王と死神
・利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。
事前報告で教えてほしい内容、配信媒体などにおけるクレジット表記の決まりなどに関して書いてあります。
登場人物
・アリア・シェーラ・ベルアシア(♀)
シェーラヴィルグ王国の若き王女。多くの命を奪ったことから、死の女王と呼ばれ恐れられてきた。
・ライナス・スレード(♂)
市民革命の中心にいる男。若き革命の英雄。
*ナレーションが最初と最後にあります。おすすめは最初のをアリア、最後のをライナスの役をされている方がたる方法です。ですが、同じ方がやっても、逆でも構いません。
『王と死神』
作者:なずな
URL:https://nazuna-piyopiyo.amebaownd.com/pages/6219425/page_202206282359
アリア・シェーラ・ベルアシア(♀):
ライナス・スレード(♂):
サイドストーリーがあります。お読みになる際は本編を読んだ後にお読みください。
本文
N:シェーラヴィルグ王国。西に位置したこの大国は、数々の戦争で勝利を収めたことから、軍神王とも呼ばれる第10代国王レイノルズ王によって最盛期が築かれた。
しかし、華々しい歴史はこの代で途絶え、第11代国王ローレンス王の代では原因不明の熱病が国民の間で流行し、多くの命が失われた。
豪遊王と呼ばれたローレンス王の死後、財政難に陥るなか、うら若きアリア王女が第12代国王として即位したが、再び病が流行した。さらに隣国のアルス共和国と同盟を結び、グレイスアーノルド帝国との戦いに同盟国として参戦することとなった。
流行り病と戦争により多くのものを失い、市民の暮らしは貧しくなるばかりであった。
しかし、王族たちの生活の華々しさは変わることなく、国民は王への不満を抑えきれず、ついに革命が勃発した。王族に仕えてきたフェリア家当主ジルデーテと、ログーラという田舎町の若者 ライナス・スレードらが中心となったこの革命の勢いは衰えず、王族が次々と処刑されていき、季節は冬から春へと移ろいつつあった。
そして、あたたかな春の日。多くの命を奪ったことから、死の女王と呼ばれた第12代国王アリア・シェーラ・ベルアシアが処刑されることとなったのだ。
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ライナス:もう起きていらしたのですか?まだ夜明け前だというのに。
アリア:ええ、最後ですもの。眠るのはなんだかもったいないでしょう。これから嫌でも眠りにつかなくてはならないの に。ところであなたは?
ライナス:ああ、うれしくて目が覚めてしまいました。かの恐ろしい死の女王が処刑される朝ですからね。
アリア:あら、そう。元気そうで何よりだわ。で、何の用なのかしら?革命の英雄がわざわざ、こんなところへいらして。
ライナス:いや、特に用もなかったのですが、取り乱す貴女を見ることができれば面白いとは思っていました。
でも、期待外れでしたね。
アリア:どうすることもできないのだから取り乱したところで疲れるだけでしょう。それに、そんなの私にふさわしくないわ。
ライナス:・・・つまらないな。もっとみっともなく泣きわめくと思ったんですが。
アリア:残念だったわね。でも、そんな姿美しくないもの。
ライナス:罪人風情が美しさなんて気にしたところで仕方ないでしょう。ああ、そうか。もう言葉遣いを気にする必要はありませんでしたね。お前は罪人なのだから。
アリア:・・・そうね。
ライナス:お前はなぜ処刑されるのか分かっているのか?なぜ、国民が革命を起こしたのか?
アリア:ええ、分かっているつもりよ。分かったときにはどうすることもできなかったのだけれど。
ライナス:国民はお前を恨んでいる。
アリア:貴方も恨んでいるの?
ライナス:心の奥底から。だからこそ、この国で革命を起こした。お前達王族を殺したくて仕方がなかった。流行り病で何人もの国民が死んで、国が弱っていくなか戦争に首つっこんで。国民の暮らしは苦しくなるばかりだってのに、王族たちは変わらずきらびやかな生活を送って・・・っ!
・・・お前は街の様子を見たことはあるのか?
荒れ果てて、毎日の食事に困り果てて、路上には親を亡くした子供たちの死体がごろごろ転がってんだ。
それが、お前が築いた国だ。見たらいい。
ああ、処刑後にお前の首を掲げて街を練り歩くらしいからよく見えるだろう。よかったな。
アリア:そう。素敵な特等席ね。楽しみにしておくわ。
ライナス:なあ、気分はどうだ?
