秋色の戀に蜜色の口づけを
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この台本では、以下のパブリックドメインの作品の要素を取り入れています。
・少女画報(1912年創刊、1942年廃刊。そのうち大正15年7月号、9月号にて著作権が消失しているページ。本文中に取り入れてはいませんが大正後期から昭和初期に発刊されたものを資料として参考にさせていただきました。)
・北村透谷『厭世詩家と女性』
以上
注意事項
・私(わたくし)という読み方になります。
・すでにあげている『戀し春』と同時期に書いたものです。そのため、話が似通っています。
戀し春は明治後期から大正前期。こちらは大正後期から昭和初期のお話になります。
なんとなくの時代の違いによる女学生の変化を感じていただければ幸いです。
・納得いっていないのでもしかしたら変わったりするかもしれません。
・感想をいただけると嬉しいです。
登場人物
・幸子(♀)
女学生。薫子の可愛い妹。
・薫子(♀)
女学生。幸子の美しいお姉様。
『秋色の戀に蜜色の口づけを』
作者:なずな
URL:https://nazuna-piyopiyo.amebaownd.com/pages/6229966/page_202207011359
幸子(♀):
薫子(♀):
本文
幸子M「お揃いの紅いリボン。
お揃いの刺繍を入れたレースのハンケチーフ。
お姉様の唇から紡がれる言葉の数々。
そして、何よりも美しいお姉様。
お姉様は少しも知っていらっしゃらないのでしょうね。
私(わたくし)がどれほど貴女のことをお慕いしているのかなんて。
お姉様を初めてお見かけした あの秋の日のこと、私は鮮明に覚えております。
紅葉(もみじ)が色づき、金木犀が甘く香るなか、お姉様は何か物思いに耽(ふけ)ておられました。
あの時の美しい風景、お姉様の美しい顔(かんばせ)はまるで一枚の絵画のようで、私はその絵画を胸の中に大切に飾ったのです。
こんな素敵な宝物をどうして忘れることができるのでしょう。
忘れることなんてできやしないわ。
だから、私はこの唇に愛をのせて誓うのです。
金色の蜜色の光が差し込むお教室。
金木犀のように甘く薫るお姉様。
私たちのことを知るのは神様だけ。
ああ、神様。どうか私の愛が永遠に変わらないことを誓うから、お姉様が私のことを思い続けてくれますように。
この時を、この思いをずっと胸に留めておくことができれば、それはきっと永遠になるでしょうから。」
==================
(誰もいないほこりをかぶった教室で寄り添って座っている二人。窓から西日が差し込んでいる。)
薫子:「今日の幸子さんは随分と甘えるのね。もう帰らなければいけないお時間なのに。」
幸子:「お姉様ったら、お家のご都合で學校にいらっしゃらないんですもの。
いつもお姉様に甘えてばかりだったから、淋しくて仕方がなかったのよ?」
薫子:「ごめんなさいね。でも、私も淋しかったのよ。幸子さんとお会いできなくて。
・・・こちらへいらっしゃい。ここに座って、もう少しだけお喋りしましょう?」
幸子:「・・・お姉様?」
薫子:「あらやだ・・・、酷い埃ったらないわ。」
幸子:「そんなところに座るだなんて、見つかったら怒られてしまわないかしら?」
薫子:「見つかりっこないわよ。使われていないんだもの。今までだってこのお教室に先生方がいらしたことないでしょう?
