「消えた夕蝉」あとがき

「消えた夕蝉」読んでくださってありがとうございます。 まだ読まれていない方はこちらからどうぞ。




かわいそうな蝉たちが夏の夕暮れに消えていく話でした。


➀書いたきっかけ

②人物について

➂「暗愁」「吐息を泳ぐ魚たち」との共通のテーマと関係性

④その他とまとめ






➀書いたきっかけ


皆様は羽化不全の蝉を見たことがありますでしょうか。


去年の八月、家の前に羽化不全の蝉がいました。

翅はぐしゃぐしゃで動かすこともできず、ただひっくり返って弱弱しく藻掻いていました。


蝉の6割ほどは羽化に失敗してしまうという話は聞いたことがありましたが、実際に見たのはこの子が初めてでした。

羽化の際に体力が残らず力尽きてしまった子、羽化の際に下に落ちてしまった子、鳥などの天敵に見つかってしまった子。

他にも様々な要因で、羽化できずに命を落としたり、羽化できても翅などが揃わずに失敗したり。

昔、よく祖父母の家で夜に羽化をしている蝉を観察しており、その時も羽化がとても大変であることを聞かされていました。


どうやら家の前にいた子は抜け殻の位置的に落ちてしまったようでした。

私は蝉が苦手なのですが、ずっと土の中にいてやっと出てきたその子を何だか放っておくこともできず、お腹を上に向けていたその子の向きを直してあげました。

碌に歩くこともできない足で何とかゆっくりと動いていくその子を私はずっと見ていました。

見ながら、こんなメモを残しました。


「羽化に失敗したみたいだ。

翅は綺麗に揃わなくて、飛ぶこともできず、鳴くこともできず、歩くこともできず、ただ生きて、ただ死んでゆく。

この子は何のために生まれたのだろうか。

私は何のために生まれたのだろうか」


いつか創作に使いたいなと思って、残したメモです。

こうやってよく短い文章を創作のメモとして残しています。

夏になったら書きたいなって思っていたので、書けて良かったです。

このことがきっかけその1です。


いろんなことを考えさせられたので、私はあの蝉にとても感謝しています。


もう一つのきっかけは『➂「暗愁」「吐息を泳ぐ魚たち」との共通のテーマと関係性』にて書かせていただきます。

読みにくくて申し訳ないです……。






②人物について(少女・男・まとめ)

 

➂で詳しく話しますが、この二人もまた同じ傷を持ってしまった二人です。



・少女

山の中にある駅で男が出会った少女。

男と似た境遇を持っている少女は、15年前の夏に男と共に殺人を犯したあの少女でした。


親から捨てられ、自分が不出来な人間だと思い込んでしまっている子です。

だからこそ、自分が思う出来の良い人間、価値のある人間、周りから褒められる人間であろうと必死に嘘をついてきました。

いつも元気で笑っていて、優しい子。

15年前の彼女の様子は男が話している通りで、村で生まれたわけじゃないけど、幼い頃から村にいるため、そして彼女が必死に嘘を吐いて築き上げた人格により、疎まれることも、いじめられたりすることもありませんでした。