国民に目もむけず、好き勝手毎日を送って。お前もお前の父親もそうだ。王族は自分の利益しか見ていない。
今まで、虐げられてきた国民たちによって、処刑台に送られる気分っていうのは、どんな気分なんだ?
アリア:まだ、分からないわね。貴方はどんな気分なの?
ライナス:そりゃ、良い気分だろうよ。国民たちはな。死の女王がやっと死ぬんだ。めでたし、めでたしで締めくくりたいだろう?
アリア:めでたし、めでたしね。もう私以外の王族は全て処刑されたの?
ライナス:ああ。そろそろ市民たちも飽きてきたみたいだが、今日は賑やかな日になるだろう。なんたってもっとも憎い王が処刑される日だ。お祭り騒ぎにもなるだろう?
アリア:処刑に対して飽きるだなんて恐ろしいわね。
ライナス:飽きるさ。毎日何人も首切られてんだ。
ああ、そうか。女王様は知らないか。処刑されてんのはお前たち、王族だけじゃない。この城に仕えていたやつも、お前らをかばった者に関しては処刑されてんだよ。
アリア:・・・王族以外も手にかけたの?
ライナス:お?やっと表情が変わったな。でも、仕方ないだろう? 中にはいたんだよ。お前らのことを助けようとした頭のおかしいやつも。この革命を批判するやつも。もともと王党派の奴なんて、目障りで仕方なかった。
でも、散々な目にあってきた国民からすれば、頭にくるだろう? だから、狩りのように捕まえては殺して、晒した。本人もその家族もな。
アリア:だからって、殺すことないじゃない。
ライナス:ずいぶんとお優しいんだな? 死の女王様は国民のことは何も気にかけなかったてのに。国民の命などお前からすれば、ガラクタも同然か。
アリア:そうね。そうだわ。国民なんてどうでもよかったのよ。だって、私は神の血を引く王族で、国民は価値もなにもない人形のようなもの。そう教えられてきたんだもの。
ライナス:神は神でも、死神だったみたいだけどな。
アリア:王は神に愛された者にしかなれない。その証として金の髪と青い瞳をもって生まれてくる。
ライナス:急になんだ? そんな言い伝え、この国のもんなら子どもでも知っている。その言い伝えを信じているやつらもこの革命に反対していたな。まあ、晒された死体を見てからは表だって発言するやつはいなくなったけどな。
俺の田舎の母親も反対していたが、なぜこんな散々な目にあっても、信じられんだろうな? 馬鹿な政策ばかりして、お前よりも飼い犬のエミリーの方がよっぽど利口だ。
アリア:・・・そう。
あなた、反対していたお母様も殺したの?
ライナス:さすがに殺してない。口論にはなったが、最終的には得意料理のキッシュ作って見送ってくれたよ。
アリア:あら、いいお母様なのね。ああ、でも育ての、だったかしら。
ライナス:あ?
アリア:だって貴方の生みの親、ナターリア・エバンズで合ってる?メイドの分際で王に色目を使った、大変だらしない女性で、最終的に不敬罪で処刑されているでしょう?
ライナス:・・・お前
アリア:王に色目を使うなんて、すごいわよね。そんなに自信があったのかしら?まあ、そんな方から生まれたのなら、貴方の口の悪さも、自信過剰なところも全て納得いくわ。
ラインス:ふざけるな・・・。
アリア:なに?聞こえないわ。
ライナス:ふざけるな!お前ら、王族のプライドを護るためだけに母さんは死んだ!!母さんに手を出したのは、先王だった!王からの要求だ。メイドの母さんがそれを断れるわけがないだろう!!
アリア:ローレンス王が?
