Loulou
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登場人物
・ルル(♀)
魔女によって館に閉じ込められた少女。15歳だが記憶を消されたため、どこか幼い。
・魔女(♀)
ルルに呪いをかけた魔女。
『Loulou』
作者:なずな
URL:https://nazuna-piyopiyo.amebaownd.com/pages/6219377/page_202206282340
ルル(♀):
魔女(♀):
サイドストーリーがあります。お読みになる際は本編を読んだ後にお読みください。
本文
魔女:ある静かな山奥に、緑に覆われた古い館が立っておりました。その館には、魔女によって一人の少女が長年閉じ込められておりました。館に来る前までの記憶を消された少女は、館から出ると死んでしまう呪いにかけられてしまったのです。これは、恐ろしい魔女と可哀そうな少女の物語。
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ルル:ねえ、魔女さん。
魔女:どうしたの? あまり動かないでちょうだい。切りにくいわ。
ルル:あ、ごめんなさい・・・。あのね、さっき、お菓子を焼いていたでしょう?
魔女:あら、どうして知っているの?
ルル:だって、とってもいい匂いがしたんだもの。
魔女:ふふふ。ばれちゃったわね。ケーキを焼いていたの。リンゴを入れてみたのよ。明日のおやつにしましょう。
ルル:リンゴ?
魔女:ええ、リンゴ。リンゴはわかるでしょう?
ルル:分かるわ。何度も食べてきたもの。でも・・・
魔女:なに?
ルル:・・・毒リンゴではないないのよね?
魔女:毒リンゴ?
ルル:本で読んだの。
とってもこわーい魔女が毒リンゴをお姫様に食べさせてしまって、そのお姫様は死んでしまったのよ。
魔女:ああ、白雪姫ね。そんなものを貴女に食べさせるわけないでしょう。
今までだって、何度も食べてきたのに貴女生きてるじゃない。
ルル:確かにそうね・・・。疑ってごめんなさい。
魔女:それにしても、ずいぶん文字が早く読めるようになったのね。
ルル:毎日、たくさん読んでいるもの。お勉強したのよ。でも、まだ簡単なのしか読めないわ。
私、記憶がなくなる前では、ちゃんと読めてたのかしら?魔女さん、知ってる?
魔女:どうだったかしら。分からないわ。
ルル:そう・・・。
魔女:もうそろそろ切り終わるわよ。
ルル:あのね、私。魔女さんに前髪切ってもらうの好きよ。
魔女:はじめて聞いたわね。そんなこと。
ルル:髪ってどうして伸びるのかしらって思ってたけど、きっと切ってもらうために伸びるんだわ。
魔女:そうね。
ルル:それに髪にもいろんな色があるのよね。
魔女:貴方は真っ黒。
ルル:魔女さんは茶色いわ。日に当たるととってもきれいなのよ。
魔女:ありがとう。ルルの髪もきれいだわ。
ルル:ふふふ。ありがとう。
魔女:はい、おしまい。次は薬よ。
ルル:ええ。
魔女:腕を捲って。そう・・・、良い子。少し冷たいわよ。
ルル:魔女さん
魔女:なあに?
ルル:どうしてずっとここに薬を塗るの?
魔女:え?
ルル:だって、痛くないんだもの。確かに、変な色になってしまっているけど。
魔女:・・・痛くなくても、跡が残ってしまっているでしょう。いつか消えるように塗っているのよ。
ルル:・・・もしも消えなくても、私、全然かまわないわ。それに、薬を塗られるのも好きだもの。
魔女さんの手は柔らかくて、あたたかくて気持ちがいいから。
魔女:・・・そう。
ルル:そういえば、魔女には名前がないのが決まりなの?
魔女:どうして?
ルル:魔女さんも、お話の中に出てくる魔女も、みんな魔女としか呼ばれてないから。
魔女:名前のある魔女もいるかもしれないけど、魔女には必要ないのよ。役名みたいなものだから。
ルル:役名?
魔女:そう。悪役と同じ。
ルル:でも、魔女さんは悪くないわ。魔女には優しい人もいるの?
魔女:どうしてそう思うの?
