アストロメリアにさよならを

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*今回の作品に関しては読んだ後にあとがきを読んでくださると嬉しいです。

 また、続編(アストランティアに願いを)も書きましたので興味がありましたら読んでくださると嬉しいです。

(どちらもページの一番下にリンクがあります)

登場人物

アレン(不問)

領主を務めるレディントン家の子息の少年。アレンをやる場合はあとがきを読んでから演じることをおすすめします。


テオ(不問)

路地裏で暮らす貧しい孤児の少年。

『アストロメリアにさよならを』

作者:なずな

URL:https://nazuna-piyopiyo.amebaownd.com/pages/6231426/page_202207012338

アレン(不問):

テオ(不問):

本文

(何かから逃げるように路地裏を走るアレン)



アレン:「はぁ・・・はぁ・・・っ。

どこにいるんだよ・・・っ!」


テオ:「ねえ、なにしてるの?」


アレン:「・・・っ!」


テオ:「大丈夫?」


アレン:「う、うるさい・・・っ。」


テオ:「あっ、待ってよ!」


アレン:「・・・なんだよ。僕に構わないでくれ。」


テオ:「でも、一人じゃここから出られないと思うよ。」


アレン:「は?」


テオ:「この路地はね、すごい入り組んでるんだ。だから入ったら簡単には出られない。」


アレン:「・・・。」


テオ:「君だってここがどんな場所か分かってるでしょう?

そんな恰好でこんなところにいたら襲われちゃうよ。お金持ちはここにいる人たちにとって敵なんだ。」


アレン:「金持ち・・・?」


テオ:「そんな上等なもの着てたらすぐ分かっちゃうよ。

この辺り最近特に物騒なんだ。黒魔術がお金持ちの間で流行ってるらしくて、変な売人がうろちょろしてる。

人身売買とかも増えたって聞くし」


アレン:「(前のセリフを遮るように)その売人はどこにいるんだ。」


テオ:「え?売人を探しているの?」


アレン:「だから聞いているんだ。」


テオ:「だ、だめだよ・・・!

ぼくらみたいな汚い貧しい子供は売り物にならないって言われたけど君みたいな子は危ないし、」


アレン:「いいからその売人に会わせろ・・・!」


テオ:「無理だよ・・・。今日はそもそも見ていないし。」


アレン:「・・・。」


テオ:「・・・君、どうして売人に会いたいの?黒魔術なんて危ないよ。」


アレン:「お前には関係ないだろ。」


テオ:「そうなんだけどさ・・・。

・・・って、待ってよっ!!」


アレン:「・・・なんだよ。」


テオ:「さっき言った通り、君一人じゃここから出られないし、危ないよ。

3年前と比べれば治安はまだ良い方だけどさ・・・。」


アレン:「3年前?」


テオ:「暴動があったでしょう?」


アレン:「・・・貧民が起こした暴動だろ。」


テオ:「あの暴動で路地裏の人たちがたくさん死んだの。」


アレン:「・・・自業自得だろ。」


テオ:「でも、それほどここでの暮らしは大変なんだよ。

だからみんなレディントン伯にどうにかしてほしかったんだ。

・・・結局、そいつのせいでみんな死んじゃったんだけど。」


アレン:「・・・。」


テオ:「ぼくらみたいに路地裏に住んでいる人間のことなんてどうでもいいんだろうなぁ。同じ人間なのにさ。

・・・あんな領主さま嫌だよ。ちゃんと仕事もしないで、遊んでばっかりなんだよ。あいつだってきっと黒魔術とかやっているんだ。

どうしてあんな奴が」


アレン:「(前のセリフを遮るように)父上を侮辱するな・・・!!」


テオ:「え・・・?」


アレン:「・・・。」


テオ:「父上・・・?」


アレン:「・・・。」


テオ:「え・・・、ええええええ!!!」


アレン:「うるさい。」


テオ:「ご、ごめん・・・。で、でも、そしたら余計こんなところにいちゃだめだよ・・・っ!」


(アレンの手を引いて歩くテオ)


アレン:「お、おい・・・っ。急になにするんだよ・・・!」


テオ:「いいからついてきて・・・っ!

ここの人にとって一番の敵はレディントンなんだから・・・!見られたら最悪、殺されちゃうよ・・・!」」


アレン:「・・・。」


テオ:「とりあえず、大通りの近くまで案内してあげるから・・・っ!」


アレン:「わ、分かったから手を離せ・・・!」


テオ:「だめ!君、さっきから逃げようとするんだもん。」


アレン:「・・・」


テオ:「あ、あの・・・、さっきはごめんね。君のお父さんだって知らなかったから。」


アレン:「・・・別にもういい。」


テオ:「あっ」


アレン「なんだよ。」


テオ:「しっ・・・!」


アレン:「っ」


(壁に隠れて何か伺うテオ)


テオ:「参ったなぁ・・・。エイダちゃんどうしてこんなとこにいるんだろ。」


アレン:「エイダちゃん・・・?あのおばさ」


テオ:「しー・・・っ!!

