優しい春に名前を付けるとするならば

・利用前に注意事項の確認をよろしくお願いいたします。

 事前報告で教えてほしい内容、配信媒体などにおけるクレジット表記の決まりなどに関して書いてあります。

登場人物

・キミ(♀):何も覚えていない子供

・神様(不問):優しい優しい神様


*後書きをお読みになってください。

*台本自体の注意事項

 利用規約とは別に”優しい春に名前を付けるとするならば”に関する注意事項です。

 ・話の内容的に演じるのであれば、一度前読みしたうえで、更にあとがきを読んでから演じることをお勧めします。

『優しい春に名前を付けるとするならば』

作者:なずな

URL:https://nazuna-piyopiyo.amebaownd.com/pages/8369910/page_202410151022

キミ:

神様:

本文



キミM:「あたたかい春の日だった。

見上げた窓から空が見えて。

それで、わたしは何を思ったんだっけ?」



===============



(夜空を見ている神様にキミが声をかける)


神様:「……」


キミ:「……かみさま?」


神様:「おや、起きてしまったのか?」


キミ:「うん」


神様:「まだ起きるには早すぎるな。いつもは寝坊助なのに」


キミ:「かみさまはお外で何をしているの?」


神様:「僕は空を見ていたんだよ」


キミ:「空?」


神様:「ああ。星と月を見ていたんだ。

朝はまだまだ先のようだよ。君はもう少し眠った方が良い」


キミ:「どうして寝なきゃだめなの」


神様:「夜になると君は眠くなるだろう? 眠いのなら眠った方が良い」


キミ:「かみさまは?」


神様:「僕は眠くないから起きているんだよ。君みたいに大きなあくびもしないだろう?」


キミ:「あくびをしなかったら寝なくてもいいの?」


神様:「それは屁理屈だね。ほら、もう一度ベッドに戻りなさい」


キミ:「……やなの」


神様:「なぜ?」


キミ:「最近ね、夢を見るの」


神様:「どんな夢?」


キミ:「知らない部屋の中で、空を見ている夢」


神様:「その夢を見るのが怖いから寝たくないのかい?」


キミ:「ううん、怖くないよ。でも不思議な感じがするの」


神様:「……そうか」


キミ:「ねえ、かみさま」


神様:「なんだい?」


キミ:「夢の中でね、わたしね、春だなって思うの」


神様:「春か」


キミ:「でもね、わたしは春が分からないの」


神様:「そうだね。君は何も覚えていないからね」


キミ:「ここは春なの?」


神様:「どうだろう。春に近いのかもしれないなあ。でも春だって思うのは、違う季節があるからこそそう思うんだろう。ここに季節はないから春ではないのかもしれないね」


キミ:「そっか。かみさまは春を作れないの?」


神様:「作れないよ」


キミ:「かみさまなのに?」


神様:「神様じゃないよ。君が勝手にそう呼んでいるだけだろう?」


キミ:「だって、神様が名前を教えてくれないから。」


神様:「僕には名前がないからね」


キミ:「ないの?」


神様:「ああ、ないね」


キミ:「そっか……。あ、かみさまだってわたしのことをキミって呼ぶよ」


神様:「キミにはきっと素敵な名前があるはずだから、勝手に名前を付けたくはないんだよ。春に冬と名付けてしまっては困るだろう」


キミ:「よく分からないよ」


神様:「そうだね。難しい話だ」


キミ:「……」


神様:「……君は春を知りたいのかい?」


キミ:「うん」


神様:「だったら、君がいた場所に帰ることができたら分かるかもしれないね」


キミ:「だったら、いいや」


神様:「なぜ?」


キミ:「だってわたし、かみさまとずっと一緒にいたいから」


神様:「ずっと一緒か」


キミ:「うん。わたし、優しい神様のことが大好き。だから、ずっと一緒にいるんだ」


神様:「分かった分かった。

とりあえず、君は早く寝るんだ。

明日の朝起きられないとキミが面倒みている花も困ってしまうだろう?」


キミ:「うん」


神様:「起きれなかったら、僕が代わりに水やりをしてあげようか」


キミ:「ちゃんと起きるもん」


神様:「どこに植えたのかだけでも教えてくれたらいいのに」


キミ:「内緒。咲いたら見せてあげるね」


神様:「ふふっ、花は咲きそうなのかい?」


キミ:「うん。きっともう少しで咲くよ。蕾がついてたもん」


神様:「そうか。

森に行った帰りに、一緒に連れて帰りたいって言うからなんだろうと思ったら、まさか花だったとはね。

どうして連れて帰ろうと思ったんだ?」


キミ:「かわいそうだったから」


神様:「かわいそう?」


キミ:「うん。

……あっ」


神様:「急にどうした?」


キミ:「あ、あのね……」


神様:「言ってごらん」


キミ:「……今日のおやつね、パンケーキがいいなって」


神様:「急だね」


キミ:「丸いお月様を見ていたらそう思ったんだ。かみさまが大変だったらいいの、また今度で」


神様:「ふふっ」


キミ:「かみさま?」


神様:「君は食べたいものを言えるようになったね。花のこともそうだ。自分がしたいことをちゃんと言えるようになった。

最初は何をするにも聞いてきて、怯えていたのにね。今もまだ少し緊張してはいるが、随分と変わった」


キミ:「それは良いこと?」


神様:「ああ、良いことだ。

よし、それじゃあ、明日のおやつはパンケーキを焼いてあげよう。だから、あともう少し眠るんだ」


キミ:「うん、分かった。おやすみなさい、かみさま」


神様:「おやすみなさい、今度は良い夢を見れますように」



===============



(翌朝)

(花に水やりをしにきたキミ)


キミ:「よいしょっと……。

おはよう、お花さん。水やりにし来たよ。

あれ……、なんか昨日より元気ない? 