ルル:確かに、おとぎ話にでてくる魔女はみんな怖いのよ。でも、魔女さんは怖くないわ。
魔女 :もしかしたら、いるのかもしれないわね。優しい魔女も。でも、私は違う。
邪魔な記憶を消して、貴女をここに閉じ込めているじゃない。
ルル:でも、
魔女:はい、塗り終わったわ。
もう、眠る時間よ。おしゃべりはここまで。
ルル:・・・。
魔女:・・・ルル?
ルル:まだ、眠たくない。
魔女:ベッドに入って目を閉じてれば眠くなるわよ。
ルル:……そうかしら。
魔女:ほら、ちゃんと布団をかけて。いい子。ろうそく、消しちゃうわね。
ルル:魔女さん、おやすみなさい。
魔女:おやすみなさい、ルル。
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魔女:・・・あの子は文字が読めるようになったのね。記憶がなくなる前に出来ていたことができるようになった。
成長するのも当たり前だわ。ここへ来て五年だもの。そろそろ終わりなのかもしれない。
でも・・・、外の世界は疫病が猛威を振るう恐ろしい世界。
そんな世界であの子は生きていけるのかしら。
一人で前髪も切りそろえられないあの子が。
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魔女:ルル、やっぱりここにいたのね。また、空を見ていたの?
そろそろ、お茶にするわよ。
ルル:このお部屋の窓が一番大きいんだもの。今日はいいお天気なのね。
魔女:そうね。
・・・ねぇ、ルル。
ルル:なあに?
魔女:外の世界へ行ってみたい?
ルル:外の世界? ・・・分からないわ。
見たことのない世界だもの。少し気になるけど、行くとなると怖くもあるし、でも、見てみたくもあるわ。
魔女:……そう。
ルル:本で読んだみたいに綺麗なお姫様や、かわいいうさぎさんとか、小鳥さんとか素敵なものばかりならいいんだけど、きっとそうじゃないでしょう?意地悪な人もたくさんいるはずだわ。
魔女さん、記憶をなくす前の私は、お外の世界がどんな世界か知っていたのでしょう?
魔女:・・・そうね。
ルル:私が知らないことをたくさん知っていて、文字もきっと読めて・・・。
この窓から見る空だけじゃない、いろんな空を知っていたわ。きっと。
ねえ、記憶をなくす前の私はどんな子だったの?
魔女:・・・どうだったかしら。もう覚えていないわ。
ルル:そうなの?そう、残念だわ。
魔女:・・・いつか、いつか、呪いが解かれたら分かるわよ。それまで、楽しみにしておきなさい。
ルル:え?
魔女:ほら、いらっしゃい。お茶にしましょう。
ルル:え、ええ。
・・・魔女さん
魔女:なに?
ルル:ううん、何だか悲しい顔をしているから。
魔女:・・・気のせいよ。お茶を用意するわ。こっちで待っていてちょうだい。
ルル:あの
魔女:ミルクティーにたっぷりのお砂糖でしょう。分かってるわよ。
ルル:すごいわ。よくわかったわね。
魔女 ええ、私は恐ろしい魔女だもの。じゃあ、取ってくるわね。
ルル:・・・もしも、呪いが解かれてしまったら、私はどこで生きればいいのかしら。
=================
魔女:そろそろ、あの子に薬を塗らないと・・・。
ルル:魔女さん、いるかしら?
魔女:ルル?どうしたの?
ルル:魔女さんがくれた本、ぜんぶ読み終わったのよ。それを自慢しに来たの。
魔女:あら、すごいわね。あんなにたくさん絵本を渡したのに?
ルル:ええ、そうよ。
魔女:ふふふ。すごいわ。
ルル:でも、また読むの。今度はつっかえずに読むわ。
魔女:・・・・・・。
ルル:魔女さん?
魔女:・・・ルル、こっちへいらっしゃい。
ルル:お部屋に入っていいの?魔女さんのお部屋には入っちゃダメっていうお約束でしょう?
魔女:今日は特別よ。いらっしゃい。
ルル:ふふっ。お部屋に入るのなんだかドキドキするわね。
わあ、たくさん本が置いてあるわ。私には難しくて読めないけど。
魔女:この紙にはなんて書いてあると思う?