それエイダちゃんに聞かれたら大変だよ・・・!怒らせたら本当に怖いんだから。

あー、おじさんたちもいるや・・・。」


アレン:「・・・どうするんだよ。」


テオ:「うーん・・・、あ、そっか。大丈夫。こっちついてきて。

この階段を上るんだけど、急だから気を付けてね。」


アレン:「・・・お前も路地裏に住んでいるのか?」


テオ:「うん。孤児のみんなとね。

あ、でも、さっきのエイダちゃんとかもだけど、ぼくらのことを気にかけてくれる人もいるんだ。

ここじゃ、助け合わないと生きていけないからさ。」


アレン:「・・・。」


テオ:「でもさ、ここにはぼくと歳の近い男の子がいないんだよ。だから今楽しいや。友達ができたみたいで。

君は友達いる?お金持ちはなにして遊んだりするの?」


アレン:「知らない。友達なんて邪魔なだけだろ。僕は他の奴らと違って、遊んでいる場合じゃないんだ。

レディントン家の次期当主なんだから。」


テオ:「・・・そっか。」


アレン:「・・・。」


テオ:「・・・よしっ。ここでいいかな。」


アレン:「・・・っと。

・・・屋根しかないじゃないか。」


テオ:「当たり前だよ。」


アレン:「は?」


テオ:「そうだ。聞くの忘れてた。君って高いところ歩くの大丈夫?例えば、屋根の上を歩いたり・・・」


アレン:「もしかしてこの上を歩くつもりか?」


テオ:「うん。一番近くて、見つからない方法。」


アレン:「そ、そんなことできるわけないだろ・・・!」


テオ:「できるよ。案外怖くないし、楽しいよ。」


アレン:「僕は行かないからな!」


テオ:「大丈夫だよ。ほら、ぼくも一緒だから。」


アレン:「お、おい・・・!」


テオ:「よしっ、行くよ!!一気に走るからね!」


アレン:「・・・っ!」


(手を繋いで走る二人)


テオ:「あはははは!君、ちゃんと走れてるじゃん。」


アレン:「は、話しかけるな・・・!」


テオ:「そんな足元ばかり見ていたら勿体ないよ。今日はいい天気だし、ここからの眺めは綺麗なんだから!」


アレン:「うるさい・・・!!」


テオ:「手つないでるんだから落ちたりしないのに!」


アレン:「しつこいぞ・・・っ!」


テオ:「じゃあ、立ち止まる?」


アレン:「いいからさっさと走ってくれ!」


テオ:「君は怖がりなんだなあ!」


アレン:「うるさい!僕を侮辱するな!」


テオ:「あ、もうつくよ!!」


アレン:「え?」


テオ:「このまま、下に飛び降りるからね!」


アレン:「な、何言ってるんだよ!」


(上のセリフを遮るように)


テオ:「せーのっ!!」


アレン:「・・・っ!!」


テオ:「ふー、到着。」


アレン:「はあ・・・はあ・・・」


テオ:「・・・大丈夫?」


アレン:「大丈夫なわけないだろ・・・」


テオ:「あはははは!

でも楽しかったでしょう?」


アレン:「楽しくなんかない・・・っ。」


テオ:「ぼくは楽しかったけどなあ。」


アレン:「・・・。」


テオ:「ほら、すぐそこから表に出られるよ。この辺りなら人も少ないから大丈夫じゃないかな。」


アレン:「・・・どうして」


テオ:「ん?」


アレン:「どうして僕を助けた?僕がレディントンの人間だって分かっていたのに。

お前たちにとって一番の敵なんだろ。」


テオ:「それは違うよ。」


アレン:「違う?」


テオ:「だって、君はレディントン伯じゃないもん。」


アレン:「・・・。」


テオ:「レディントンの人間だからって君のことを恨んでいる人もいるだろうけど・・・。でも、ぼくはそう思えないんだ。」


アレン:「・・・変だな。」


テオ:「そうかなあ。

・・・じゃあ、ぼく行くね。ばいばい!!また、会えたらいいね!」


アレン:「僕は遠慮したいね。」


テオ:「そんなこと言わないでよ!

あ、ぼく、テオって言うんだ!もう迷子になっちゃだめだからねー!!」


アレン:「迷子になんてなってないし・・・。


本当、変な奴。」



================



(その日の夜。)

(アレンの自室にて)


アレン:「(あくびをする)

早く寝ないと・・・。

・・・父上はまだ地下室にいるのかな。」


(窓を叩く音)


アレン:「ん?何の音だ?窓から・・・?

・・・っ!!」


テオ:「こんばんは・・・!驚いた?」


アレン:「なっ・・・、なんでお前がいるんだよ!!」


テオ:「しー・・・っ!!」


(ドアをノックする音)


アレン:「あーっ、ばか・・・っ!

はやくこっちに来い・・・!」


テオ:「え、で、でも、ぼく汚いし」


アレン:「うるさい・・・!!」


(再び、ノックの音)


アレン:「もう!はやく入れよ・・・!!」


テオ:「う、うん」


アレン:「絶対に喋るなよ・・・!」


テオ:「分かった・・・っ!」


(アレン、ドアをノックしていた使用人と会話する。)