お水が足りなかったのかな。今日はたくさんあげようね。


今日はね、かみさまと森に行くの。

果物を取りに行くんだ。

丸くて小さい紫色のやつ。


花が咲いたら神様にも見せてあげようね。

きっとすぐに咲くよ。

今日も晴れているし……。

今日も……?

……わたし、ここにきてどれくらい経ったんだろう。

ううん……、なにもおかしくなんかないよね。

なにも……。

それじゃあ、もう行くね。また帰ってきたら見に来るから」



===============



(森の中)


キミ:「かみさまー、みてみて!!」


神様:「ああ、たくさん見つけたね」


キミ:「すごいでしょう! あのね、あそこにたくさんなってたんだよ」


神様:「ああ、すごいよ。こんだけのベリーがあったらたくさんジャムができるね」


キミ:「えいっ」


(ベリーを食べるキミ)


神様「あ」


キミ:「うええ、すっぱ……っ」


神様:「ああもう、何してるんだか。ほら、ぺってしなさい。このまま食べても美味しくないって前に話しただろう」


キミ:「美味しそうだったんだもん……っ。すっぱいよ……、口の中が変な感じになっちゃった」


神様:「そうかそうか。

だが、実際にやって失敗するのもいいことだ。

失敗して気付くことも多い。気付いたことを糧に直せばいいんだ。だから悪いことじゃない。

君もこれでこのベリーをそのまま食べようとは思わないだろう?」


キミ:「うん。思わない。あ、ほんとだ。すごい! 勉強してる!」


神様:「ふふっ。そうやって学んでいけばいい。

まあ、軽はずみで取り返しのつかないことはしてほしくはないけどね」


キミ:「でも、失敗しても分からないこともあるよ」


神様:「例えば?」


キミ:「迷子になったときとか」


神様:「迷子?」


キミ:「うん。わたし、ここで迷子になって神様に助けてもらったでしょう?」


神様:「ああ、そうだったね。

どこから来たのかも、名前すらも覚えていない君を森の中で見つけて、連れて帰ったんだ」


キミ:「迷子になったのも失敗でしょう?」


神様:「まあ……、そうなのかな」


キミ:「でも、あの時はどうしたら良いのか分からなかったし、今も分からないの。勉強できなかったんだよ、きっと」


神様:「迷子になったら君が行きたい道へ進んでごらん」


キミ:「行きたい道?」


神様:「ああ、自分の好きな道を選ぶんだ」


キミ:「そうしたら帰れるの?」


神様:「帰れるかどうかは分からない。

でも、どうしたら良いのかは分かるかもしれないね」


キミ:「どういうこと?」


神様:「いつか分かるよ。いつかそうしなくてはいけない時が来るんだから」


キミ:「できるかな……」


神様:「あの時は迷子になってしまったけど、今ならできるかもしれないね」


キミ:「どうしてそう思うの?」


神様:「君は自分の好きなことを言えるようになったから」


キミ:「言えるよ。かみさまになら言えるよ」


神様:「……そうか」


キミ:「好きなことが言えるようになったら迷子にならない?」


神様:「少し違うかもしれない。だが、教えるにはまだ早いな」


キミ:「いつか教えてくれる?」


神様:「ああ。

……よし、じゃあ、そろそろ帰ろう」


キミ:「うん。帰ったらおっきなパンケーキ焼こうね」


神様:「ああ、そうだね」



===============



キミM:「あたたかい春の日だった。

見上げた窓から空が見えて。

私は笑ったんだ」



===============



(夜、眠っていたキミが目を覚ます)


キミ:「……っ!!

またあの夢……。

かみさま、まだ起きてるのかな……。

よいしょっと……」


(ベッドから起きて、隣の部屋の戸を開ける。)


キミ:「かみさま……?」


神様:「ん? おや、また起きちゃったのか……、おっと」


(神様の腰に抱き着く君)