ルル:この三文字のこと?
魔女:そう。
ルル:読めないわ。私、まだ簡単なのしか読めないもの。
魔女:これは、山(やま)、これは、木(き)ね。
ルル:山も木も何かは分かるわ。窓からも見えるもの。
魔女:そうね。じゃあ、これは?
ルル:・・・分からないわ。
魔女:ヒントね。白くて、冷たくて、冬になると空から降りてくるものよ。
ルル:あっ、雪だわ。
魔女:正解。
ルル:魔女さんは雪を見たことがあるの?
魔女:あるわよ。何回か。
ルル:いいなあ。本物の雪はどんな感じなのかしら。
魔女:綺麗で、儚くて。
・・・まるで、貴女みたいね。
ルル:は、かない?どういう意味なの?
魔女:貴女には難しかったわね。
いつか分かるわよ。ほら、もうこんな時間。部屋に戻って薬を塗りましょう。
ルル:うん。
あ、魔女さん。私、その難しい文字も勉強したいわ。
魔女:勉強熱心ね。分かったわ。ほら、行くわよ。
ルル:うん。
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魔女:あの子も寝たみたいだし、一度外を点検しないと。
死者数も感染者数もここまで来てしまったら、必死になるはずだわ。
それにしても、・・・「山木 雪」。この文字を見ても、何も思い出したような素振りはなかった。
少し色褪せたわね。このカルテも。
勝手だわ。自分で思い出してほしいだなんて。臆病者。あの子に本当のことを教えて、この世界が終ってしまうのが怖いのよ。記憶をなくす前の自分のことを知りたがるだなんて、それだけで怖いの。
あの子に、しっかりと選ばせてあげたいのに。
ふふふ、情けなくて笑えてくるわね。
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魔女:ルル、またここにいたのね。今日の空はどうかしら?
ルル:今日は、天気が少し悪いわ。雨でも降るのかしら。
魔女:久しぶりね。最近、良い天気が続いていたから。少し肌寒いもの。あとで、何か羽織らないとだめよ。
ルル:分かったわ。風邪をひくと辛いもの。
魔女:一度だけ、熱を出したことがあったわね。
ルル:もう、嫌よ。あんな辛い目にあうのは。
でも、魔女さんのおかげですぐよくなったから、やっぱり魔女さんってすごいのね。
魔女:看病しただけよ。でも、そうね。また、風邪をひかれたら困るわ。あとで、暖かいものでも淹れましょう。
ルル:う・・ん・・・
魔女:・・・ルル?
ルル:魔女さん、あれなあに?
魔女:あれってなに?
ルル:ほら、あそこ。遠いけど、何かいるわ。なにかしら?
魔女:っ!!ルル、こっちにいらっしゃい・・・っ
ルル:あ、ま、魔女さん!?どうしたの!?どうしてそんな引っ張るの?
魔女:・・・何でもないわ。
ルル:魔女さん?どこに行くの?
魔女:・・・・・・。
ルル:・・・私のお部屋?
魔女:・・・早すぎるわ。そんなはずない。そんなはずは・・・っ
ルル:魔女さん?
魔女:・・・っ。大丈夫よ。大丈夫。ルル、お願いがあるの。
ルル:お願い?
魔女:貴女はこの部屋から出てはだめ。私が良いというまでここにいるのよ。
わかったわね。
ルル:どうして?
魔女:私はとっても悪い魔女だから、誰かが退治しにきたのよ。
でも、大丈夫。私、強いから。返り討ちにしてやるわ。
ルル:・・・分かった。ここにいればいいのね。
魔女:そう。いい子ね。
ルル:本当に帰ってくる?
魔女:大丈夫。すぐ戻ってくるから。
ルル:行ってらっしゃい。魔女さん。気を付けてね。
魔女:ええ、行ってくるわ。
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ルル:雨が降ってきたわ・・・。
もう眠らないといけない時間なのに、魔女さんはまだ帰ってこないのね・・・。
もしかして、退治されてしまったのかしら。
そんなはずないわ。だって、強いって魔女さん言ってたもの。魔女さんは嘘なんてつかないもの。
もしかして、お部屋に帰っていたりしないかしら?