私、窓辺の席が一等好きなの。でも、ここの方が窓に近いわ。」
幸子:「お帰りにならなくていいの・・・?」
薫子:「幸子さんがこんなにも淋しそうなお顔をなさるんですのも。今日は特別よ。
・・・埃を掃ったらひどいわね。窓を開けてもいいかしら?」
幸子:「・・・ええ。私が開けますわ。」
薫子:「ありがとう。もう、すっかり秋ね。紅葉も赤く染まっているわ。」
幸子:「金木犀の香りもしますわね。」
薫子:「・・・秋の、西日の眩い(まばゆい)光が差し込むこの時間が私、とても好きなの。特別美しい時間に思えて。」
幸子:「ふふふっ、そんな時間をお姉様と過ごせて私、とても嬉しいですわ。」
薫子:「あら、私のお隣で過ごしてはくれないのかしら?」
幸子:「・・・だって、お行儀が悪いんだもの。」
薫子:「時にはお行儀を悪くすることも必要なのよ。」
幸子:「あらやだ、お姉様ったら。」
薫子:「ほら、お隣にいらして。」
幸子:「・・・。」
薫子:「ふふふっ、それでいいわ。
さあ、何をお話します?・・・あ、この前の少女画報ご覧になられた?」
幸子:「いいえ、まだ見れていませんの。」
薫子:「薔薇のたよりの欄にね、私の知人のお手紙が掲載されたのよ。」
幸子:「すごいわ、どんなお手紙だったのでしょう。私も読んでみたいわ。」
薫子:「エスに宛ててのお手紙でね、読んでいてこちらの頬が熱くなってしまうほどに情熱的だったわ。”ああ!お姉様への思いは募るばかりで、胸に手を当ててその愛を抑えるばかりの自分をいじらしく思うのです”って。」
幸子:「・・・私も送ってみようかしら。」
薫子:「あら、いやよ。だったら、私に渡して欲しいわ。お返事だってすぐに返しますわよ。
この前、幸子さんまだ使っていないレターセットを持っていると仰っていたでしょう?いつになったら、お手紙をくださる
のか待っていたのよ。」
幸子:「お手紙って難しいんですもの。お姉様にお伝えしたいことがたくさんあって言葉が溢れてしまって、素敵な文章になりませんのよ。
私もお姉様の頬を熱くさせるようなお手紙が書きたいのだけれど・・・。」
薫子:「ふふふっ、私からすればどんな言葉でも幸子さんからの言葉でしたら美しい宝石のように見えるわ。」
幸子:「宝石だなんて・・・。でも、分かりましたわ。レターセットが素敵だからお姉様にお見せしたいもの。
高畠華宵(たかばたけかしょう)先生のレターセットなんですのよ。」
薫子:「それは良いわね。先生のお描きになる絵はとても浪漫に溢れているもの。」
幸子:「先生のお描きになる少女はどうしてあんなにも素敵なのかしら。私ももう少し器量よく生まれたかったわ。
メエ・アリズン嬢のような美しい顔立ちに憧れますもの。」
薫子:「メエ・アリズン嬢、先月の少女画報に載っていらした方でしょう?」
幸子:「ええ。私もそれで拝見して知りましたの。
でも、一等美しいのはお姉様よ。」
薫子:「私も一等可愛らしいのは幸子さんだと思うの。」
幸子:「そんな言葉、私には勿体なくてとてもじゃないけど頷けないわ。もっと可愛らしい方なんて大勢いらっしゃるもの。」
薫子:「こんなに可愛らしいのに?本当にいるのかしら?」
幸子:「ふふふっ、お姉様ったら。」
薫子:「あら・・・幸子さん、おリボンが曲がっていらっしゃるわ。後ろを向いててくださる?直して差し上げるわね。髪も結い直しましょう。」
幸子:「本当に?恥ずかしいわ・・・。ごめんなさい。」
薫子:「いいのよ。
・・・幸子さん、髪が伸びたわね。」
幸子:「でも、まだお姉様よりも短いからあと少し伸ばそうと思っていますの。
・・・お姉様がご卒業される前には伸びてくれるかしら。」
薫子:「幸子さんがずっと悲しそうなお顔をしていらっしゃるのは、そのことと関係ありまして?」
幸子:「・・・お姉様とお会いできなかったからよ。」
薫子:「それだけじゃないでしょう?私、分かるのよ。きっと他にも理由があるんだわって。」
幸子:「・・・もう秋になるでしょう?だから・・・、肌寒くてきっと淋しいんだわ。」
薫子:「そう・・・。」
幸子:「肌寒くなって・・・、秋が終わって、冬が来て、春が来たらって思うと何だかとても淋しいの・・・。
お姉様、ご卒業されてしまうのでしょう?」
薫子:「・・・もう五年生ですもの。」