キミ:「……」


神様:「急に抱き着いたら危ないだろう。今、火を使っているのに」


キミ:「……」


神様:「……ちょっと待って」


キミ:「やだ」


神様:「いいものあげるから」


キミ:「いいもの?」


神様:「ああ」


キミ:「……」


神様:「よし、良い子だね。椅子に座って待ってて」


キミ:「うん……」


神様:「君は丁度いい時に起きてきたね」


キミ:「え?」


神様:「はい、どうぞ」


キミ:「あ、ホットミルク……」


神様:「熱いから気を付けるんだよ」


キミ:「いいの? もう歯磨きしたのに」


神様:「今日は特別ね」


キミ:「……ありがとう」


神様:「どうだい?」


キミ:「甘くておいしい」


神様:「ふふっ、蜂蜜をたっぷり入れたからね」


キミ:「……なんか懐かしいな」


神様:「懐かしい?」


キミ:「うん。懐かしくて優しい気持ちになるの。でもね、覚えてないんだ」


神様:「きっと昔、同じような形で君に優しさをくれた人がいたんだね」


キミ:「え?」


神様:「君は覚えてなくても、優しさは心に残るから。

どんなに小さな優しさでも、誰かの心をかたち作っているものだ」


キミ:「じゃあ、わたしは誰かに優しくされてたんだ」


神様:「そうだね」


キミ:「わたしは優しさなんて返せなかったのに」


神様:「……なぜそう思うんだい?」


キミ:「なんとなくそう思うようになったの。わたしね、悪い子だったんだって、あの夢を見るようになってからそう思うの」


神様:「……」


キミ:「また夢をね、見たんだ。

夢の中でね、わたし笑ってたんだ。でも、なんで笑っているのか分からないの。楽しくも、嬉しくもないのに」


神様:「……」


キミ:「かみさまはあの夢が何の夢か知っているの?」


神様:「……ああ、知ってるよ。でも、教えることはできない。これは君が自分で知るべきことだから」


キミ:「いつか知らないといけないの?」


神様:「そうだね」


キミ:「……」


神様:「昼に森へいった時、迷子になったらどうすればいいか教えただろう。覚えているかい?」


キミ:「わたしが行きたい道を選んで進みなさいって」


神様:「ああ、その通りだ。

道を決めるために必要なものを君はまだ持っていない。

……道を自分で選ぶのは難しいことだ。

だが、いつかそうしなければいけない時が来る。

……いつか君は一人で生きていかないといけないのだから」


キミ:「かみさまがどこかに行っちゃうの?」


神様:「君が行くんだ、一人で」


キミ:「やだよ、そんなの」


神様:「嫌か」


キミ:「うん」


神様:「だが、この世界にはね、君と僕しかいない。

今あるものがいつまであるのかも分からない。

君も僕も、この世界も」


キミ:「……」


神様:「僕はね、君が一人で歩いていけるように願っているんだ」


キミ:「……分からないよ。かみさまが何を言っているのか」


神様:「ふふっ、そうだろうね。それじゃあ、難しい話はやめよう。

一つだけ、今の君に教えてあげられるのは、君がずっと優しい子だということぐらいかな。

それだけは覚えておいてほしい」


キミ:「……分かった。

かみさま、ありがとう」


神様:「お礼を言われるようなことじゃないよ」


キミ:「かみさまも優しいよ」


神様:「ああ、ありがとう」


キミ:「お礼を言われるようなことじゃないよ」


神様:「ふふっ、真似っこか。

さて、全部飲んだらもう一度眠ろう。太陽が昇るのはまだまだ先だよ。

今度は大丈夫。きっと怖い夢は見ないはずだ」



===============



(翌朝)


キミ:「おはよう、かみさま!」


神様:「おはよう、あの後はちゃんと眠れたかい?」


キミ:「うん! かみさま、ジョウロにお水いれてもいい?」


神様:「ああ、僕がいれよう」


キミ:「ありがとう」


神様:「もうそろそろ咲くかな」


キミ:「うん。きっとね、もう咲くと思うよ」


神様:「そうか。

……ほら、重たいから気を付けて」


キミ:「ありがとう、かみさま。

それじゃあ、お花にお水あげてくるね」


神様:「ああ、もう朝食ができるからはやく行っておいで」


キミ:「はーい」



===============



(花の元へと行くキミ)


キミ:「おはよう、お花さん。水やりしに……。

……あれ、どうしたの?

どうして、こんなに元気がないの……?

……ちょ、ちょっと待ってて、かみさまに見てもらうから……っ」


(神様の元へと走るキミ)


キミ:「かみさま……っ!」


神様:「どうした? そんなに急いで」


キミ:「あ、あのね、かみさま」


神様:「なにかあったのかい?」


キミ:「……っ」


神様:「……」


キミ:「あのね、ついてきてほしいの」


神様:「……ああ、分かった」


キミ:「……」


(歩いていく二人)


神様:「家の裏になにかあるのかい?」


キミ:「……もう少し、森に入ったところにね、あのお花を植えたんだ。

……ほら、このお花」


神様:「これは……」


キミ:「枯れちゃったの。日陰でかわいそうだったから連れてきて日向に植えたのに。お水もたくさんあげたのに……」


神様:「日陰にいることがかわいそうだと、君は思ったのかい?」


キミ:「……うん。暗くて、寒いから」


神様:「この花が日陰で咲きたいと願っていたとしても?

そこで咲くことを自分で選んだのだとしても?」


キミ:「え?」


神様:「それでも君は日陰で咲くのはかわいそうだと思うのかい?

悲しいことだと、不幸なことだと思うのかい?」


キミ:「……」


神様:「君は知ることから始めなくはいけなかったんだ。この花がどんな花なのか。

この花はね日陰を好む花だ。そして、水をたくさん与えすぎても駄目なんだよ」


キミ:「うん……」


神様:「草花は日のよく当たる場所でないと生きていけないものも、この子のように日陰でなければ生きていけないものだってある。

自分の好きな場所だからといって、相手にとっても同じようにいい場所なのかは分からないんだ。

君は日陰で咲く花をかわいそうだと言ったが、君が不幸だと思っても、不幸な花ではないのかもしれない。

それはこの花が決めることだからね」


キミ:「……」


神様:「花だけじゃない。人だってなんだってそうだ。

かわいそうだと思ってしまうのは仕方のないことだ。それぞれ違う価値観を持って生きているのだから。

だが、それを事実だと、正解だと決めつけてしまうのは良くない。

それはあくまで君の考えだからね。

その人のために何か行動を起こすのであれば、知る必要がある。

知って、自分ではなく、相手のことを考えて、どうするべきか考えなくてはならない。

これは難しいが大切なことだ。

分かったかい?」


キミ:「うん……、ごめんなさい」


神様:「お説教はここまでだ。

さて、それじゃあ、どうしようか」


キミ:「え?」


神様:「この花はまだ生きている」


キミ:「ほんとうに……?」


神様:「ああ。だから、よく考えてどうしたら良いのか決めてごらん」


キミ:「分からないよ、そんなの……」


神様:「分からなくて当たり前だ。

本当はどう思っているのかなんて誰にも分からない。

分からないからこそ、どうするべきかを考えて決めなくてはならないんだ」


キミ:「……」


神様:「一番良いのは、相手から直接教えてもらうことなんだけどね、それは難しいだろう。

言葉を交わせるもの同士でも中々できないのだから」


キミ:「かみさまも難しい?」


神様:「ああ、難しい」


キミ:「わたしにできるのかな……」


神様:「君ならできるよ。

いつか教えておくれ。君の思うこの花の幸せを」


キミ:「……」


神様:「それじゃあ、僕は戻るとしよう。君も終わったら帰っておいで」


キミ:「……うん」


(家へと戻る神様)


キミ:「……ごめんね。

とりあえず、日陰に植え直そうね。

……ごめんね、こんな場所に植えちゃって。

わたし、いつもだめで……。

こんな私だから……。

こんな……、


……ごめんなさい」



===============



(夜)


キミ:「……かみさま」


神様:「ああ、もう寝る時間か」


キミ:「うん」


神様:「おやおや、随分と元気がないようだ」


キミ:「……」


神様:「こっちにおいで」


キミ:「うん……」


神様:「あの花のことを気にしているのかい」


キミ:「……たくさん謝ったの。ごめんなさいって」


神様:「うん」


キミ:「わたしね、いつも謝ってたんだ。

覚えてないけど、きっとそうだった。

わたしはダメな子なんだよ」


神様:「なぜ、そう思うんだい?」


キミ:「だって、お花も枯らしちゃうところだったし」


神様:「でも、それは」


キミ:「ううん、ダメな子なんだよ。

みんなそう言ってたんだ。たくさん聞こえたの。

わたしのこと、ダメな奴だって。

でも、本当にそうだから……。

だから、わたしは……」


神様:「君は良い子だよ」


キミ:「違う!!