ライナス:あいつは、ローレンス王は多くの妃を迎えながらも、世継ぎに恵まれなかった。そんな中、気まぐれでメイドだった母さんに手を出した。でも、あれだけの妃との間には子をなさなかったのに、母さんは王の子を孕んでしまった。
アリア:・・・。
ライナス:ここまでは良かったんだよ。神の血を引いていれば、国民の目を欺ければそれでいいと思っていたんだろう。
しかし、生まれてきた子は金の髪も青い瞳も持って生まれてこなかった。そしたらどうだ。王もその周りも母さんとその子を、恥ずべき存在だと散々なじった。
・・・俺はその後、城の狭い物置のような場所に幽閉された。
母さんは、俺を育てながら、今まで通りメイドとして勤め上げ、終われば二人で僅かながらの飯を食って、息をひそめて眠った。
だが、12年前の夜、突然、王が部屋に来た。奴は母さんにこう言った。お前らはもう用済みだ。何かの役に立つだろうと思ったが何の役にも立たなかったな、と。そして、母さんは殺された。俺の目の前で。
その後、俺はなぜか殺されず、ログーラという田舎町で一人で暮らしている女のもとに置いて行かれた。ちょうど、子どもを亡くしたばかりだというその女は、亡くなった子と同じ名前を付けた子犬と暮らしていた。優しい人だった。
そこで生活して1年がたったころだろうか。
王の世継ぎのお披露目があった。
驚いたよ。そんなこと、知らなかったからな。でも、当たり前だ。王の世継ぎは、7歳になるまで存在を秘匿され、7歳の生誕日に国民に披露されるまで、城内のごく一部のものしか、知らない。でもな、結構な衝撃だったんだよ。 あのくそ野郎の血を受け継いでいるのが、俺以外にもいたことに。
その姫君は王と同じ、金の髪と青い瞳をもっていた。俺がもって生まれなかったものを、すべてもっていやがった。
アリア:・・・懐かしいわ。もう、11年も前になるのね。
ライナス:ああ、懐かしいな。あの時、お前のことを心底うらんだ。俺がもしも、それを受け継いでいたのであれば母さんは死なずに済んだかもしれない。そんなことも知らず、のんきな顔をしているお前が腹立たしかった。そして、そのお前が女王に即位し、馬鹿みたいな政治を繰り返してきたことも、すべてが腹立たしい。
母さんが死んでから12年間、俺はお前らを、王族を殺すことだけを考えて生きてきた。
アリア:貴方は王になりたかったの?
ライナス:・・・ああ、その時はそう思っていたのかもしれないな。
アリア:もしも、貴方が金の髪と青い瞳を持っていたのであれば、間違いなく王になっていたでしょうね。
ライナス:髪と瞳の色で王が決まるとは、本当にくだらない国だな。
アリア:私もそう思っているわ。
ライナス:私は神の血を引いている、神に愛されている、と豪語していたのにも関わらず、よくそう言えるな。
アリア:だって、本当にそれだけなんだもの。私は髪と瞳だけで選ばれた。
ねえ、貴方。私のお父様とお母様が誰だかご存じ?
ライナス:馬鹿にしてるのか。ローレンス王と第3王妃だろう。
アリア:ええ、そうよ。第3王妃がなぜ亡くなったかは?
ライナス:急な病だったはずだ。詳しくは知らないが。
アリア:違うわ。第三王妃はね、殺されたの。
ライナス:なに?
アリア:殺されたのよ。貴方のお母様と同じく、王族のプライドを護るためだけに。
ライナス:なんでだ? メイドだった母さんと王妃じゃ、話が違うじゃないか。
アリア:もっと根本的なことなのよ。
ライナス:根本的?
アリア:第三王妃はね、私のこと生んでないのよ。
ライナス:なんだ?じゃあ、王がお前のことを生んだとでもいうのか?
アリア:もっと面白いことを教えてあげるわ。この世にローレンス王の血を受け継いでいるのは、たった一人だけなのよ。
ライナス:・・・どういう意味だ?
アリア:そのままの意味よ。王の血を受け継いでいたとしても、金の髪に、青い瞳を持って生まれるとは限らない。でも、王の血を受け継いでいなくても、この髪と瞳をもって生まれることだってあるとは思わない?
ライナス:まさか・・・
アリア:ええ、そうよ。私は、王族の血筋とは全く関係ない。ただ、金の髪と青い瞳を持って生まれてきてしまっただけなの。
ライナス:そんな偶然があるわけないだろう。
アリア:あってしまったのよ。
世継ぎがなかなか生まれないことで焦った王族や大臣たちは最初、他国から金髪碧眼の子供を連れてこようとしていた。しかし、なぜかは分からないわ。でも、見られてしまったのでしょうね。田舎町に、金の髪と青い瞳をもった子供がいることを耳にして、そして私は見つかって親元から離された。
まだ、6歳だったのよ。泣いて泣いて、でもどうしようもないことが分かってからは大人しくしていたわ。
ライナス:それが、12年前・・・。
アリア:貴方のお母様が殺されたのは、私が見つかったことが大きかったのでしょうね。
城に連れてこられて、私は今までの名前を捨て、この国の王になるために多くのことを教わったわ。
王になるのだからわがままで、傲慢でなければならない。国民が歯向かったのであれば、処刑すればいい。だって貴女は神で、国民は変わりがきく、ガラクタのようなものなのだから、とね。
ライナス:ふざけた教育だ。そんな教えに何の意味がある?