少女の祖父母は本当に優しかったのか、それともそれも少女の嘘だったのか。

それは作中には出てきませんが、私の中では”どちらでもない”です。

ただ、祖父母が少女自身を最初から見てあげていたら、こうはなってないんじゃなかろうか。


嘘を吐かなくとも、彼女本人だって良い子だったろうに。


本来の自分を隠して生きていくのは、とてつもなく寂しい子だったろうなって思います。

そのことに彼女も気づいていて、そんな自分をかわいそうだとも思っていました。

だからこそ、自分と同じかわいそうな少年と一緒にいたかったのでしょう。

もちろん、かわいそうな子を助けるのは彼女の考える良い子の在り方なので、それで声をかけたのもあるけれど、自分をどうにかこうにか楽にしたかったのかなって。

でも、楽にはなれませんでした。

でも、寂しくはなかったんです。

だったら、ずっと一緒にいたら良い。苦しい中に二人でずっと一緒にいればいいって思ってしまってもおかしくはありません。

それなのに、少年に対してここから逃げて幸せになってほしいと願えた彼女は、本当に優しい子なのだと思います。

でも、その優しさを肯定されることはありませんでした。

誰かが彼女の嘘に気付けていたら。

彼女自身のことを肯定してくれていたら、こんなことにはなってなかったのかもしれません。

でも、それはとても難しいことです。

彼女は嘘がとても上手だったから。


少年がいなくなった後、みんなから仲間外れにされ、うそがつけなくなった彼女は何を思っていたのでしょう。

一人で蝉の声を聞いていた彼女は何を思っていたのでしょう。

彼女が羽化不全の蝉を見て、殺してあげた方が楽になれるのではないかと思った時、彼女はどんな気持ちだったのでしょう。

死にゆく際、彼女は一体、どんな気持ちだったのでしょう。


男が死を選んだ時、彼女はどんな気持ちだったのでしょう。


何一つ救いのない存在ではあるのですが、彼女の幸せを願ってしまいます。



・男

少女が出会った顔を見せない男。

少女と似た境遇を持っている男は、15年前の夏に少女と共に殺人を犯したあの少年でした。


両親が事故で亡くなり、村にいた父の兄に引き取られ、辛い思いをしてきました。

少女とは異なり、両親からは愛情を注がれていたと思います。

この時点で根本的に少女とは在り方が違うんだろうなって思いながら書いていきました。

彼を書く際に、子供らしさと、言い方は大変悪いのですが被害者面というのを出していこうと思いました。

確かに彼は、少女が殺そうと言わなければ、殺害を企てることはなかったかもしれません。

でも、結局は少女を止めることも、嫌だと断ることもしなかったんです。

できなかったんじゃなくて、しなかったんです。

それは、救われるかもしれないという希望があったからかもしれません。


彼も良い子でした。

正直、叔父は殺されても文句ない人間だったのに、ちゃんとその罪を忘れずに苦しんでいるんですから。

そんな彼だからこそ、少女がもしも生きていて、彼が復讐を果たしたとしても、彼は余計に苦しい思いをするだけだったでしょうね。

彼は自分と正反対の少女といるのが苦しかったと言っていますが、本当は似てるからだったのかもしれません。

自分と正反対で、明るくて元気で、常に笑っていて、今もどこかで暢気に楽しく生きている少女が腹立たしくて、羨ましくて仕方がなかった。

でも、その少女が全部嘘で、本当は苦しんでいて、15年前に亡くなっていたと知った彼はどう思ったのでしょうか。

きっと、とんでもなく驚いたでしょうし、とんでもなく虚しい気持ちにもなったでしょう。

だって、あの時一緒にいて寂しくなかったのは、彼も同じだったでしょうから。


彼が15年後と同じように、15年前に彼女の嘘を見抜けていたら何か変わっていたのかもしれません。


村から離れ、孤独の中で彼は何を思っていたのでしょう。

夏に蝉の声を聞いた時、彼は何を思っていたのでしょう。

15年ぶりに少女と過ごした場所を訪れて、彼はどんな気持ちだったのでしょう。


少女の寂しくないという嘘に対し、「お前は嘘が下手だな】と返した彼は、死を選んだ彼は、どんな気持ちだったのでしょう。


何一つ救いのない存在ではあるのですが、彼の幸せを願ってしまいます。



・まとめ

彼らは恋心とかはなく、お互いに良い意味でも悪い意味でも特別だったんだと思います。

男は最後に死を選びました。

叔父や少女と同じく、池に落ちたのか、それとも違う方法で亡くなったのか。

叔父や少女の死は発見され、どちらも事故で片づけられていますが、彼は発見されないかもしれません。