そうね、そうだわ。お部屋から出てはだめって言われたけど・・・怖いもの。
行ってみましょう。
(部屋に向かったルル)
・・・魔女さん? いるかしら?開けるわよ。
・・・まだ、帰ってきていないみたい。
あ、このまえ魔女さんがみせてくれた文字が書いてあるわ。たくさん難しいことが書いてあるのね。
あれ・・・、私、これ見たとことがある・・・?
この文字・・・っ。私、しってる。これ、これは・・・っ
(魔女):A18190
ルル:ちが、う。違う、違う違う違う違う違う。私、知らない。私、わたしはルルだもの。
違う人だもの。違う、知らない。読めない。なんだっけ。なんで・・・っ
(魔女):A18190
ルル:なんで、そんなことするの。痛い。止めて。もう、やだ。痛い。痛いの。痛いよ。痛い痛い痛い痛い痛い!!
やだよ・・・っ、た、すけて・・・。殺してくれたらいいのに・・・。
殺してくれたら・・・。
・・・そうだ。私、私は
魔女:ルル!!
ルル:・・・ル、ル?
魔女:大丈夫よ、ルル。 落ち着いて、息を吸って、吐いて。
ルル:ル、ル。私はルル・・・。
魔女:ごめんなさいね、帰りが遅くなって。
ルル:・・・ご、ごめんなさい。私、わたし
魔女:大丈夫よ。
ルル:お部屋から出ないでって言われてたのに・・・っ。ごめんなさい、ごめんなさい・・・っ。
魔女:こちらこそごめんなさいね。少し手こずっちゃって。でも、大丈夫よ。ちゃんとやっつけてきたから。
ルル:・・・ほんとうに?
魔女:ええ、言ったでしょう? 私、強いって。
ルル:・・・うん。
魔女:かわいい顔が涙で台無しよ。ほら、お部屋に戻りましょう。
ルル:あのね
魔女:なあに?
ルル:一緒に寝てくれる?
魔女:・・・良いわよ。きっと、あったかいわね。さあ、部屋に戻るわよ。
ルル:・・・。
=================
魔女:やっぱり二人だとあったかいわね。
ルル:・・・うん。
魔女:眠れそう?
ルル:・・・魔女さん。
魔女:なあに?
ルル:ルルは何でルルなの?
魔女:どういうこと?
ルル:ルルってお名前は魔女さんが付けてくれたのでしょう?
魔女:そうよ
ルル:どうしてルルなのかなって。
魔女:・・・可愛い子。
ルル:え?
魔女:可愛い子。
私のかわいい子、そんな意味があるの。
ルル:・・・ふふ。
魔女:おかしなこと言ったかしら?
ルル:魔女さんは嘘をつかないけど、一つだけ嘘をずっとついているのね。
魔女:嘘なんて言ったかしら?
ルル:恐ろしい魔女だなんて嘘だもの。最初から。
魔女:・・・私は魔女なのよ。貴女に呪いをかけた恐ろしい魔女。
ルル:最初から、そんな素敵な名前を付けて、ずっとそばにいてくれたのに?
魔女:・・・違うわ。やさしさじゃないのよ、これは。
ルル:・・・そう・・・、眠たくなってきたわ。
魔女:そうね・・・。あら、また前髪が伸びたのね。切らないと・・・。
ルル:う、ん・・・。
魔女:おやすみなさい。ルル・・・。
=================
魔女:・・・ちゃんと眠っていたし、もう大丈夫ね。
迂闊だったわ。部屋の鍵をかけ忘れた挙句、こんなもの出しっぱなしにしてたなんて。
・・・少しは思い出したのかしら。分からないわね。
怖い思いをさせてしまった。あの子からすれば、記憶を消してしまいたいほど辛い記憶だっただろうに。
それをあの子に教えて、本当にいいのかしら?もしかしたら、何も知らずにいたほうが・・・。
・・・・・・何を言っているの。もう、あの子は大人よ。知って、考えて、選ばないといけない。
わかってるの。わかってる。
優しさなんてないのよ。自己満足でしかないのだから。
外にいたやつらはどうにかしたけど、もうきっとここも隠せない。死体もすぐ見つかってしまう。
外の世界が終わるか、私たちの世界が壊れるか、だなんて思ってたけど、さきにこっちが壊れそうね。
・・・明日、あの子の前髪を切ってあげないと。
あの子は、まだ一人で切ることができないのだから。そばにいてあげないと。
=================
ルル:魔女さん、おはよう。
魔女:ルル、おはよ・・・、その前髪
ルル:初めて一人で切ってみたの。でも、ダメね。難しいわ、魔女さんみたいに上手に切れなかった。
魔女:そ、う・・・。
ルル:・・・魔女さん?