幸子:「お姉様もご卒業されたら、お嫁に行かれるのよね・・・?」
薫子:「そうなるでしょうね。」
幸子:「・・・そのお相手はお姉様がお慕いしている男の人でいらっしゃるの?」
薫子:「そんな方、いらっしゃらないわ。
もしも、そんな方がいるだなんてお父様に知られたら、とてもお怒りになるわよ。恋愛だなんて馬鹿がすることだ、なんて仰るんだもの。
・・・幸子さんには素敵な男の人がいらっしゃるのかしら?」
幸子:「いませんわ、そんなお方・・・。」
薫子:「そう・・・。
恋をして結ばれるなんて素敵よね。でも・・・、私たちには縁遠いお話だわ。」
幸子:「・・・お姉様。」
薫子:「なあに?」
幸子:「お姉様がご卒業されてしまったら、私たちはどうなるの?」
薫子:「・・・幸子さん、私たちはどんなもので結ばれていると思う?」
幸子:「・・・エス、かしら?」
薫子:「そうね。エスはSisterのエス。姉と妹。學校という小さな世界でだけの愛おしい結びつき。
でも、エスと呼ばれる関係は脆くて儚いの。卒業すれば解(ほど)けてしまうものなのよ。
・・・ねえ、幸子さん。私たちは良い妻、良い母になるために學校に通っているんだもの。いつか嫁いで、子どもを成さなくてはならない。」
幸子:「お父様や先生方から何度も聞かされているもの。そのぐらい分かっていますわ・・・。」
薫子:「きっと忘れなくてはいけない日が来るのよ。いつまでもこのリボンを結んではいられないの。」
幸子:「でも、私はお姉様がご卒業されても、お姉様を忘れることなんてできやしませんわ。今だってただの一分を忘れることができませんのよ。」
薫子:「私もー年生の時はそう思っていたわ。でもね、今は私のお姉様だった方がどこで何をしていらっしゃるのかも知らないの。
幸子さんも妹をとられるようになればお分かりになるはずよ。エスは學校という小さな世界でだけの特別な姉妹関係だって。
胸の中の宝箱にしまっておいて、大切に取り出して眺める内に思い出さなくなるものなの。お姉様への憧れも、愛も。」
幸子:「憧れや愛だけではないもの・・・。」
薫子:「幸子さん・・・。」
幸子:「學校だけのお話でもないわ・・・。
お姉様は知っていらっしゃらないのよ。私が貴女にどれほど恋焦がれていたかなんて。」
薫子:「・・・。」
幸子:「私、學校に入学するまえにお姉様のことをお見かけしたことがありますの。
こんな秋の日に金木犀の香りに包まれて、物思いに耽るお姉様のことを見たことがありますのよ。今でも鮮明に思い出せるわ。
とてもお美しくて、あまりにも美しいものだから私、瞬きも忘れて見入ってしまったの。
そんな美しい絵画にも似た情景を、何度も思い出しては胸が熱くなってしまって・・・。
その時に気付きましたのよ。これが恋なんだわって。
私、あの日からお姉様に恋をしていましたのよ。
お姉様がお姉様になる前から、ずっと貴女に恋をしていたの。」
薫子:「幸子さん・・・。」
幸子:「私、お姉様のことを愛しているわ。老嬢だと貶められてもいいの。」
薫子:「・・・・・・。」
幸子:「お願いよ、お姉様。この恋心を、愛を秘めておくことだけはお許しになって。お姉様は私のことをお忘れになってもいいわ。でも・・・、私はきっとそれができっこないの。
この恋を、この愛を忘れるだなんて・・・。それならいっそ死んでしまったほうがいいわ。」
薫子:「幸子さん、そんな泣きそうなお顔をしないで・・・。」
幸子:「・・・・・・。」
薫子:「ごめんなさいね。少しいじめすぎてしまったわ。貴女がとてもいじらしかったから。」
幸子:「お姉様・・・?」
薫子:「少しだけこの可愛いお口を閉じていてちょうだい。」
幸子:「・・・。」
薫子:「あの秋の日にね、私、ちょうど北村透谷(きたむらとうこく)の『厭世詩家と女性』(えんせいしかとじょせい)を読み始めたころでしたの。
『恋愛は人世(じんせい)の秘鑰(ひやく)なり、恋愛ありて後(のち)人世(じんせい)あり、恋愛を抽(ぬ)き去りたらむ(ん)には人生何の色味かあらむ(ん)』。
私、恋なんて知らなかったからこれを読んでしまったときに、恋をせずに嫁ぐことが少し嫌になってしまったの。
恋愛のない人生になんの色味があるのか、なんて読んでしまったら嫌にもなるでしょう?