アレン:「ごめんなさい、大きな声出したりして・・・。

ああ、違うんだ。少し怖い夢を見ちゃって・・・、

大丈夫だよ、ちゃんと眠れるから。

ふふっ、僕もうお子様じゃないんだから。

うん。おやすみなさい・・・。

(ため息をつく)」


テオ:「すごいね・・・!違う人みたいだった・・・!」


アレン:「うるさい・・・。

大人にはああやって良い子にしていた方がいいんだよ。」


テオ:「そういうものなのかぁ・・・。

それにしてもすっごいお部屋だね・・・!」


アレン:「・・・どうしてここが分かったんだ?」


テオ:「レディントンの屋敷の場所なんてみーんな知ってるよ。こんな大きな屋敷ここにしかないもん。

でも、部屋までどうやって行くかは考えてなかったんだ。だから、君の部屋の前に木があったのは運が良かったよ。」


アレン:「見張りは?」


テオ:「ああ、いたよ。でもぽんこつだね。」


アレン:「(ため息を吐く)。

・・・で、何の用があってここに来たんだよ?」


テオ:「あ、そうだった。はい、これ。屋根の上に落ちてたんだ。」


アレン:「あ、ネクタイ・・・。」


テオ:「それをね、届けに来たんだ。でもね、それよりも大切な用事があるんだ。」


アレン:「・・・。」


テオ:「僕さ、君と友達になりたくて。」


アレン:「はあ?」


テオ:「友達になってよ、ぼくと。」


アレン:「お前、僕が誰だか分かって言っているのか?」


テオ:「もちろん。」


アレン:「・・・。」


テオ:「だめかな?」


アレン:「・・・お前はないが欲しいんだ?」


テオ:「え?」


アレン:「僕はお前に黒魔術の売人の情報を求める。

お前は?」


テオ:「・・・ふふふっ。」


アレン:「なんで笑ってるんだよ。」


テオ:「君、友達いないって本当だったんだね。」


アレン:「ぼくのことを馬鹿にしているのか・・!」


テオ:「違うよ。

でも、友達はね、なにかが欲しくてなるわけじゃないんだ。

だからぼくは何もいらない。ぼくが楽しいから君と友達になりたいんだ。

ぼくは楽しいことが好きだからね。」


アレン:「・・・。」


テオ:「でも、友達として助けたいなって思ったらぼくは助けるよ。

だから、君が友達になってくれて、理由を教えてくれたら手伝ってあげようかな。

・・・どう?」


アレン:「・・・生意気だな。」


テオ:「えー、君には言われたくないよ。」


アレン:「アレン・・・。」


テオ:「へ?」


アレン:「アレン・レディントン。」


テオ:「・・・ふふっ。ありがとう、アレン。

じゃあ、ぼく帰るよ。」


アレン:「あ、おい・・・っ」


テオ:「ん?なあに?」


(何かを棚から持ってくるアレン)


アレン:「・・・やる。」


テオ:「これ・・・、お菓子?」


アレン:「僕のおやつの残りだけど。」


テオ:「もらってもいいの?」


アレン:「欲しいなら持っていけばいいだろ。」


テオ:「ありがとう・・・!持って帰ってみんなで分けるよ!」


アレン:「分けるって・・・、それしかないのにどう分けるんだよ。」


テオ:「まあ、一口ぐらいにはなるかな。でもみんな喜ぶと思うよ。」


アレン:「・・・。」


テオ:「アレンは優しいね。」


アレン:「は?」


テオ:「だってお菓子くれたし。」


アレン:「だからそれは僕のおやつのあまりだって言ってるだろ・・・!

は、はやく帰れよ。僕は明日も忙しいんだから。」


テオ:「ねえ、また来てもいい?」


アレン:「勝手にすればいいだろ・・・!」


テオ:「やったー!ありがとう。

じゃあ、また来るね。お菓子、ありがとう。おやすみなさい・・・!」


(窓から出ていくテオ)


アレン:「・・・友達。

そんなものいらないのに・・・。」



================



(テオがアレンの自室を訪れるようになったある夜のこと)


(窓を叩く音)