魔女:ルル、こっちへ、いらっしゃい。
ルル:うん・・・。
魔女:よく眠れた?
ルル:魔女さんのおかげね。よく眠れたわ。
魔女:そう。
ルル:昨日はごめんなさい。私、大丈夫よ。寝たら元気になったわ。
魔女:そう。
ねえ、ルル。
ルル:なあに?
魔女:今日は特別に、私が物語を読み聞かせてあげるわ。
ルル:本当に?私の知らないお話?
魔女:ええ。
・・・昔々、あるところに小さな村がありました。
ある晩のこと、その村で恐ろしいことが起こりました。村に魔女が呪いをかけてしまったのです。村は燃え、村人たちは魔女の呪いによって苦しみはじめました。その呪いは村だけではなく、世界へと広がっていきました。
ああ、もう駄目だと思っていると、そこに神様が現れたのです。助けを求める村人に神様はこう言いました。
「村人から一人選び、差し出されよ。その身に魔女の呪いを封じることで、この世界は助かるだろう。
ただし、選ばれた村人は大変苦しむことになる。それでも、良いというものがいれば、名乗り出るがよい」
村人たちは恐れ、誰も名乗り出ようとはしませんでした。
すると、一人の女の子が名乗り出ました。
「神様、私はみんなを助けたいです。お願いします。どうか、私の体に呪いを封じ込めてください」
女の子が、そう言うと神様は女の子の体に呪いを封じ、呪いは消え、人々は苦しみから解放されました。
苦しむ女の子を哀れに思った神様は、女の子を一際輝く美しいお星さまにしてあげました。
その美しいお星さまはいつまでもいつまでも優しく村を、世界を照らしてあげましたとさ。
おしまい。
ルル:何だか、悲しいお話ね。
魔女:ルル。
もしも、貴女がこの女の子だったら、貴女は名乗り出る?世界を救おうとするのかしら?
ルル:・・・もちろん、世界を救うわ。
助けたいもの。大切な人を。
魔女:・・・・・・。
ルル:・・・魔女さん?
魔女:・・・そう、よね。
ルル、貴女に大切な大切なお話があるわ。
ルル:大切なお話?
魔女:もう貴女は一人で生きていけるのかもしれない。
前髪も一人で切れるんだもの。
ルル:魔女さん?
魔女:もう、呪いを解かないといけないわ。
ルル:何を言っているの?
魔女:でも、その前にご飯ね。
ほら、髪もさらさらになったわ。朝ご飯を食べましょう。
ルル:・・・分かったわ。
魔女:・・・・・・。
ルル:魔女さん?
魔女:ルル、少しここで待って居てちょうだい。
ルル:どうしたの?
魔女:何だか、すこし嫌な感じがするの。
胸騒ぎ、みたいな
ルル:・・・・・・
魔女:大丈夫よ、きっと気のせい。ちょっと様子を見てくるわね。
ルル:・・・分かったわ。ちゃんと帰ってきてね。
魔女:あら、前だって帰ってきたでしょう?強いって言ったじゃない。
ルル:そう、だったわね。
行ってらっしゃい。私はお空でも眺めているわ。
魔女:ええ、行ってくるわね。
=================
ルル:・・・どこまで行ったのかしら。
帰ってこないわ。もう、もう夜も通り越して、朝になるのに。
なにか、あったのかしら・・・。
なにか・・・・
魔女:あら、ルル・・・、ずっとここにいたの?
ルル:魔女さん!!どこにいっ、てた、の・・・・・?