そんなことを思っていたら、紅葉のように紅い頬をした子がこちらをずっと見ていることに気が付いたの。まん丸のビ―ドロ玉のような綺麗な瞳で・・・。
その子の瞳があまりにも綺麗で、紅葉のような頬があまりにも可愛らしくて。私、一目見てその子に恋をしてしまったのよ。」
幸子:「お姉様・・・。」
薫子:「おかしな話よね。今さっきまで恋を知らないまま嫁ぐんだわって思っていたのに。貴女を一目見ただけで恋をするだなんて。
・・・ねえ、幸子さん。私も、貴女に恋をしていたのよ。」
幸子:「本当に?夢ではなくて・・・?」
薫子:「ええ、本当よ。
私は幸子さんに恋をしているのに、エスだけの結びつきなんて淋しいことを仰るものだから、少しだけいじめてしまったの。
ふふふっ、もう嫌ね。貴女ったら。本当はこんなことお伝えするつもりなんてなかったのよ。
だって私たち、どうしたってずっと一緒にはいられないんだもの。幸子さんのことを思うのであれば、忘れ去ってしまうべきだったのに・・・。
ごめんなさいね。ずるいお姉様で。」
幸子:「・・・いえ、いいえ、そんなことありませんわ。そんな素敵なこと・・・。私、なんて言ったら・・・、ごめんなさい、素敵な言葉が見当たらないわ。」
薫子:「こんなにも私の胸を熱くさせるものだからついつい話してしまったの。こんなことができるのはきっと幸子さんだけなのでしょうね。」
幸子:「本当にお姉様も私に恋をされているの・・・?」
薫子:「そうよ。ふふふっ、そんなまた頬を紅くして・・・。」
幸子:「だから、お姉様は私を見初めてくださったのですか?」
薫子:「それもあるけれど、やっぱり一際、愛らしいんですもの。」
幸子:「もっと可愛らしい子も、お綺麗な子もいらしたのに?」
薫子:「ええ。
・・・幸子さんたちがご入学されて新入生のみなさんが集まっているのを友人たちと見ていたの。
あの子が可愛いわ、素敵だわって。どの子をエスにしようかしらって。
貴女ったら、私たちが見ていることに気が付くと驚いて、頬を赤らめていらしたでしょう?その時に気付きましたの。ああ、あの時の子だわって。」
幸子:「私、少し後悔しましたのよ。お姉様がお見えになるのなら、もっと可愛らしくすれば良かったって。」
薫子:「心配なさらなくてもとても可愛らしかったわ。
それでね、御連中に相談したの。あの方をエスにしたいのって。そうしたら、先に幸子さんを見初めた方がいらっしゃらなかったから、取り持ってくださったのよ。
私ったら大急ぎで紅いリボンを用意して、すぐに御連中にお渡ししたわ。驚いたでしょう?」
幸子:「本当に驚いて死んでしまいそうになりましたのよ。最上級生の方々に呼ばれて、お姉様が私をエスにしたいと聴いた時は、あんな素敵な方が私を見初めてくださるだなんて何かの間違いじゃないのかしら、夢ではないのかしらって何度も思いましたもの。
でも、お姉様からいただいたリボンを髪に結んだ時に、ああ、これは本当なんだわって思えて・・・。私、本当に嬉しかったのです。」
薫子:「私もよ。幸子さんの艶やかな綺麗な天鵞絨(びいろど)のような髪に紅いリボンが結ばれているのを見たときは胸の内が熱くなって、嬉しくて、あの時の気持ちを表せる言葉を私、知らないわ。それほどまでに嬉しかったのよ。」