アリア:意味はあったわよ。少なくともそれを私に教えたジルデーテにはね。
ライナス:ジルデーテと言ったか?
アリア:ええ、言ったわ。
あなたと同じく、この革命の中心にいるのでしょう?先王の代から、仕えながら機会をうかがっていたのでしょうね。貴方
が生まれた時点で、彼はこうなることを計画していたはずよ。
ライナス:まさか・・・だから俺はあの日、殺されずに生かされたのか?
いつか、革命を起こすその時のために。
アリア:ええ、きっとね。
だって、貴方ほど王族を恨む人はいないもの。私を探し出したのも教育したのも、ジルデーテだったのよ。国民から恨まれ、滅ぼされるためだけの教育だったけど。
私は彼の策略通り、とんでもないわがまま娘に育ったわ。もともと貧しい暮らしをしていたから、きらびやかな生活はおとぎ話のようで、楽しかったのよ。でも、それが当たり前になって。そして、気づいたら私は王に即位していた。
ライナス:おかしいとは思わなかったのか?
アリア:ええ、何も思わなかったわ。悪いと思ったらすぐ処刑するのも、わがままを言うのも。だって、それが私に望んでいる王としての姿だと思っていたから。でもね、しばらくしてから間違いに気が付いたのよ。どうしようもない間違いに。
ライナス:・・・。
アリア:疫病も戦争も、大臣たちの言うがまま、頷いていればいいと言われてきたわ。でも、頷けば頷くほど、明らかに国は弱っていった。そんなこと、私だってさすがに気が付くのよ。
疫病で、戦争で、貧困で、多くの国民が亡くなったわ。それでも、国民はたくさんいる。でも、代わりはいないのよ。亡くなった国民の代わりなんてどこにも。弱っていくのに決まってるわ。そんなの。
国は国民がいるから成り立っている。それに気づいたのが遅すぎたの。なにかしら国民の救済措置を取ろうと考えても、ろくに知識を得てこなかった私には何もいい考えが思いつかなかったわ。大臣たちに助言しても、女王様は気にしなくていいのです。我々にお任せくださいとしか言わなかった。
でも、なにかしたくて、城外にこっそり出てたの。そして、私の青い瞳を見ても、王だと分からなそうな貧しい幼い子供に話しかけた。その子に、食べ物やネックレスとかいろいろとあげたの。
ライナス:馬鹿な考えだ。そんなことをすればその子供は・・・
アリア:ええ、死んだわ。私があげたもののせいで、目をつけられて・・・。
ライナス:・・・そのぐらい、他の奴らも生きるのに精一杯なんだよ。
アリア:国民が望む王になろうとしたわ。でも、もう遅かった。遅すぎたのよ。
王を、王族を滅ぼそうと、そんな革命の話を耳にして決めたの。私は国民が恐れるとおりに、死の女王になろうと。
ライナス:なぜだ?
アリア:だって、王が、私が死ぬことが国民の総意なのでしょう?
貴方も言っていたじゃない。めでたし、めでたしで締めくくりたいと。だったら、国民の手によって死ぬことが、私の女王としての最大の務めだわ。
ライナス:・・・お前の話を聞いたところで、この国の結末をつくったのは自業自得だとしか思えないが、お前はここから逃げようとは思わなかったのか。
アリア:思わなかったわよ。そんなこと。幼かったころはここから逃げたら、お母様が殺されてしまうのではないかと思っていたし、即位してからは、そんなこと考えたこともなかった。
あなたは王になりたかったと言っていたけど、今はそう思っていないの?