個人的に、最後の

男:「おれが死んだら、寂しくなくなるのか?」 

 少女:「……あたしは、もう寂しくないよ」 

 男:「お前は嘘が下手だな」


ここをどんな風に演じられるのか、お聴きできるのを楽しみしています。


例え、死んでずっと一緒にいれたとしても、それは幸せにはなれませんし、苦しいだけです。

それは本人たちも分かっているのでしょう。

ただ、寂しくないだけです。

これからも、ただ寂しくないだけです。






➂「暗愁」「吐息を泳ぐ魚たち」との共通のテーマと関係性


「暗愁」「吐息を泳ぐ魚たち」「消えた夕蝉」の共通のテーマは、「同じ傷を持っている者同士は、決して互いを癒すことはできない」です。

同じ傷を持っていたら、その傷を忘れることなんてできません。

傷の舐め合いなんて言葉もありますが、この言葉だって、そもそもあまりいい意味ではありません。

舐め合いだなんて言ってますが、ただえぐり合っているような気がします。


でも、落ち着くんですよね。

今回の二人が寂しくなかったように。

根本的な解決にならなくても、傷が治らなくても、それを幸せだっていう人もいるのかもしれません。


同じテーマで書くのは楽しいのですが、読んでくださっている方は、飽きてしまったかもしれません。

でもまたいつか書くと思います。







④その他とまとめ


羽化不全の蝉、夏、同じ傷をもった二人、

このテーマがふよふよしている時に、山の中にある駅を訪れて、この話がほぼ完成形になりました。


15年間生きた男と、15年前に死んだ少女。

それぞれ似た境遇で、友達みたいな人がいて。

それがお互いのことだったと、読んですぐに分からないようにって気を付けたつもりなのですが、私は本当に文章が苦手なので、下手だったかもしれません。

学校の先生のところとか、他にもいろいろ、もっとやりようがあったんじゃないかなって。

でも書いていて、楽しかったです。


画像の写真は去年、夏にいったキャンプで撮った写真です。

他にもたくさん写真があって、どれもいいなってなったのですが、夫にこれが一番寂しそうだって言われてこれに決まりました。

他の写真もいつか使いたいな。


今回は台本テストはできなかったのですが、discordで通話をしながら、公開前の台本をお渡しして、3人の方に台本を読んでいただきました。

台本の感想をお聴きできて、いろんな考察を聞けて、たくさんお話できて楽しかったです。

後書きを書くのが本当に苦手なのですが、今回はお聴きできたお話からいろいろ書くことを決められて本当に助かりました。

たくさんあって書ききれませんでした。

台本のことも、他の作品に関しても、お話を直接お聴きできる機会はあまりないので、とても良い時間を過ごせました。

また、いつかできたらいいなって考えていますので、お力添えをいただけますと幸いです。


また、これは聞いても聞かなくてもいいお願いです、

台本を演じてくださったアーカイブに関してです。

私は、劇後の感想や考察をお話してくださっているのを全てちゃんと聞いています。

もちろん劇後に感想や考察がなくても全く構わないのですが、もしもある場合はこちらを聞いてから、劇を聞いています。

とっても楽しいです。この方はこう思われたんだとか、聞いているとわくわくします。

なので、できれば劇後で何か感想や考察をお話してくださったときは、アーカイブ上に残してくださると嬉しいです。

劇だけでももちろん嬉しいですし、繰り返しますが劇後に感想や考察を話さなくても構いません。もしも、お話くださった場合に関してで、それも気が向いたらで構いません!


本当にわがままなので、もちろん残さなくても大丈夫です…!!





⑤最後に


今年は暑かったり、梅雨がほぼなかったりで、蝉の声をあまり聞けていません。

つい最近になって、ようやく聞くことができました。


まだまだ暑い日が続きますね。

夏の間にもう一つぐらい書けたらなって考えています。


ここまで読んでくださってありがとうございました! 感想などXのDMやメール、もしくはWaveboxなどでいただけますと大変励みになります! 以上、なずなでした。 


 X:https://x.com/nazunapiyopiyo 

 Wavebox:https://wavebox.me/wave/bb62gnxqrc810j58/     

薺箱

ー薺箱ー なずなが創作した 物語が詰め込まれた箱

0コメント

  • 1000 / 1000