……っ!」


神様:「……」


キミ:「ごめんなさい、大きな声出して……っ。

ごめんなさい、ごめんなさい……、嫌いにならないで……。

わたし、ちゃんとできるようになるから……、迷惑かけないようにしますから……」


神様:「ならないよ。

僕は君のことを嫌いになんてならない」


キミ:「……」


神様:「……」


キミ:「……かみさま」


神様:「なんだい?」


キミ:「わたしは誰なんだろう? ここはどこなの?

……神様は、誰なの?」


神様:「……」


キミ:「知りたくないよ。何も思い出したくない」


神様:「……君は生きていただけだよ。頑張って生きていただけだ」


キミ:「……」


神様:「君がもしも誰かに駄目な奴だって言われて、そう思ったのならそれは違うよ。

僕は君のことをダメな子だなんて思わない」


キミ:「……かみさまは優しいね。

ずっとここにいられたら幸せなのに……」


神様:「それは……」


キミ:「……」


神様:「……今日は一緒に眠ろうか」


キミ:「いいの?」


神様:「ああ。眠るまで何か話をしてあげよう」


キミ:「かみさま」


神様:「なんだい?」


キミ:「どこかにいなくなったりしない?」


神様:「……ああ、しないよ」



===============



キミM:「あたたかい春の日だった。

見上げた窓から空が見えて。

私は、もういいかって笑ったんだ」



===============


(翌朝)


キミ:「かみさま、おはよう!」


神様:「ああ、もう起きたのか。おはよう。寝るのが遅かったんだから、もう少し寝ていても良かったのに」


キミ:「何かね目が覚めちゃったの」


神様:「……そうか」


キミ:「あのね、かみさま」


神様:「なんだい?」


キミ:「……ううん、なんでもないの」


神様:「ねえ、君」


キミ:「(遮って)今日もいい天気だね!」


神様:「……」


キミ:「今日は何しようか、かみさまは何したい?

わたしね、何でも手伝っちゃうよ。

あ、森にも行きたいね。あとねあとね、かみさまと」


神様:「静かに」


キミ:「……っ」


神様:「ねえ、どうしてずっと下を見ているの?」


キミ:「……」


神様:「顔は見えないけれど分かっているよ。どうして無理して、元気なふりをしているんだい?」


キミ:「ふりじゃないよ」


神様:「じゃあ、僕の顔を見て」


(顔を恐る恐る上げるキミ)


キミ:「……」


神様:「……元気そうな顔には見えないな」


キミ:「どうして? こんなに笑っているのに」


神様:「……」


キミ:「もうわたし、大丈夫だよ。

あのね、決めたの。

もうここにずっといるって。だから大丈夫。そうしたらわたし、幸せだもん」


神様:「……」


キミ:「かみさま、ここは優しいね」


神様:「……ああ」


キミ:「わたしね、ずっとここにいたい。かみさまといたいの。

この世界にはかみさまとわたししかいないんでしょう?

だったら、二人でずっと一緒にいようよ。

優しい世界で二人でいよう」


神様:「本当はもう分かっているんだろう?」


キミ:「分からないよ。何も分からない。

この世界も神様もちゃんとあるもん。なくならないもん。

ほら、触れるよ。あったかいよ、かみさまはちゃんといるよ」


神様:「もう、分かっているはずだ」


キミ:「分からないよ!」


神様:「君はいつか一人で生きていくことになる。

一人に戻らなくてはいけない」


キミ:「嫌だ……っ」


神様:「ここに永遠はないんだよ」


キミ:「それでもいいよ。終わるまでここにいるから」


神様:「それはだめだ」


キミ:「どうして?」


神様:「……ここにいては君は幸せにはなれない」


キミ:「どうしてかみさまが決めるの……?

決めつけるのはだめだって言ってたのは神様でしょう……?」


神様:「……」


キミ:「思い出したくない。嫌だよ。怖いもん。生きるのは怖いよ……っ。

迷惑ばかりかけるのも、がんばって笑うのも、うそつくのも、もうやだ……!!

ぜんぶぜんぶ嫌なの……っ!!

それなのに、どうしてわたしの幸せを勝手に決めるの!?」


神様:「……っ」


(家を出て、森の中へと走るキミ)


キミM:「森の中をただただ走った。

思い出したくないことから逃げるように、必死に走った。

木の根に躓いて転んだ。

蹲ったまま、わたしは願った。


どうかどうか全て忘れることができますようにと。

それなのに、思い出してしまったんだ。


周りに迷惑ばかりかけて、頑張っても頑張ってもうまくいかなくて。

生きるのが下手で、優しい人にさえも迷惑ばかりかけて。何もできなかった私のことを。

私は駄目な人間だった。

だから、遠い遠い場所に逃げたくなったんだ」


(大人の姿に戻ったキミ)