テオ:「こんばんは!」


アレン:「また、来たのか。」


テオ:「えへへ、だめだった?」


アレン:「別に。」


テオ:「あー・・・、このベッドフカフカだねぇ。」


アレン:「おい!僕のベッドだぞ・・・!」


テオ:「良いなあ。毎日こんなベッドで寝れるなんて羨ましいなあ。

ぼくなんて床で寝てるんだよ。」


アレン:「床?」


テオ:「しかも、この部屋よりもずっと狭い場所でみんなで眠ってるんだ。」


アレン:「惨めだな。」


テオ:「惨めかぁ。君たちからしたらそうなのかもね。」


アレン:「よく生きていられるよな。あんな場所で。」


テオ:「ずっとあの場所で生きてきたからね。確かに大変だよ。みんな盗みを働いたり、悪い人たちの手伝いをしたりして

さ・・・。

黒魔術の売人に場所を貸してお金をもらってる人もいるんだ。

・・・生きるのって大変だよ。」


アレン:「僕には想像できないな。」


テオ:「あ、ねえねえ、お金持ちはさ毎日お菓子食べるの?」


アレン:「そうだな。食べたいと思えば食べられる。」


テオ:「じゃあ、ご飯も好きなものを食べられるの?お肉とか!」


アレン:「ああ。」


テオ:「いいなあ。ぼくも生まれ変わったらお金持ちになりたいなあ。」


アレン:「・・・そうだろうな。

僕は何だって望めば手に入るし、お前たちが惨めに足掻いている間に必要のないお菓子だって勝手に出てくる。

勉強だって僕専用の家庭教師が何人もいるし、欲しい本だって好きなだけ手に入る。

どうだ?羨ましいだろ?」


テオ:「うん。羨ましいよ。」


アレン:「・・・。」


テオ:「すごい数の本だよね。これ全部アレンのなんでしょう?」


アレン:「そうだけど。」


テオ:「ぼくも読み書きはできるんだよ。兄ちゃんたちに教えてもらったからさ。」


アレン:「・・・。」


テオ:「でももう、今はぼくが一番年上だから、ぼくがみんなに教えてあげてるんだ。」


アレン:「お前が?」


テオ:「なに、その顔。教えるぐらいできるよ。

でも、年下なのにぼくよりもすらすら読めちゃう子もいるんだ。

ぼくより2才下の」


アレン:「クレア。」


テオ:「え?!覚えてたの?!」


アレン:「うるさい。」


テオ:「ご、ごめん。まさか覚えてるとは思わなくて・・・。」


アレン:「お前が聞いてもないのにベラベラ話すから嫌でも覚えたんだ。」


テオ:「えぇ・・・。」


アレン:「クレアの他にも言えるぞ。

エマ、コリー、レイ、ジェナ、ロビン、ショーン、ミア、クリス。」


テオ:「すごい・・・。」


アレン:「そのクレアが何なんだ?」


テオ:「文字がスラスラ読めるから、本とか読ませてあげたいなって。

いつも地面に落ちてる新聞の切れ端とか読んでるからさ。」


アレン:「・・・。」


テオ:「でも、君もこれだけ本があるってことはたくさん勉強しているんだね。すごいなあ。」


アレン:「父上の後を継ぐんだ。当たり前だろ。

もっともっと勉強しないといけない。・・・今のままじゃ、父上のようにはなれないんだ。」


テオ:「・・・どうしてレディントン伯みたいになりたいの?」


アレン:「それが僕の役割だから。」


テオ:「役割?なりたいからなるんじゃなくて?」


アレン:「なりたいとかそんなのどうでもいい。

僕はそのために生まれてきたんだ。」


テオ:「・・・君みたいな裕福な子も大変なんだね。」


アレン:「さっきは羨ましいって言ってたのに?」


テオ:「ぼくには無理だよ。ぼくはいつだって楽しく生きていたいんだ。

生まれたからには楽しく生きていたいでしょう?

貧しいのは大変だけど、みんなと過ごせて楽しいよ。ぼくはね。」


アレン:「・・・いいな。お前は気楽で。」


テオ:「アレン・・・」


アレン:「もう帰れよ。僕は明日も忙しいんだ。」


テオ:「え、ああ、うん。ごめんね。」


アレン:「・・・これ。」


テオ:「え?」


アレン:「本。このぐらいのがちょうど良いと思う。」


テオ:「え、でも」


アレン:「いいから持ってけよ。僕はもうその本を暗唱できるし、いらないから。」


テオ:「ありがとう・・・。ふふふっ、やっぱり君は優しいね。」


アレン:「な、なんだよ。早く帰れよ。」


テオ:「分かってるよ。じゃあ、またね。」


(窓から出ていくテオ)


アレン:「・・・楽しいか。

いいな。僕も生まれ変わったら・・・」



================



(テオがアレンの自室を訪れるようになったある夜のこと)


(窓を叩く音)