幸子:「私ったら、何度も鏡で見てしまいましたもの。お姉様とお揃いのリボンを結んでいるだなんて信じられなくて。」
薫子:「・・・ふふふっ。」
幸子:「お姉様?」
薫子:「ごめんなさいね。昔のことを話していたら色々と思い出してしまって。」
幸子:「どんなことを思い出されてお笑いになられましたの?」
薫子:「面白くて笑ったわけではないのよ。幸せなことを思い出したから笑ったの。
例えばそうね・・・、お裁縫をお教えした時のこと。幸子さん、お裁縫が苦手でいらしたでしょう?お教えした時のあの困ったお顔が可愛らしくて。」
幸子:「ひどいわ。今はお姉様のご指導のおかげで上手にできるようになったのよ。お着物のひとつぐらいならまとめられるようになりましたもの。」
薫子:「一緒にレースのハンケチーフに刺繡もしましたわね。私の宝物の一つだからいつでも持ち歩いていますのよ。使うのがもったいなくて一度も使ったことがないわ。」
幸子:「ふふふっ、私もですわ。だって宝物だもの。」
薫子:「いただいたお手紙も大切に取ってあるわ。」
幸子:「私も読んではお姉様のことを思って、胸が熱くなってしまいますの。」
薫子:「私も貴女の言葉を、すべて私のものにできるように読んでいるの。
・・・幸子さんは本当に素敵なものをたくさん贈ってくださったのね。この宝物を胸に抱いていれば・・・、私、もうどこへ嫁いでも強くいられるわ。」
幸子:「・・・ええ。」
薫子:「・・・幸子さん。」
幸子:「どうされたの?お姉様。」
薫子:「・・・ねえ、ここで私たちの愛を神様に誓いましょう?」
幸子:「神様に?」
薫子:「ええ。私、西洋の結婚式に憧れているのだけれど、きっとお父様たちの意向でそれはできないでしょうし、何よりも先に貴女との愛を誓いたいの。
信心していないから怒られてしまうかもしれないけれど、それでも神様はきっと聞き届けてくださるわ。
だめかしら・・・?」
幸子:「そんなことないわ。私、嬉しいのです。お姉様がそう仰ってくださって。」
薫子:「ふふっ、よかったわ。
・・・そうね、ドレスはないけれど、ヴェールはできるかしら・・・。」
幸子:「お姉様、あのレースのハンケチーフはどうかしら?」
薫子:「ああ、そうね。幸子さん。ハンケチーフ貸してくださる?」
幸子:「ええ。」
薫子:「ありがとう。・・・これを幸子さんの頭に被せるわね。」
幸子:「私もお姉様に・・・。」
薫子:「ふふっ、ありがとう。」
幸子:「お姉様、指輪はどうされますの?」
薫子:「そうね・・・。そうだわ。指輪の代わりに口づけをおくりましょう。」
幸子:「指に・・・?ふふふっ、なんだか恥ずかしいわ。」
薫子:「ふふふっ、そうね。
さあ、見せてちょうだい。ふふっ・・・この世で一等愛らしい花嫁だわ。」
幸子:「お姉様も一等美しい花嫁よ。
・・・どうしましょう、お姉様。私、幸せで死んでしまいそうだわ。」
薫子:「私もどうしたらいいのかしら。愛おしさで胸が熱くて仕方がないの。」
幸子:「お姉様・・・、」
薫子:「・・・泣かないでちょうだい、幸子さん。恋を知ることができてよかったわ。こんなにも愛おしいものを知らずに生きるだなんて私、恐ろしくて仕方がないの。
