキ:「だから、なんで謝るのよ。」


ナギ:「だって、私お姉ちゃんにいっぱい迷惑かけたもん。ずっとお姉ちゃんを頑張らせてきちゃった・・・っ。これから私がお姉ちゃんを楽させてあげようって、そう思ってたのに。

病気になって、もっと迷惑かけて・・・っ。ウミにもあんまりお姉ちゃんらしいことできなかった・・・っ。

ごめんなさいっ、ごめんなさい・・・っ。」


ハヅキ:「ナギ・・・っ。」


ナギ:「・・・っ。」


ハヅキ:「あんたは昔から泣くと止まらなくなる子だったよね。」


ナギ:「・・・。」


ハヅキ:「そんなことにないよ。大変じゃなかったとは言わないけど、でもナギとウミのお姉ちゃんでいられてよかった。私は好きで頑張ってきたんだから。

ウミのこともそう。ウミの面倒をナギが見てくれたからすごい助かったよ。そもそも二人がいなかったら私はきっともう生きてない。すごく幸せ。こんなに幸せなことなんてないよ。」


ナギ:「お姉ちゃん・・・っ。」


ハヅキ:「はいはい。ちっちゃい頃に戻っちゃったみたい。帰ろっか。ほら、手つないで帰ろ。昔みたいにさ。」


ナギ:「・・・うん。」


ハヅキ:「・・・大丈夫だよ。ずっと一緒だから。ね。」


ナギ:「ありがとう、お姉ちゃん。」



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(帰宅後。自室のベッドに寝転んでいる泣きはらした目のウミ。)

(ノック音)


ハヅキ:「ウミ、入るよ。」


ウミ:「・・・。」


ハヅキ:「いつまでふて寝してるの。」


ウミ:「・・・ナギちゃんは?」


ハヅキ:「やっぱり疲れちゃったみたい。薬を飲んで少し眠るって。」


ウミ:「・・・そっか。」


ハヅキ:「・・・ね、ウミ。」


ウミ:「なに?」


ハヅキ:「・・・ナギがたくさん考えてそれで決めたことなんだよ。見送ってあげよう。最後まであの子が楽しかったって思えるように。」


ウミ:「やだ。」


ハヅキ:「ウミ・・・。」


ウミ:「やだやだやだやだ・・・!!ナギちゃんが死んじゃうなんて嫌だ・・・っ!!」


ハヅキ:「そんなこと言ったって仕方ないよ。」


ウミ:「じゃあ、ハヅキ姉ちゃんはナギちゃんが死んでもいいの!?」


ハヅキ:「良い訳ないでしょう!!!」


ウミ:「・・・っ。」


ハヅキ:「私だってナギには生きててほしいよ!!

でも・・・、でもナギが選んだことなの・・・!!」


ウミ:「・・・。」


ハヅキ:「でも、嫌だよ・・・、嫌だ。ナギが死んじゃうの嫌だよ・・・っ。」


ウミ:「ハヅキ姉ちゃん・・・。

あ・・・・。」


(リビングのドアが開いてナギが顔を出す。)


ナギ:「・・・ごめんね、驚かせちゃった?」

 

ハヅキ:「・・・ナ、ナギ・・・?どうしたの?どこか痛い?」


ナギ:「ううん。・・・これやりたいなって。」


ウミ:「これ・・・、花火?」


ナギ:「うん。今日、ササキ商店で内緒で買ってたの。

みんなで花火やりたいなって。・・・だめかな?」


ハヅキ:「いいよ。やろっか。ちょっと待っててね。」


ナギ:「やった。

私、先に外で待ってるね。」


ハヅキ:「うん。」


(部屋から出て行くナギ)


ウミ:「・・・。」


ハヅキ:「ほら、もう泣くの止めて行こ。あの子が笑ってるんだもん。」


ウミ:「・・・そうだね。あたしたちが泣いてちゃだめよね。」


ハヅキ:「ウミ、目がちっちゃくなっちゃったね。」


ウミ:「え?ほんとだ。すっごい腫れてる。えー、やだ、どうしよ。」


ハヅキ:「ほら、いいから行こ。ナギが待ってる。」



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(家の前の浜辺で花火をやる3人)