テオ:「良かった。遅くなっちゃったから寝てるのかなって思った。」


アレン:「・・・どうしたんだ?その怪我。」


テオ:「え?なにが・・・って、あれ、アレンもどうしたの?ほっぺた怪我してるけど。」


アレン:「別にどうでもいいだろ。

・・・お前はどうしたんだよ。」


テオ:「ぼくはちょっとね、いたずらしたらおじさんたちに怒られちゃって。

えへへ・・・、お揃いだね。」


アレン:「なにがお揃いだよ。」


テオ:「君もいたずらして怒られたの?」


アレン:「・・・地下室に勝手に入ろうとして、父上に殴られた。」


テオ:「地下室?」


アレン:「父上は地下室でずっと母上を蘇らせようとしてるんだ。」


テオ:「アレンのお母さんは・・・」


アレン:「死んだ。僕を産んですぐに。」


テオ:「・・・そうなんだ。

でも、死んでる人を蘇らせるなんてできるの?」


アレン:「黒魔術。」


テオ:「え・・・」


アレン:「黒魔術だったらできるらしい。

ただ、体の中身までは蘇らないから軽いって聞いたことがある。でも、違いはそこだけだって。」


テオ:「本当に・・・?」


アレン:「父上はそう信じているんだ。

・・・でも、上手くいかないらしい。必要なものも揃っているのに何が悪いのか分からないって・・・。

だから、父上はお勤め以外ずっと地下室にいる。僕もあんまり会うことがない。」


テオ:「・・・寂しくないの?」


アレン:「寂しいなんて思うのはおかしいだろ。僕のせいなんだ。

母上のことを父上はとても大切にしていたのに、母上は僕を産んですぐに亡くなってしまった。

父上は母上に生きていてほしかったのに・・・。」


テオ:「でも、それはアレンのせいじゃないよ・・・!」


アレン:「・・・母上が亡くなってから父上は変わってしまったと使用人たちが言っていたんだ。

だから、母上が蘇ってくれたら父上はもとに戻るかもしれない。

・・・父上にできないのなら、僕がやればいいってそう思った。」


テオ:「・・・そのために君は黒魔術の売人と会いたいの?」


アレン:「ああ。やり方も必要なものを知っているけど、ちゃんと確認したい。」


テオ:「・・・分かった。

ぼくに任せて。」


アレン:「え?」


テオ:「売人と君を会わせてあげる。そのぐらいならできるからさ。」


アレン:「・・・売人と会うことはできない。

ここから自由に出られないだ、僕は・・・。」


テオ:「じゃあ、あの日はどうして・・・」


アレン:「あの日は使用人と街に出かけたときに抜け出した。だが、外出しても護衛の人数が増えたからもう抜け出せないと思う。」


テオ:「そっか・・・。それじゃあ、ぼくが代わりに聞いておくよ。」


アレン:「・・・お礼はなにを用意したらいい?」


テオ:「まだそんなこと言うの?ぼくは友達が困ってるから助けたいだけなんだよ。だからそんなこと言わないで。」


アレン:「・・・分かった。」


テオ:「じゃあ、聞いておくことがあったら教えて。ぼく黒魔術のこと何にも知らないからさ。」


アレン:「・・・テオ。」


テオ:「なあに?」


アレン:「・・・ありがとう。」


テオ:「ふふっ、どういたしまして。」



================



(テオ、路地裏を歩いている)


テオ:「あーあ・・・、聞いておくって言ったけど最近見ないんだよなあ。

アレンのことがバレたらまた、おじさんたちに怒られるだろうし・・・。殴られるのはもう嫌だしなぁ・・・。

今日の夜はアレンの所に行けるから聞いちゃいたいんだけど・・・ん?

あ!!いた・・・!

ねえねえ、売人のおじさん。・・・そんな怖い顔しないでよ。黒魔術のことについて聞きたいことがあるんだ。

死んだ人を蘇らせる術についてなんだけど・・・・。」



================



(テオがアレンの部屋を訪れる)

(窓を叩く音)



テオ:「アレン・・・!!」


アレン:「うるさい。どうしたんだよ。」


テオ:「(前のセリフを遮るように)だめだよ!!」


アレン:「な、なにが?」


テオ:「売人に聞いたんだ・・・!死んだ人間を蘇らせるには、大きな対価が必要だって・・・!!」


アレン:「対価・・・?」


テオ:「どんな対価かは分からないけれど、すごく恐ろしいものだって言ってた・・・!

それに・・・」


アレン:「・・・なんだよ。」


テオ:「蘇らせた人は数日しか生きていけないって・・・。しかも、何年も前に死んだ人を蘇らせるのはすごく難しいって言ってたよ・・・!」


アレン:「でも、できないわけじゃないんだろ。だったら僕がやる。」


テオ:「・・・ねえ、お父さんに認められなくたっていいじゃん。」


アレン:「・・・。」


テオ:「どうしてそんなに認められたいの?

ぼくは嫌だよ。アレンが苦しむのも、アレンが君のお父さんみたいになるのも。」


アレン:「・・・それが僕の役割なんだから仕方ないだろ。」


テオ:「君もレディントン伯みたいに皆を殺すの?アレンはそんな奴になりたいの・・・?」


アレン:「父上のことを悪く言うな・・・っ!」


テオ:「言うよ!!悪いことは何度だって言ってやる・・・!!」


アレン:「・・・っ」


テオ:「兄ちゃんたちも、エイダちゃんの旦那さんも、優しくしてくれた路地のみんなも、仲良かった子たちだって・・・みんなみんな苦しんで死んでった・・・!

レディントン伯はぼくらの声なんて聞いてくれない!それで暴動が起きたのに・・・!!

あいつはぼくの大切な人をたくさんたくさん見殺しにしたんだ!!それが良いことなわけないだろ・・・!」


アレン:「そんなこと僕だって分かってる!!」


テオ:「・・・っ。」


アレン:「でも仕方ないだろ!!僕は父上の後を継ぐためだけに生かされているんだから・・・!!

僕は父上から愛されない・・・、誰からも愛されない・・・っ!頑張って良い子にしていてもレディントン伯の息子だってだけでみんな怖がって誰も僕の傍にいてくれないのにどうしたら良かったんだよ・・・っ!!」


テオ:「・・・。」


アレン:「僕だってお前みたいに自由になりたかった・・・!いつもいつも楽しそうに笑ってるお前が羨ましかっ

た・・!!!

・・・テオには分からないよ。家族だって思える人がいるお前には分かるわけないんだ・・・!」


テオ:「・・・なんだよ。

もうここに来ないから好きにすれば・・・っ!さようなら!」


(窓から出ていくテオ)


アレン:「・・・どうしたら良かったんだよ。僕はレディントンに生まれただけなのに。

・・・母上なら僕のことを愛してくれたのかな。」




================



(一人で路地裏を歩くテオ)


テオ:「・・・なんだよ。アレンの馬鹿・・・。もうどうなっても知らないんだから・・・。」


(路地裏のみんなが集まっているのが見える)


テオ:「あれ・・・?みんな集まってなにしてるんだろう・・・?

エイダちゃん!なにかあったの?

ああ、ぼくは少し盗みに入ってたんだ。え?ち、違うよ・・・!!レディントンの屋敷なんて怒られた日以来行ってないよ・・・!!