魔女:ごめんさいね・・・。私、強いのよ、だなんて言ってたのに。
ルル:なんで、魔女さん・・・っ。ケガしてるの?どうしよう、どうしましょう・・・!!
魔女:大丈夫よ・・・。少し、撃たれただけだから・・・。
それよりも、時間がないわ。
ルル:でも、でも魔女さんが死んじゃう・・・・!!
魔女:大丈夫。どちらにしろ、もう全部おしまいだから・・・。
ルル。私の話を聞いてちょうだい。
ルル:でも、でも・・・・
魔女:ルル
ルル:・・・・・・
魔女:お願い。
これを聞いたら、貴女の呪いは解けるから。
ルル:・・・・・・
魔女:今から、話すのはね、大切なお話よ。
ルル:魔女さん・・・。
魔女:いい子ね。本当はゆっくり話したいんだけど。
じゃあ・・・そうね、先に外の世界の話をしましょう。
今、外の世界はある疫病が猛威を振るっているの。とても恐ろしい病気。たくさんの人が亡くなった。治療薬も何年もかけているのに見つからない。
・・・世界の終わりが見えているわ。
そんな中、今から7年前にある研究が開始された。人の体に抗体を作りだして、それを治療に役立てようとしたのよ。
でも、被験体に負荷がかかりすぎる。痛みも苦しみもあまりにも大きい。だから、黙っていればばれることのない、都合の良い存在が見つかればいいと考えた。そこで、目を付けたのが身寄りのない子供だった。どうやったのかは知らないけど、孤児院から研究所に子供が送られてきた。
それが、
ルル:山木雪 識別No.A18190 。
魔女:・・・貴女、いつから
ルル:昨日、貴女の部屋でナンバーを見たとき。
魔女:・・・そう。気づかなかった。
ルル:・・・。
魔女:よく逃げなかったわね。魔女も呪いも全部嘘だったのに。
私のことだって、思い出したのでしょう?研究員の一人だった私のことも。
ルル:うん・・・。
魔女:貴女はひどいことをたくさんされた。目をそむけたくなるようなことをたくさん。苦痛ばかり与えられて、いつからかお人形のように動かなくなった。
死んでいないのに、生きていない。
・・・二年間の苦しみの末、遂に貴女の体から抗体が発見された。でも、そこで終わらなかった。
もう解放してあげてほしいとどれだけ言っても、聞いてくれさえもしなかった。
耐えられなかったのよ。
だから、私は重要書類と一緒に貴女を攫った。
ここへ連れてきたとき、喋らなかった貴女が初めて喋ったの。ねえ、なんていったと思う?
殺して、って言ったのよ。
なんでそんなことをこの子が言わなくちゃダメなの?本当なら幸せのなかに生きていなきゃだめだったのに。
ルル:・・・貴女は優しいのね。
魔女:違う。違うわ。
もし、優しいのであれば、心から貴女の幸せを願うのなら、他にもっとやり方があったもの。目を覚ましたら記憶をなくしていた貴女を見て、安心したの。まっさらな貴女は何でも信じてくれるもの。
都合がよかった。
私は悪い魔女で記憶をなくし、外へ出たら死んでしまう呪いをかけたのよって、そんな言葉さえも貴女は信じた。
ルル:それは、私の身を護るためだったのでしょう?
魔女:・・・貴女には外の世界のことを一切教えなかった。
最初はあの苦しみから、貴女を救うことが目的だった。でも、いつからか貴女を手放せなくなった。貴女と二人の世界があまりにも心地よくて。
文字も何もかも、簡単なものしか教えなかった。そうすれば、貴女は一人で生きていけないでしょう?ここにいるしかない。そしたら、私は貴女のそばにいて、面倒をみなくてはいけない。
途中から自己満足だった。自分本位の罪滅ぼしだった。
貴女、腕に痣があるでしょう?毎日薬を塗ってた場所。あれも、研究所で負ったケガなのよ。
薬を塗っても消えることはないって分かってたのに、罪悪感から塗り続けた。なにも変わらないのにね。
でもね、いくら心地よくても、長くは続かないと分かってた。
だから、いつかはどんなに酷なことでも、貴女に全部話して、貴女が選んで生きていかないとって、
そう思ってたのに。
こんな、土壇場になってしまったわ。
呪いなんてどこにもないのよ。
もう貴女はここを出ていける。自由なの。
選びなさい。貴女は抗体を持っている。それは奇跡よ。多くの人を救えるかもしれない。
でも、逃げてもいい。どこか好きなところへ行ってもいいわ。
自分で選びなさい。
ルル:貴女はどうするの?