 

ナギ:「見てみてー!これ綺麗な色。」


ハヅキ:「気を付けるんだよ。火傷しないようにね。」


ウミ:「えー、いいなあ。ナギちゃんの花火。」


ハヅキ:「これじゃない?」


ウミ:「あ、ほんとだ。見て―!ナギちゃんとお揃い!」


ナギ:「ふふっ。ほんとだ。」


ハヅキ:「ねえ、ウミ。花火の火こっちに分けてー。」


ウミ:「えー、やだあ。ろうそくから取ってよ。」


ハヅキ:「ケチ!」


ウミ:「うそだよ。はい、どーぞ。」


ナギ:「線香花火もあるよ。」


ウミ:「あ、いいねー。」


ハヅキ:「線香花火っていえばさ、昔誰が一番続けられるかってやったときにナギが一番最初に落として大泣きしたの。」


ウミ:「え?ナギちゃんが?」


ハヅキ:「そう。ウミは覚えてないか。私に勝ったらアイス買ってあげるって言っちゃったもんだから、負けて大泣き。

ナギはね、よく泣く子だったの。」


ウミ:「ナギちゃんも食い意地はってるじゃん。」

 

ナギ:「もー、ウミほどじゃないよ。」


ウミ:「じゃあさ、リベンジしよ。」


ナギ:「うん。」


ハヅキ:「じゃ、負けた人は家の冷蔵庫にあるアイスをとってくること。」


ウミ:「はーい。

よし、準備はいい?」


ナギ:「うん。」


ハヅキ:「いいよ。せーので火をつけるからね。」


ウミ:「うん。」


ハヅキ:「せーの・・・っ」


(火をつける3人)


ハヅキ:「あ」


ナギ:「あれ」


ウミ:「え?」


ハヅキ:「3人ともすぐ落ちたね。」


(顔を見合わせて笑い始める3人)


ナギ:「あはははっ、こんな持たないことある?ふふっ」


ウミ:「ねっ。3人とも下手すぎ・・・っ。」


ハヅキ:「あはははっ、お腹痛い。」


ウミ:「(笑っていたのに途中から泣き始める)

あははっ、もー、やだ・・・っ、あははっ、もう・・・。ほんとに楽しいんだから・・・っ。」


ハヅキ:「ウミ・・・?」


ウミ:「ご、ごめん・・・っ。もう泣かないって思ったのに・・・っ。」


ナギ:「もう、ウミが泣いたら私も泣けてきちゃうんでしょ・・・。

妹の前では笑っていたかったのに・・・っ。」


ハヅキ:「どうして二人して泣くのよ・・・っ。私も我慢できなくなるじゃない・・・っ。」


ウミ:「う・・・っ、もうやだよ・・・っ、どうして、どうしてナギちゃんいなくなっちゃうの・・・っ。」


ナギ:「・・・。」


ウミ:「ナギちゃんは、ナギちゃんはあたしのこと嫌になったりしなかった・・・?あたしの面倒をみるためにナギちゃん友達と遊べなかったりしたでしょう・・・っ?

あたし、大人になったらナギちゃんにもハヅキ姉ちゃんにもたくさんたくさんお返ししたかったのに・・・っ。」


ナギ:「嫌になるわけないでしょう・・・っ。ウミのこと大好きだよ・・・。ウミといるの楽しかったもん。

もう・・、どうして二人ともそんなに泣くの・・・っ。お姉ちゃんまで。」」


ハヅキ:「私もナギにたくさん我慢させちゃった・・・。ほしいものだって買ってあげられなかったし、寂しい思いだってさせたでしょう・・・っ。」


ナギ:「そんなことないよ。お姉ちゃんとウミがいるだけで私、さびしくなんかなかったよ・・・。

他には何もいらないぐらい、私とっても幸せだった。

楽しい思い出ばっかりだもん。

だからさ、朝になるまで、私が死ぬまでたくさんお喋りしよう。」


ハヅキ:「・・・うん。いいよ。たくさん話そう。」


ウミ:「ずっと話してられるよ。思い出、いっぱいあるんだもん。」


 