貴女に恋をしたおかげで、私の人世はきっと素敵な色に染まったのでしょうね。」
幸子:「私も・・・、私もよ。」
薫子:「どんな色に染まったのかしら?私たちの人世は。」
幸子:「・・・この蜜色の光のような色かしら。」
薫子:「それと、貴女の頬のような紅葉の色。」
幸子:「貴女の髪のような美しい色。」
薫子:「貴女の瞳のような綺麗な色。」
幸子:「ふふふっ、とても素敵ですわ。きっとこの世で一等美しい色ね。」
薫子:「ええ、私たちしか知らない秘密の色よ。
・・・ねえ、幸子さん。その可愛らしいお顔を見せてちょうだい。」
幸子:「私もお姉様の美しいお顔を心に刻み付けたいの。今のお姉様を。」
(少しの間)
薫子:「きっと私、紅葉を見るたびに貴女を思い出すわ。」
幸子:「私も金木犀の香りに包まれるたびにお姉様を思い出して、恋しくなってしまいますわ。」
薫子:「でも、幸せね。私たち、今から永遠の愛を誓うんだもの。」
幸子:「秋が訪れるたびに、この蜜色の陽光を見るたびに今の愛おしい時を思い出すのでしょうね。」
薫子:「ええ・・・。愛おしくて幸せな・・・。」
幸子:「お姉様、お手を・・・。」
薫子:「幸子さんの手、とても熱いわ。」
幸子:「だって、胸の内がこんなにも熱いんだもの。」
薫子:「・・・恋ってこんなにも熱くて、苦しくて、愛おしいものだったのね。
・・・幸子さん。」
幸子:「なあに、お姉様・・・。」
薫子:「・・・私、幸子さんへの愛を誓うわ。
どうしたってずっと一緒にはいられないけれど、この愛は永遠よ。」
幸子:「・・・私もお姉様への永遠の愛を誓いますわ。」
薫子:「口づけをしましょう。この素敵な秋の日を忘れないために。」
==================
薫子M「指に甘い口づけがおとされる。
長い睫毛が幸子さんの頬に陰をつくった。
お揃いの紅いリボンは私たちの絆に。
お揃いの刺繍を入れたレースのハンケチーフはヴェールに。
貴女からの口づけは愛の証に。
そして、貴女は私が永遠に愛する人に。
幸子さんは少しも知っていらっしゃらないんだわ。
私がどれほど貴女に恋焦がれていたかなんて。
あの日、初めて幸子さんをお見かけしたあの秋の日を、私は忘れることなんてできないのでしょう。
金木犀が甘く香るなか、貴女は頬を紅葉のように紅く染めてこちらを見ていらっしゃいました。
あの愛らしい貴女の姿に、私は恋を知ったのです。
きっとこれは神様のいたずらなのでしょう。
一緒にいられないことなんて分かり切っているのに、この恋は、愛は溢れるばかりで。
だから、私はこの唇に溢れんばかりの愛をのせて誓うのです。
金色の蜜色の光が差し込むお教室。
紅葉のように頬を染める幸子さん。
私たちのことを知るのは神様だけ。
ああ、神様。私、幸子さんのことを永遠に愛するわ。だから、どうかこの愛が幸子さんの胸いっぱいに消えることなくあり続けますように。
この時を、この思いをずっと胸に留めておくことができれば、この愛はきっと永遠に私たちのものだから。」
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