キミ:「……ふふっ、やだなぁ」


神様:「……思い出したのか?」


キミ:「あの日はね、あたたかい日だったんだ。

何もする気が起きなくて、散らかった部屋の中で窓から空を見てたの。

春らしい優しい色をした空を見ていたら、もういいかって思って。

急にね、そう思っちゃって……。

それで、窓の縁に手を伸ばしたの。遠い遠い場所に行けたらいいのにって……」


神様:「……」


キミ:「足が速いんだね、神様って。

ふふっ、当たり前か

……ねえ、神様」


神様:「なんだい?」


キミ:「神様は何なの?」


神様:「……」


キミ:「ここはどこなの?」


神様:「……」


キミ:「そんな顔しなくても大丈夫だよ、神様。

心配かけてごめんなさい。

もう大丈夫だよ。

思い出したから」


神様:「……」


キミ:「私って大人だったんだね。恥ずかしいな。あんな子供の姿でいて、子供だったら許してもらえるのかなとか考えてたからかな。

嫌だな、甘えたで。恥ずかしいよ」


神様:「……」


キミ:「もう一人でも大丈夫。困っちゃったよね、神様も。

いつまでもこんなんじゃ……。

ごめんね、神様。

なんて、謝られても困っちゃうよね。

……神様なんていないのに」


神様:「……いるよ、僕はちゃんといるよ。

君が言ったんだろう、いるよって」


キミ:「いいんだよ、そんなこと言わなくても」


神様:「……」


キミ:「そう言われても困っちゃうか。

ごめんね。私が言わせてるんだとしたらどうしようもないよね」


神様:「……」


キミ:「不思議な世界だね。優しい場所。私が逃げたくて作り出した夢なのかな。それなら、さすがに出て行かないとだよね」


神様:「……そうだね。君の夢なのかもしれない」


キミ:「……」


神様:「君の夢なら簡単に出られるだろう。

前にも言ったはずだ。君自身で道を選べばいいと」


キミ:「……」


神様:「ほら、選んでごらん。君の夢の住人として送り出してあげよう」


キミ:「……分からない」


神様:「……」


キミ:「選べないの、何も……」


神様:「なら、それが答えだ。

出られないならここにいるしかない。

君が作り出した夢の世界だったとしても、今ここに確かに存在しているんだ。

この世界に君と僕はいる。

いつか君はここを出ていかなければいけない。でも、ここを出て行くときは自分でその道を選んでほしいんだ。

選べないのであれば、その日まで待てば良い。

迷子を一人で放っておくことなんて僕はしたくないからね。

ただそれだけの話だ。

君が君として一人でこの森を出られる日を、君が笑ってここを去る日を僕は待っているよ」


キミ:「……ごめんなさい」


神様:「謝らなくていい。僕の顔色なんて窺わなくていい。人のことを考えるのは大切だよ。でも、君はまず自分の心を大切にしないといけないね」


キミ:「……」


神様:「そもそも君曰く、僕は夢なんだろう。だったら、気にしなくていいじゃないか」


キミ:「でも……」


神様:「ふふっ、君には難しいか。それは君の良いところでもあるからね。

さて、そろそろ行こう。ああ、おぶって帰ろうか?」


キミ:「だ、大丈夫だよ、歩けるから」


神様:「いいや、僕がそうしたいんだ」


キミ:「でも、もう重たいよ」


神様:「そんな変わらないよ」


キミ:「こんなに大きくなったのに?」


神様:「君は君だからね」


キミ:「……」


神様:「それに、もしかしたら、君はまた走ってどこかへ行ってしまうかもしれないだろう?」


キミ:「……ごめんなさい」


神様:「はい。じゃあ、ほら、のって」


キミ:「……これで大丈夫?」


神様:「ああ。

ふふっ、君はあったかいね」


キミ:「神様もあったかいね」


神様:「そうだろう? 僕は確かにいるからね。

……よし、帰ろう。

眠たかったら寝てなさい。昨日あまり眠っていないし、疲れただろう?」


キミ:「でも、悪いから」


神様:「いいんだよ。君の好きにして。僕はね、何をされても君のことが大好きだよ」


キミ:「……」


神様:「ああ……、良い風だ。優しいあったかい風だね」



===============



キミM:「あたたかい春の日だった。

見上げた窓から空が見えて。

もういいかって笑った私の頬を、優しい風が撫でていった」



==============



(家のベッドで目を覚ますキミ)


キミ:「あれ……、ここベッドの上……? 外が明るい……。

私、寝ちゃったんだ」


(ベッドから降りて、部屋を出る)


神様:「……」


キミ:「神様、」


神様:「ん? ああ、起きたか。

ふふっ、すごい寝ぐせだね」


キミ:「あっ」


神様:「ほら、ここなんてすごい跳ねてる」


キミ:「……もう、朝なの?」


神様:「ああ、そうだよ。

よく眠れたみたいで良かった。

ほら、座って。髪を直してあげよう」


キミ:「い、いいよ。自分でやるから」


神様:「いいや、僕がやるよ。なんだい?もう子供の姿ではないから恥ずかしいのかい?

それはそれで寂しいなあ」


キミ:「……じゃあ、お願いします」


神様:「ああ」


キミ:「……ねえ、神様」


神様:「なんだい?」


キミ:「私、やっぱり駄目な人間だったよ」


神様:「……」


キミ:「周りに失敗して迷惑ばかりかけてね、怒られてばかりで。お前は駄目だなってたくさん言われた。言われなくても分かるの。ダメだって思われているの」


神様:「君は生きていただけだよ」


キミ:「じゃあ、生きるのが下手くそなのかな」


神様:「生きるのが下手なことに理由を与えるなら、それは君が優しいからだろうね」


キミ:「え?」


神様:「君は人のことをよく見ている。

傷つけないように、嫌な思いをさせないように。

だから、気が付かなくて良いことにも気付くし、自分に与えられた言葉や感情をそのまま受け止めてしまう」


キミ:「……」


神様:「僕はね、嬉しかったんだよ。

君がここへ来て、少しずつ自分の考えを言えるようになって、行動できるようになって。

だからこその失敗もあったが、それも僕は嬉しかったんだ。

でもね、君は忘れてしまっていただろう。

人のことをよく見ているからこそ、自分の心ではなく、誰かの心を大切にし過ぎて、自分で自分のことを選べなくなってしま

った君自身のことを」


キミ:「でも、それは」


神様:「欠点かもしれない。

だが、それだけじゃない。

その優しさは君の良いところだ。

その優しさは誰かを救ったはずだし、誰かに愛されていたはずだ」


キミ:「でも、わたし泣いて謝ってばかりで」


神様:「笑うことだってあったはずだよ。幸せに思うことだって。優しさを貰うことも、贈ることもしていたはずだ」


キミ:「……」


神様:「君がもしも誰かに駄目な奴だって言われて、そう思ったのならそれは違う。

前にも言っただろう?