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ナギM:「ハヅキお姉ちゃんとウミ。

私の大好きなお姉ちゃんと妹。

3人で泣いているのが何だか面白くて、3人で笑った。


寄り添って昔話をしたりしていたら、朝になり、暗かった空も海も段々と青色になっていく。

左右から感じる優しい温もりに何度何度も泣きそうになる。

夏の匂いがする風が前髪を揺らす。


私は夏が一番好きだ。

お姉ちゃんとウミが好きな夏が好き。

たくさんの思い出がある夏が好き。

そして何よりも3人にとって特別だから。


そんな夏の中でさようならをしたかったんだ。」

 

 

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(三人で座り込んで、寄り添って海をみている。)

 

ハヅキ:「ナギ、寒くない?」


ナギ:「ううん、あったかいよ。」


ウミ:「あたし子供体温だからあったかいでしょ。」


ハヅキ:「子供なのは体温だけじゃないじゃんね。」


ウミ:「うるさいっ。」


ハヅキ:「あ、そういえば昔さ、あの階段で」


ウミ:「3人ですっころんだ、でしょ。この前、ナギちゃんともその話したもんね。」


ナギ:「ね。」


ハヅキ:「あの時、目の前にいたナギが転んだのを止めようとしたのに私まで転んだんだよね。」


ナギ:「え?そうだったの?私はウミが転びそうになって止めたんだよ。」


ハヅキ:「え?ああ、そうだったんだ。ウミは?」


ウミ:「あたしははやく海に入りたくて走ろうとしたら転んだ。」


ハヅキ:「ふふっ、ウミらしい。

この海でたくさん遊んだもんね。」


ナギ:「そう。だからここで死のうと思ったんだ。私の大好きな場所だから。」


ハヅキ:「・・・本当にたくさん遊んだよね。」


ウミ:「うん、楽しかった。」


ナギ:「お姉ちゃんは大変そうだったよね。」


ハヅキ:「そりゃ、ナギもウミも元気だったからね。

確かに大変だったよ。でも・・・っ」


(ナギとウミの頭をくしゃくしゃと撫でまわすハヅキ) 

 

ナギ:「ちょっ、お姉ちゃん。どうしたの?」


ウミ:「もう髪の毛くしゃくしゃになっちゃうじゃん。」


ハヅキ:「こんなに大きくなったんだなって嬉しくなったの。」


ウミ:「・・・ハヅキ姉ちゃん。」


ハヅキ:「二人とも私にとっては大切な妹だからさ。」


ウミ:「あたしもハヅキ姉ちゃんとナギちゃんが大好き!」


ナギ:「あははっ、ウミ苦しいよ。」


ハヅキ:「もう・・・っ。」


ウミ:「・・・。」


ナギ:「・・・じゃ、私もうそろそろ行かなきゃ。」


ウミ:「ナギちゃん・・・。」


ナギ:「どうしよう。色々言いたいことあったのに忘れちゃった。

この薬を飲んだら、1分もしない内に死ぬから。そうしたら、あとはお姉ちゃんよろしくね。ごめんね、最期まで迷惑かけて。」


ハヅキ:「いいよ。そんなの。」


ナギ:「・・・えっとね、まず、お姉ちゃんもウミもありがとうね。

あと、あんまり急いでこっちに来ないでね。私、二人の話を聞けるのを楽しみにしてるから。

元気で、幸せに生きてね。

あと、あとね、たまには私のことも思い出して。」


ハヅキ:「うん・・・、うんっ、分かったよ。」


ウミ:「あたし、ナギちゃんにたくさんお話するから・・・っ。」


ナギ:「ふふっ、ありがとう。

・・・名残惜しくなっちゃうから、もう飲むね。本当にありがとう、二人とも。」


(薬を手に取るナギ)