なにがあったの?

レディントンの屋敷を襲撃するって・・・、だ、だめだよ!!

そんなのレディントンがやったことと一緒だよ!!

そんな・・・、みんな待ってよ!!待って!!

どうしよう・・・っ、はやく行かないと・・・!!」



================



(アレンの部屋)


アレン:「・・・また、明日も早いんだから寝ないと。

・・・テオの馬鹿。なんなんだよ。あいつから友達になろうって言ったのに・・・。

ん?外がうるさいな。

・・・なんだ、あれ。・・・路地裏のやつらか・・・?

っ!!門番が殺された・・・?!

・・・あいつら殺しに来たんだ。僕たちのこと・・・っ。

はやく・・・、はやく隠れないと・・・!!

どうしよう・・・。僕、どうしたら・・・」


(窓を叩く音)


アレン:「っ!!」


テオ:「しー・・・っ」


アレン:「お前・・・どうして」


テオ:「話は後でね。

とりあえず洋服、交換して。」


アレン:「え?」


テオ:「ぼくの汚いけどごめんね。

着替えたら、ぼくはアレンのフリをしてみんなを引き付ける。夜だしきっとみんな見分けがつかないよ。

君はここで隠れていてね。多分、ここはそんなに探されないはずだから。」


アレン:「何言ってるんだよ・・・!そんなの危ないだろ!」


テオ:「ぼくは身軽だし、君より足速いよ。君なんかきっとすぐに捕まっちゃうだろうし。」


アレン:「・・・」


テオ:「ね、大丈夫だから。終わったらまたここに来るね。」


アレン:「・・・分かった。」


テオ:「うん。任せて。じゃあ、行ってくるね。」



================



(レディントンの館を走る回るテオ)


テオ:「はあ・・・っ。はあ・・・っ。

まだ、軍は来ないの・・・っ。

あ・・・、地下室なら隠れられるかも・・・っ。

・・・っ!!」


(部屋の中で男と鉢合わせる)


テオ:「ど、どうしてここに・・・。

あ・・・、ち、違うんだ。ぼくは・・・っ!!」

(男たちに殴られるテオ)

テオ:「うぐ・・・っ!ま、待って、話を、う・・・っ!

い、痛い・・・っ。

うぐ・・・っ。待ってよっ、ぼくは・・・ぼくはっ!

・・・っ。

あ・・・、ごめ、ん、アレン・・・。ぼく、もう・・・。

あ・・・ああ、仲直り、したかったのに・・・。ごめ、んね・・・。」



================



(アレンの部屋で目を覚ますテオ)


テオ:「う・・・っ」


アレン:「テオ・・・っ!!」


テオ:「あ、れ・・・、ぼく・・・」


アレン:「・・・大丈夫か?」


テオ:「ここは・・・?」


アレン:「僕の部屋だ。」


テオ:「みんなは・・・?」


アレン:「・・・何人かは捕らえられたけど、大体のやつらは逃げたらしい。」


テオ:「・・・そっか。レディントン伯は?」


アレン:「父上は留守にしていたから無事だったんだ。」


テオ:「・・・みんな、ずっと我慢していたけど限界だったんだ。本当に悪い人な訳じゃないんだよ・・・。」


アレン:「でも、テオのことを・・・っ!」


テオ:「それは暗かったから分からなかったんだよ。ぼくのことをアレンだと思っていたから。

・・・でも、みんながやったことは悪いことだ。どんなに苦しくても関係ない人を殺すことは許されないのに・・・。」


アレン:「・・・。」


テオ:「でも、アレンが無事でよかった。」


アレン:「・・・。」


テオ:「アレン・・・?」


アレン:「・・・ごめん。」


テオ:「え?」


アレン:「・・・。」


テオ:「ぼくは大丈夫だよ。

それよりも・・・、アレン?泣いてるの?」


アレン:「本当にごめん・・・っ。」


テオ:「良いよ・・・!そんなに謝らなくても・・・!

どうしたの?どこか痛い?」


アレン:「違う・・・っ。違うんだ・・・!」


テオ:「大丈夫だよ・・・。ぼくは、大丈夫。

・・・ねえ、アレン。」


アレン:「なに・・・?」


テオ:「ぼくもごめんね。君に酷いこと言っちゃった。」


アレン:「・・・ああ。」


テオ:「ふふふっ、よかった。君と仲直りしないままお別れしなくて。」


アレン:「・・・。」


テオ:「じゃあ、ぼくそろそろ帰るね。まだ朝早いみたいだし、帰っても誤魔化せると思う。」


アレン:「・・・テオ。」


テオ:「なあに?」


アレン「また来る?」


テオ:「来るよ。友達に会いにね。」


アレン:「・・・分かった。」


テオ:「またね、アレン。」


アレン:「ああ・・・。またな。」


(テオ、窓から出ていく。)


テオ:「・・・朝だなあ。夜に起こったことがぜんぶ嘘みたい。

みんな仲良く、楽しく生きることができればいいのにね。

あーあ・・・体が軽いな。

まるで空っぽになったみたいだ。」



================



(3日後、アレンの部屋)


(窓を叩く音)