自分の考えを優先して決めつけるのは駄目だと。

それじゃあ、決めつけられた時はどうしようか。

いろんな声が聞こえるだろう。

君のことを駄目な子だという奴の声も、君のことを良い子だと言う声も、悪意も好意もたくさん聞こえたはずだ。

だが、その中でも悪意に満ちた声は特に大きく聞こえる。大きな優しい声も、小さな悪意の声に消されてしまうことがある。

だから、よく聞くんだ。

よく聞いて、自分がどんな人間なのか考えなさい。

そして、これからどうするのかも君が決めなさい」


キミ:「どうするのか……?」


神様:「僕は君の幸せを決めつけてしまった。

僕が許されるのは、君の幸せを願うことだけだったのに。

……幸せを願うからこそ、決めてしまうのだろうね。

だが、それを優しさと捉えるか、意地悪と捉えるかは僕じゃなく、君が決めることだ。

そもそも、僕の思い描く通りになったとて、君が幸せだと思わなければ意味がないのだから」


キミ:「神様……」


神様:「だから君が決めないといけない。

だが、それはまだできないだろうね。

君はまだ思い出せていないのだから。

僕と同じく君のことを大切に思っている誰かのことを、記憶を。

だから、全て思い出した時によく考えなさい」


キミ:「……うん」


神様:「……よし、できたよ」


キミ:「ありがとう、神様」


神様:「ふふっ、それじゃあ朝ご飯にしよう」


キミ:「うん」



==============



キミM:「あたたかい春の日だった。

見上げた窓から空が見えて。

もういいかって笑った私の頬を、優しい風が撫でていった。

その風が気持ちよくて、私はもう少しだけこのままでいたいなって思ったんだ」



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(翌朝)


キミ:「神様、おはよう」


神様:「ああ、おはよう」


キミ:「あのね、神様にお願いがあって」


神様:「お願い?」


キミ:「……一緒に来てほしいところがあるの」


神様:「どこに行くんだい?」


キミ:「……森の中。

あの花をね、元の場所に帰してあげたいの」



==============



(森の中を歩く二人)


神様:「ああ、……この辺りだろうか」


キミ:「あ、うん。この大きな木の近くだったから。

……ごめんね、今、帰してあげるからね」


神様:「……」


キミ:「神様、言ってたでしょう? 私が考えたこの花の幸せを教えてほしいって」


神様:「ああ、言ったね」


キミ:「ずっとね、考えてたんだ。

喋ることも、自分で好きな場所を決めることもできないから、本当のことは分からないけど、この子はここで咲きたかったのかなって思ったの。

花に自分を重ねて連れて行っちゃったけど、ここはここで良い場所なんだろうなって。

ほら、木漏れ日がきらきらしてて、少しひんやりしてるけど、風が気持ちいいし、この子が自分で選んだような気がしたの。

だから帰してあげたかったんだ。

植物のことなんて分からないし、そもそもこの世界はないのかもしれないけど、それでも今、私の前にはいるから。

それなら少しでも幸せでいてほしい。

……これがね、私の考えたこの花の幸せ」


神様:「ふふっ」


キミ:「かみさま?」


神様:「ほら、やっぱり君は優しい子だね」


キミ:「……そう、かな」


神様:「ふふっ」


キミ:「ねえ、神様」


神様:「なんだい?」


キミ:「ここにまだいても良いと思う?

それとも、はやく帰ったほうが良いと思う?」


神様:「それは君が決めることだろう」


キミ:「でも、聞きたいの。私の大好きな神様だから」


神様:「……」


キミ:「思い出したんだ。

もらった優しさも愛情も。

元の場所にいる時も忘れていたことを思い出したの。

思い出して、私に優しさをくれた人たちが幸せであればいいなって思った。

嫌なことばかり聞いて、考えていたけど、私ね、その優しい人たちの言葉をちゃんと聞けてなかったんだと思う。

私が元気ならそれでいいよって言ってくれた人もいたのに。

本当は元気なんてないのに、笑って嘘ついて。

……私の大切な人たちには幸せでいてほしいの。

だから、ちゃんと聞きたいんだ。私の幸せを願ってくれている人の話。

もちろんそれだけ聞いて決めたりしないよ。ちゃんと考える。自分のことだから」


神様:「……」


キミ:「神様はどうしたらいいと思う?」


神様:「……そうだなあ。

君が美味しいパンケーキを焼いて、僕に食べさせてくれるまではいてほしいな」


キミ:「ふふっ、なにそれ」


神様:「約束したのに、君は作ってくれないからね」


キミ:「いいよ、ふわふわのやつ食べさせてあげる」


神様:「そう簡単に言うが、思っているよりも難しいんだぞ」


キミ:「美味しいのができるまで、たくさん焼くよ」


神様:「ふふっ、そうか。

楽しみにしてるよ」



==============



キミM:「あたたかい春の日だった。

見上げた窓から空が見えて。

もういいかって笑った私の頬を、優しい風が撫でていった。

その風が気持ちよくて、ほんの少し幸せに感じて、私はやっと決めることができたんだ」



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(ある朝)