魔女:私はここにいるわ。もう、ここもすぐ見つかるでしょう。
ここにはいろいろとあるからね、すべて燃やすつもりよ。もう、一階の奥の部屋がそろそろ燃え始めるころだわ。
時間がない。急いで。
ルル:・・・あのね
魔女:なあに?
ルル:私はもうあの時のことをうっすらとしか思い出せないの。苦しくて痛くて辛かったということしか分からない。
でもね、貴女のことは少しだけ覚えているの。
魔女:え?
ルル:貴女だけ、私を優しく触ってくれた。
誰も気にしないのに、貴女だけは前髪を切ったり、薬を塗ってくれた。覚えてるの。優しくて、あったかいの。
いつか、この人と二人だけの世界があって、そこで幸せに過ごせたらいいのにって。
貴女は私にとって唯一の幸せだった。
魔女:・・・・・・。
ルル:本当に、ここで二人で暮らした日々は幸せだったわ。
だから、呪いを解かれてしまうのが怖かった。そしたら、私はここにいられないような気がして。
魔女:・・・・
ルル:私、決めたわ。貴女と一緒にいる。
魔女:呪いなんてないのよ。自由にどこへでも行けるのよ。
ルル:わたし、答えたでしょう?
もちろん、世界を救うわって。
魔女:じゃあ、なんで
ルル:私の世界はここだもの。魔女さんと二人だけの世界が私の世界。
魔女:・・・
ルル:私は山木雪でも、もちろんA18190でもなくて、ルルでいたいの。魔女さんに呪いによって閉じ込められたルルでいたいの。それが、私の本当なの。
魔女:・・・ルル。
ルル:ね、いいでしょう?
魔女:・・・本当に良いのね?
ルル:ええ。
魔女:・・・ふふ。
ルル:魔女さん?
魔女:ごめんなさいね。貴女がいてくれたら寂しくないわ。
ルル:ふふ、おかしな魔女さん。
見て、魔女さん。朝陽よ。今日はいい天気になりそうね。
魔女:そうね。
ルル:ルルじゃない私は、いろんな広い空を知っているのかもしれないけど、この窓から見る空は知らないのよね。
魔女さんとみる空は知らないのよね。私はこの窓から見える空が1番好きよ。
魔女:私も好きよ。
ルル。
ルル:なあに?
魔女:幸せ、だったかしら
ルル:幸せだったわ。とっても素敵な毎日だった。
魔女:そう
ルル:魔女さん
魔女:なあに
ルル:私をルルにしてくれてありがとう。
魔女:ふふふ、何だかくすぐったいわね。
ルル:魔女さんは幸せだった?
魔女:もちろんよ。
ルル:ああ・・・、眠らないで魔女さんのことを待っていたから眠たくなってきちゃったわ。
魔女:そうね。私も眠たいわ・・・。
ルル:魔女さん、お願いがあるの。
魔女:なあに?
ルル:起きたら、前髪を切りそろえてもらえないかしら?
魔女:そうね。ジグザグだものね。
ルル:私、魔女さんに前髪切ってもらうの好きなの。これからもずっと・・・。
やくそく、よ・・・。
魔女:ええ、約束。
ルル:おやすみなさい・・・。
魔女:ルル、私のかわいい子。
おやすみなさい。
ルル:・・・・・・
魔女:ふふふ、そうね。
前髪、また、切って、あげないと・・・。
=================
ルル:ある静かな山奥に、緑に覆われた古い館が立っておりました。その館には、魔女によって一人の少女が大切に守られておりました。
魔女と少女は二人だけの小さな世界で、幸せな眠りにつきました。
これは、優しい魔女と幸せな少女の物語。
読んでくださってありがとうございます。
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サイドストーリーではルルと魔女の昔のお話を見ることができます。
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