アレン:「・・・っ!」


テオ:「こんばんは・・・!」


アレン:「あ、ああ・・・。

テオ、調子は悪くないか・・・?痛かったりとか」


テオ:「そんなのないよ。元気元気。

アレンの方こそ大丈夫?顔色悪くない?」


アレン:「・・・そんなことない。」


テオ:「ならいいんだけどさ。

もういつも通りなんだね。あんなことがあっただなんて考えられないよ。」


アレン:「ああ・・・。僕も夢なら良いのにって思う。」


テオ:「・・・そうだね。」


アレン:「テオ、これ。」


(テオに山盛りのお菓子を差し出すアレン)


テオ:「え?どうしたの?このお菓子・・・」


アレン:「全部、あげる。」


テオ:「・・・。」


アレン:「・・・いらなかったか?あ、他のお菓子の方が良かった?それともなにか違うものが」


テオ:「アレン。」


アレン:「・・・っ」


テオ:「なにもいらないよ。ぼくは友達を助けたかっただけなんだ。」


アレン:「・・・。」


テオ:「ねえねえ、明日また来ても良い?夜じゃなくて、そうだなあ・・・、早朝とかかな。」


アレン:「どうして?」


テオ:「うーん・・・、なんとなく。」


アレン:「お前、もしかして」


テオ:「ぼくは何も知らないよ。」


アレン:「・・・。」


テオ:「じゃあ、もう帰るね。今日来るのも遅くなっちゃったし、明日は早いからさ。

・・・・・・えいっ。」


アレン:「・・・っ」


(テオがお菓子をアレンの手から一つ取り上げる)


テオ:「まあ、このお菓子は貰ってあげようかな。

ぼく、これ好きなんだよね。

じゃあね、アレン。また、明日・・・!」


(窓から出ていくテオ)


アレン:「あいつ、もしかして気づいているの・・・?

僕があの日・・・。」



================



(3日前の夜。テオの服を着たアレンがテオを探している。)


アレン:「あいつ、どこ行ったんだよ・・・。

路地裏のやつらももう逃げたのか・・・?

あ・・・、世話係の・・・。みんな死んでるの・・・?

どうしてこんなことに・・・っ。

違う、はやくテオを探さないと・・・っ。

あとは、この地下室だけか・・・。」


(階段を下りて、扉を開ける。)


アレン:「テオ、いるのか・・・?」


(横たわっているテオを見つける。)


アレン:「あっ、テオ・・・っ!テオ!!

・・・っ!!

テオ・・・?

どうしたんだよ・・・、起きろよ。僕まだお前に謝れてないんだぞ・・・。

どうして・・・、どうしてこんなところで死んでるんだよ!!」


(黒魔術の術式が目に留まる)


アレン「・・・あ、ああ、そうか。

できるかどうか分からないけど・・・、もしかしたら黒魔術なら・・・。

・・・僕は、テオとまた友達になりたいんだ。

だから・・・、どうかどうか神様でも悪魔でも誰でもいいから・・・。僕の魂でも何でもあげるから・・・っ!

僕の、大切な友達を蘇らせてくれ・・・っ!!」



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(次の日の早朝)


(窓を叩く音)


テオ:「アレン、おはよう・・・!もう起きてたんだ。はやいね。」


アレン:「・・・まあね。」


テオ:「ちゃんと寝れた?なんか元気なさそうだけど。

・・・もしかして怖い夢でも見た?」


アレン:「・・・そうだな。すごい怖い夢だった。」


テオ:「・・・そっか。

今日はね、いい天気になると思うよ。」


アレン:「なあ、テオ。」


テオ:「なあに?」


アレン:「・・・どうして朝なの?」


テオ:「その前にぼくから聞きたいことがあるんだ。」


アレン:「・・・なに?」


テオ:「アレンはどうしたいのかなって。」


アレン:「どうしたい・・・?」


テオ:「アレンのやりたいことってなに?」


アレン:「それは・・・だって僕は」


テオ:「君はレディントン伯の後を継ぐためだけに生まれたわけじゃないよ。」


アレン:「・・・っ!」


テオ:「ぼくだってどうして生まれたかなんて分からないよ。

でも生まれたからには楽しく生きていたいんだ。

アレンだってそうなんじゃないの?」


アレン:「でも、僕はレディントン伯の息子で、」


テオ:「そんなの関係ない。

もしも、どうしても生まれた理由が必要ならこっちのほうが良いな。

ぼくの友達になるために生まれてきたんだって。」


アレン:「・・・。」


テオ:「ぼくは友達には楽しそうにしてほしいなあ。

アレン言ってたでしょう?

自由になりたかったって。いつもいつも楽しそうに笑いたかったって。

そうしてもいいんじゃないのかな。」


アレン:「本当に・・・?僕がそうやって生きてもいいの・・・?」


テオ:「うん・・・!そのほうがぼくも楽しいよ。

君が生きたいように生きてくれたほうがずっと楽しい。

だからね、アレン。君はどうしたい?」


アレン:「僕は・・・父上のようにはなりたくない。」


テオ:「・・・うん。」


アレン:「僕は僕の生きたいように生きたい。」


テオ:「うん。

・・・じゃあ、手始めになにをしようか。」


アレン:「・・・。」


テオ:「大丈夫だよ。ほら、今はぼくも一緒だから。」


アレン:「・・・誰にも許可を取らないで、護衛もつけないで、外に出て好きなところに行きたい。

・・・友達と遊びたいんだ。」


テオ:「うん。」


アレン:「・・・テオ、僕と遊びに行こう。」


テオ:「もちろん。遊びに行こう、アレン。」



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(路地裏)