キミ:「おはよう、神様」


神様:「おはよう。

……もう、行くかい?」


キミ:「うん。よく分かったね」


神様:「何となくね」


キミ:「そっか」


神様:「それじゃあ、途中まで一緒に行こう」


キミ:「……森の中に行くのは久しぶりだね」


神様:「そうだね」


キミ:「ねえ、神様」


神様:「なんだい?」


キミ:「神様は寂しい?」


神様:「ああ、寂しいね。でも、嬉しくもあるよ。これは君自身が選んだことだから」


キミ:「そっか」


神様:「君は一人で道を選んで生きていく。

誰かが傍にいても、それは変わらない。

例え、僕が一緒にいたとしてもね。

いつか選んだ道を後悔するかもしれない。

でも、それは君が選んだ先にあったものであり、尊いものだ」


キミ:「じゃあ、私が好きなことを選んで、それが悪いことだったら?」


神様:「君にはできないよ」


キミ:「どうして分かるの?」


神様:「僕は神様だからね」


キミ:「神様じゃないって言ってたのに」


神様:「ふふっ、そうだね。

でも、分かるんだ。

君が優しい子だからこそ、僕はここにいるんだから」


キミ:「……」


神様:「これからも君は苦しいと感じることがあるかもしれない」


キミ:「その時は思い出すよ。いろんな優しさと、神様のことを」


神様:「ふふっ、それは嬉しいね」


キミ:「でも、ちゃんと思い出してたくさん考えて、それでも辛くて、また死のうとしたら?」


神様:「君がたくさん考えて選んだことなら、それでも良い。

その死が君にとって救いであるようにと願うだけだ。

何が何でも生きろとは言いたくない。

苦しんで耐えて生きることだけを良いことだとは思えないからね。

こんなことを言えば君のことを大切に思っている誰かに怒られてしまうかもしれないが、これが僕の考えだ」


キミ:「神様らしくないこと言うね」


神様:「そりゃ、僕は神様じゃないからね」


キミ:「さっきは神様だからって言ってたのに」


神様:「ふふっ。

だが、まあ、正直なことを言えば僕は君に生きててほしいよ。そもそも、死を選びたくなるほど、苦しい思いをしてほしくはない」


キミ:「……私、自分から苦しい思いをしようとしてたんだと思う。

ダメな分ね、頑張らないといけないって勝手に思って。

でも、神様は理由をくれたでしょう。生きるのが下手な理由。だから、少し楽になった気がするんだ。

だから……、もう少し考えてみる。いろんなこと。それでね、ちゃんと自分で決める」


神様:「ああ」


キミ:「私のことをね、ちゃんと考えるよ」


神様:「……ああ。

ほら、ここでお別れだ」


キミ:「……神様」


神様:「なんだい?」


キミ:「ここは優しい場所だったよ」


神様:「そうか」


キミ:「前にここの季節は何なのかって話したの覚えてる?」


神様:「覚えてるよ」


キミ:「ここはね、やっぱり春だと思うんだ。

優しい春の季節。

本当に春なのか分からないから春って名付けるのはおかしいけど、優しい春なら良いでしょう?

ただの春じゃないよ」


神様:「ふふっ、それは屁理屈だね。

もうそれは春って名付けているようなものだろう」


キミ:「じゃあ、新しい季節ってことにしよう」


神様:「優しい春みたいな季節?」


キミ:「うん」


神様:「この季節に名前を付けるとすれば、僕は君の名前を付けるよ」


キミ:「ふふっ、なにそれ、なんか恥ずかしいな」


神様:「……」


キミ:「……ねえ、神様」


神様:「なんだい?」


キミ:「神様の正体は何だったの?」


神様:「さあ、なんだろうね」


キミ:「いじわる」


神様:「君から優しさをもらった、君の幸せを願う何かだよ」


キミ:「……そっか」



神様:「さあ、行きなさい。

ここからは君一人で行くんだよ。



どうかどうか君が幸せでありますように」



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キミM:「目を開けると、優しい春の日だった。

見上げた窓から空が見えて。

私はただ泣いていた。


あの時と、何も変わっていない。

ぜんぶぜんぶ、白昼夢だったのかもしれない。

それでも、私は私なりに歩いてみようって決めたんだ。

私の幸せを願ってくれた、神様から貰った優しさは私の中に確かに残っているのだから。


神様は名前はないって言っていたけど、


あの春のような優しさに名前を付けるとするならば。

優しい春に名前を付けるとするならば。


きっと、それがあなたの名前に違いない」




読んでくださってありがとうございます。

下記のボタンからあとがきのページに飛ぶことができます。

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あとがき

「優しい春に名前を付けるとするならば」を読んでくださってありがとうございます。

まだ読まれていない方はこちらからどうぞ。

*https://nazuna-piyopiyo.amebaownd.com/pages/8840407/page_202503292300



白昼夢だったのか、何だったのか、分からない優しい春の話でした。

春ですね。

寒い日もありますが、道端で見かける草花を見ていると春だなって思います。



➀書いたきっかけ

Xでもポストしたのですが、「金木犀の下で」「吐息を泳ぐ魚たち」と最近出した台本が少し暗いお話だったので、優しい話を書きたくて書き始めました。

優しい、なんか掴みどころのないふわふわとした話が書きたかったのですが、今回本当に本当に悩みました。

前回の台本とは異なり、そんな何となくのきっかけで書き始めたものですからあまりにもあやふやすぎて。

プロットを組んで、書き始めて、気に食わなくてプロットを組み直して、書いて、やっぱり直してを4回ぐらい繰り返しました。

あまりにも悩み過ぎると、登場人物たち話している内容が全部おかしく見えてくるんですよね。

そもそも概要から話自体、あまり面白くはならないだろうなって思いやめることも考えたのですが、やっぱり書いてしまいたくて何とか形にしました。

なんだこの話?って思われるかもしれないけど、誰か一人でも好きだなって思ってくださったらラッキーっていう精神で台本を掲載しているので、今回も誰かの心に何か残すことができたらいいなって思っています。