ライナス:思わない。国に王はもういらないと思っている。
アリア:・・・そうね。それがいいわ。王族は多くの罪を重ねて成り立っていたもの。
ライナス:・・・それは、革命も同じだ。王族以外にも多くの人間を殺す羽目になった。
革命の王だと、英雄だと俺を呼ぶものもいるが、死神だと呼ぶやつもいる。
アリア:貴方が王だったのなら、この国は滅ばなかったかもしれないわね。
ライナス:・・・。
アリア:ああ、言い忘れていたわ。貴方のお母様、ナターリア・エバンズのこと、実は知っていたの。黙っていてごめんなさいね。
ライナス:は?
アリア:暇で仕方なかったから国王が今まで処刑してきた罪人のリストをさっきまで眺めていたのよ。でも、すべては記されていなかった、だから聞いておきたかったの。貴方の口から。
ライナス:なぜ名前を知っているのか思っていたが、そういうことか・・・。名前が塗りつぶされて・・・。
おい、お前・・・これ
アリア:だってこの国に、国王に処刑されたんだもの。その書簡を好きにできるのは私が最後よ。無実なのに処刑された国民は多いわ。もう戻らない命だけれど、後世に罪人として名前が残るより良いでしょう。
ライナス:そんなことをしても、俺はお前を許しはしないぞ。
アリア:ええ、それでいいわ。そうしてちょうだい。
・・・もう、そろそろ時間ね。おしゃべり、楽しかったわ。次に会えるとしたら、地獄かしらね。
ライナス:そうかもな。
アリア:上手にやってちょうだい。痛いのは嫌よ。
ライナス:わがままな女だ。しくじったりはしないから安心しておけ。
アリア:それと、私、国民に謝ったりなんてしないわよ。処刑台で泣いたり、取り乱したりもしないわ。
だって、そんなの死の女王らしくないもの。
ライナス:最後まで、そこにこだわるのか。
アリア:ええ、こだわるわ。
ログーラに住む、お母さんの作るキッシュが大好きなあの子はもう、12年前からどこにもいないのよ。
ライナス:・・・。
アリア:私は一人の少女以前に一人の人間で、それ以前にこの国の王である。後悔することは許されない。美しく、前を向いて背負わなくてはいけないの。そして、死の女王として国民に誰よりも憎まれ続けなければならない。
私は、この国最後の女王、アリア・シェーラ・ベルアシアなのだから。
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N:今から約400年前、死の女王として恐れられたアリア・シェーラ・ベルアシアは処刑され、シェーラヴィルグ王国は長い歴史に終止符を打った。
その後、ライナス・スレードらを中心に、新たに共和国として再建され、今に至る。
アリア女王は多くの国民の命を奪ったことで死の女王と呼ばれているが、国民の苦しみを和らげるために、救済措置をとろうと奔走したことや女王としての威厳はありながらも、少女らしい一面を持ち合わせた優しい方だったという証言がいくつか見つかった。このことから、王としての素質は問われるが、死の女王から連想される冷徹で残酷な人柄ではなかったのではないかと考えられる。
また、ライナス・スレードは革命の英雄とされてきたが、王族だけではなく、何人もの国民を処刑したことで、中には彼こそが死の革命者だと呼ぶ声もあったそうだ。特に、同じく革命の中心にいたジルデーテを処刑したことで、その声は強くなった。しかし、大変賢い、判断力のある人物だったらしく、アリア女王と比較され、彼が王であればシェーラヴィルグ王国は滅ばなかったとされている。
シェーラヴィルグ王国については研究が進んでいるが、いまだ解明されていないことが多い。その一つがアリア女王の墓である。
リーベザル教会に王族の墓があるが、アリア女王の墓には遺体を埋めた痕跡が見当たらないのである。先日、ライナス・スレードの出身地としても知られる町、ログーラの跡地で女王のものではないだろうかという墓が発掘された。
墓に女王の名前は記されておらず、学者たちは一部の女王信者が隠すために偽名を刻み、ここに埋めたのではないだろうかと考えた。首を斧かなにかで切り落とされたような特徴がみられたことで期待が寄せられたが年代は一致したものの、DNAからして、王族のものではないことが分かった。革命の際に殺された国民の一人だと考えられる。
400年前、シェーラヴィルグ王国は滅んだ。
女王は、革命の英雄は、国民は何を思っていたのだろうか。この墓の少女は何を思いながら亡くなったのだろうか。
今も、エミリーという名のごく普通の町娘はログーラの森の中で静かに眠っている。
読んでくださってありがとうございます。
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サイドストーリーではライナスの側近視線での革命、そして本編よりも未来のお話を見ることができます。
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