テオ:「遊びに行きたいって言ってたのに、どうして路地裏なの?また、屋根の上に上りたいだなんて。怖がってたのに。」


アレン:「べ、別に怖がってなんかないからな。」


テオ:「えー、うそつきだな。

よし・・・っ、はい到着。」


アレン:「やっぱり高いな・・・。」


テオ:「怖い?」


アレン:「ただ高いなって言っただけだろ。」


テオ:「ふふっ、はいはい。

まあ、ここの人たち夜遅くまで起きてる人がほとんだだから歩いても大丈夫だよ。」


アレン:「そ、そうか・・。

・・・テオ。」


テオ:「やだなあ。なんでずっと悲しそうな顔してるの?」


アレン:「本当はもう知ってたんだろ・・・?」


テオ:「んー?何が?ぼくは何も知らないよ。」


アレン:「どうして」


テオ:「そのほうがぼくが楽しいから。

だって、君。ぼくを蘇らせたせいで対価を払ったんでしょう?」


アレン:「そんな大した対価じゃない。それに僕のせいでテオは・・・」


テオ:「でも、何かしら払ったんでしょう?そんなの悲しいよ。ぼくは君に辛い思いなんてさせたくなかったのに。

ぼくも君もお互い様でしょう?ぼくたち、友達を助けたくてそうしただけなんだもん。

だから、その話はお終い。」


アレン:「でも・・・っ」


テオ:「ぼくはね、最期まで楽しく生きていたいんだ。」


アレン:「・・・っ。」


テオ:「ねえ、アレン。少しだけ歩こうか。」


アレン:「・・・ああ。」


テオ:「じゃあ、はい。手貸して。」


アレン:「手・・・?」


テオ:「よしっ、行くよ!!」


アレン:「え、お、おい・・・っ!」


(手を繋いで走る二人)


アレン:「な、なんで急に走るんだよ・・・!!」


テオ:「びっくりするかなって!!」


アレン:「驚くに決まってるだろ・・・っ!」


テオ:「あはははは!驚いたアレンの顔って面白いね!」


アレン:「テオだっておかしな顔をしてるじゃないか・・・!!」


テオ:「失礼だなあ・・・!!

あ、止まって・・・!よく見てよ。汚い路地裏から見る景色も悪くないでしょう?」


アレン:「・・・ああ、そうだな。

テオはいつか・・・僕たちが路地裏のみんなに許してもらえる日が来ると思う?」


テオ:「いつかきっと来るよ。」


アレン:「僕、そんな世界を作りたい。」


テオ:「いいね・・・!みんな仲良くできたらきっと楽しいよ。

次はそんな世界で生まれたいな。

・・・ねえ、アレン。」


アレン:「・・・なに?」



テオ:「前に生まれ変わったらって話を少しだけしたでしょう。」


アレン:「ああ。」


テオ:「そんな世界でまた君に会えるかな?」


アレン:「・・・。」


テオ:「アレン・・・?」


アレン:「・・・きっと会えるよ。」


テオ:「そうしたらまた友達になろうね。」


アレン:「ああ・・・。」


テオ:「きっと楽しいよ。」


アレン:「楽しいだろうな。」


テオ:「ほら、みて・・・!!朝日だよ!!」


アレン:「テ、テオ・・!急に走るなよ・・・!!」


テオ:「足元ばかりみてたら勿体ないよ・・・!!」


アレン:「・・・っ!!」


テオ:「ね!綺麗でしょう・・・!」


アレン:「すごい・・・。こんなに綺麗だったんだな・・・!」


テオ:「ねえ、アレン・・・!楽しいね・・・!!」


アレン:「楽しいな・・・!」


テオ:「ぼくはいつだって」


アレン:「楽しく生きていたい、だろ。」


テオ:「あたり・・・!」


(二人で笑い合う)


テオ:「じゃあ、ここからはもう一人で行くんだよ・・・っ。」


アレン:「・・・っ!」


テオ:「じゃあね、アレン・・・!ぼくの大切な友達。」


アレン:「テオ・・・っ!」


テオ:「あーあ、本当に楽しかったなあ・・・っ。」


(姿を消すテオ)


アレン:「・・・・・・。

なんだよ・・・。急にいなくなるなよ。馬鹿。


・・・さようなら、テオ。僕の大切な友達。」



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(2.3年後 レディントンの屋敷にて)

(ノック音)


アレン:「どうぞ。

・・・ああ、ありがとう。その資料はそこに置いといて。

え?父上が?

そうか・・・。でも、父上に反対されてもやめるつもりはないよ。お見舞いに行ったときに怒られるんだろうけどな。

大丈夫。僕はレディントン家の当主だぞ。若いからって舐めてもらっては困る。

・・・いつか、この街の人々が許し合えるそんな日を作るって決めたんだ。

僕が生きているうちにね。

・・・もう生まれ変わることもないだろうから。

いや、なんでもない。

それよりも路地裏の住民の住処と仕事について考えることが山ほどある。

え?変わった?僕が?

ああ・・・、考えが変わったんだよ。


生まれたからには僕は僕らしく生きていたいなってね。」




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続編である『アストランティアに願いを』は、このお話から2年後のお話です。


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