②キミと神様・あの世界について


*キミ

あまりにもダメな自分に疲れ、窓から飛び降りて死のうとした女性です。

本当は記憶を取り戻していく中で、いくつでどんな生活をしていて、何があったんかもっと細かく話に出そうかと思っていたのですが、話にあまり関係ないなって思ったのでやめました。

それはもう読んでくださった方の想像にお任せします。

話しの中で出すのは、彼女のことを優しい子だという人も、ダメな奴だなって思う人もいたんだなってことぐらいだけでいいかなって。


彼女のことをダメな奴だって言った人たちが何に対して駄目だと言ったのかは分かりません。

もしかしたら、彼女は働いていて、働いている中であまりてきぱきと動けないのかもしれません。

もしかしたら、少し理解力が乏しかったのかもしれません。

何があったのかは分かりませんが、彼女は作中でも言っていた通り、それに対して努力をしてきました。

でも、上手くできなかったのです。

それか、上手くできていたのかもしれませんが、周りの顔色を窺いすぎてやっぱり駄目なんじゃなかろうかと考えてしまったのかもしれません。

そん中でも、彼女は周りに心配かけたくなくて、大丈夫だよって笑っていたのかもしれません。


そんな日々に疲れて彼女は死のうとしました。

自ら命を絶つっていうのは、頑張ってやる人もいると思うのですが、彼女みたいにあたかかい春の日に青空をみて、ああいいや、もうってなってふらっと命を絶つ人だっていると思います。

彼女はふとそう思ってしまうほどには疲れていたのでしょう。

そう思ってしまうほどに頑張っていたんだと思います。


そして、彼女は優しい世界に飛ばされました。

名前も記憶も忘れ、子供の姿になった彼女は優しい神様と暮らすことになりました。

その中で神様は彼女に生きにくいと感じる理由を与えます。

神様は彼女に優しいから生きにくいんだと言いました。


少しだけ自分語りになってしまうのですが、私の身内に臨床心理士として働いている人がいます。

その人になずなちゃんは生きにくい人間だと思うよって言われたことがあります。

難しい言葉が並んでいたので忘れてしまったのですが、○○はかなり高いけど、××は低いみたいなことを言われて。

その後に言われた、”知能が低くない分、自分ができないことも、周りができてないなこの子って思っていることも気付いてしまうから生きにくいと思う”っていう言葉を忘れずに覚えています。

私自身適当な人間なので、あまり深く考えずに楽しく日々を生きているのですが、自分は駄目な奴だと思って生きてはいたので、これを言われたときに何か少し楽になりました。

ただ言われただけなんですけど、じゃあ仕方ないかって思えたと言いますか。

それが正しいか、どうかは最早どうでも良くて、楽になったんです。

彼女もこれで少しは楽になったらいいなって思います。

そして、自分を駄目だという声で隠されていた優しさを大切にしてくれたらいいなって。


作中でホットミルクを飲んでいるシーンがあるのですが、私が7歳ぐらいののときに母が夜にココアを淹れてくれた時がありました。

妹ったいは既に寝ており、私ももう寝なさいって言われると思っていたのに、ココアを淹れてくれて一緒に飲んだのが嬉しくて、今でも覚えています。

私の大切な大切な思い出の一つです。

両親とも今も元気ですし、今でも愛情をたくさんもらっていますが、そんな小さな思い出が今でも支えになっていたりします。

彼女も誰かにホットミルクを淹れてもらって一緒に飲んだ大切な思い出があるのかもしれません。

他にもきっといろんな優しさや愛情を何気ない形で貰っていたはずです。

作中ではあまり出せなかったのですが、彼女はとても優しい子です。

人の見ていないところでも優しさをいろんなものに与えていたんだと思います。

そんな人にはきっと優しさが返ってくると思うから。


自分の優しい気持ちも貰った優しさも大切にしてくれたらいいな。


この作品全体、そしてあとがきにも言えることなのですが、これらは個人の考えなのでおかしいだろうと思われる方がいても当たり前です。

他にも、彼女のことを甘えているだとか、もっと辛い人もいるだとか思われる方もいるかもしれません。

他にもたくさんあるかもしれませんが、これは神様とキミの優しい話なので、作中では否定意見は出てきません。

優しさ=肯定だとは思わないのですが、今回の彼女に関しては彼女を思っての意見よりも肯定を優しさと捉えるのではなかろうかなと思いながら書きました。

そういう考えもあるよねって優しい気持ちで見ていただけたらいいなって思います。



*神様とあの世界について

神様の正体は、あの世界は、一体何だったと思いますか?

本当に全部白昼夢だったのかもしれません。

彼女が作り出した世界だったのかもしれません。

でも、もしかしたら本当に神様が作り出した世界だったのかもしれません。

神様も神様ではなかったとしても、本当に存在していたのかもしれません。

優しさは心を形づくるもの。

彼女の優しさをもらった何かが、それとも優しさ自体が心を宿したのかもしれません。

それらはもう読まれた方の想像にお任せします。

なので、正直あまり書くことがありません。


神様はただ優しい春のようなキミの幸せを願っている存在です。

そして、彼女にとって確かに春の優しさのような神様は存在していたのです。



➂まとめ

優しい話を書きたいだなんて言っ書き始めた作品ですが、優しいかどうかは分かりません。

難しいですね。優しさも前述した通り、個々によって違うから。

こんなことを考えてたから、思ったよりも書き終わるまでに時間がかかったんです。

でも、自分なりにいろんなことを考えれて楽しかったです。

前にも書きましたが、このお話を読んでくださった方の中で一人でも心に何かしら小さな優しさを残せればいいな。


4月になり、環境が変わったり、新しいことを始めた人も多いかと思われます。

疲れてしまうこともたくさんあるとは思いますが、自分のことを大切になさってくださいね。


どうか皆さまが素敵な日々を送れますように。

どうか皆さまが幸せでありますように。


以上、なずなでした。