ウミ:「あ・・・、飲んじゃった・・・。」


ハヅキ:「ナギ・・・っ。」


ナギ:「・・・大好きだよ、お姉ちゃん、ウミ。さようなら、またね。」


ウミ:「あ・・・、あっ・・・やだ・・・っ、ナギちゃん、ナギちゃん・・・っ!!」


ハヅキ:「ナギ・・・っ、ありがとうね。私も大好きだよ。私の妹になってくれてありがとう・・・っ、」


ウミ:「ナギちゃん・・・っ、ナギちゃん、大好きだよ。ずっと大好きだよ・・・っ。」

 

ナギ:「・・・ふふっ、本当に幸せだなあ・・・。」


(ゆっくり閉じられる瞼と力が抜けて行く体)


ナギ:「・・・。」


ハヅキ:「ナギ、ありがとうね・・・。本当にありがとうね・・・っ。」


ウミ:「(泣きじゃくる)」


ハヅキ:「・・・あーあ、ぜんぜん笑って見送ってあげられなかったや。

あ・・・、う・・・っ、本当にいなくなっちゃったんだ。ナギ。もう起きないんだ。」


ウミ:「ナギちゃん・・・、ナギちゃん・・・っ。」


ハヅキ:「・・・もう少し海を見てこうか。」


ウミ:「うん・・・。あと少しだけ、3人で。」



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(一年後の夏)


ウミ:「ねーー!!ハヅキ姉ちゃん、はやくしてー!!」


ハヅキ:「そんな急ぐことないでしょ・・・。砂浜でよくそんなに走れるね。」


ウミ:「若いからねー。

ほらー、アイス溶けちゃうよ。」


ハヅキ:「もう・・・。」


ウミ:「ほら、あとちょっと。」


ハヅキ:「あー・・・、疲れた。」


ウミ:「今日もこの海は眩しいなあ。」


ハヅキ:「ね。空も海もどこまでも青い。

はい、アイス。」


ウミ:「ありがと。

・・・あっちの世界にも海があったりするのかな。」


ハヅキ:「あるよ。多分。」


ウミ:「ナギちゃんも海見たり、泳いだりしてるかな。」


ハヅキ:「きっとそうだよ。」


ウミ:「でもナギちゃんって泳ぐの下手だったよね。」


ハヅキ:「あはは、そういえばそうだね。あんまり泳ぐの好きじゃなかったかも。

でも、分からないよ。今頃、練習してるかもしれないじゃん。」


ウミ:「ふふっ、そっか。楽しみにしとこ。」


ハヅキ:「ね。いつか会ったときにまた3人で遊ぼう。たくさん。」


ウミ:「うん。」


ハヅキ:「あんた、またバニラにしたの?」


ウミ:「まあね。いいものだなって思って。」


ハヅキ:「そ。」


ウミ:「あー、夏だなあ。あたし夏が一番好き。」


ハヅキ:「私も。

・・・あ、そういえば」


ウミ:「なあに?」


ハヅキ:「どうして夏が好きなんだろうって思ってたんだけど、やっと分かったんだよね。」


ウミ:「へー。あたしは思い出が一番あるから好き。」


ハヅキ:「確かに。この街だと夏以外じゃ遊べるところないもんね。」


ウミ:「それもそうだけど、でもなんか夏は3人の季節な気がして好き。」


ハヅキ:「・・・そっか。」


ウミ:「ハヅキ姉ちゃんの理由は何なの?」


ハヅキ:「当たり前のことすぎて見落としてたんだけど・・・」



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ハヅキM:「ナギとウミ。

私の少し歳の離れた可愛い妹たち。

10年前に両親が亡くなってから私が親代わりになって育ててきた子たち。

1年前、上の妹のナギは遠くに行ってしまった。


この目の前の青い空と海よりも遠い場所。

ナギがいなくなった夏は少し寂しい。


それでも私は夏が一番好きだ。

3人の思い出がたくさんあって、ナギとウミが好きな夏が好き。

そして何よりも夏は」



ハヅキ:「私たちが生まれた季節だからだよ。」

 


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