「吐息を泳ぐ魚たち」あとがき

「吐息を泳ぐ魚たち」読んでくださってありがとうございます。 まだ読まれていない方はこちらからどうぞ。

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傷だらけの鰭で頑張って泳いでいた魚が死んでしまう話でした。


薺箱が4年目を迎える日に出した台本です。

(このことについてはXにてご挨拶と言いますか、お礼と言いますか、そんなことが書かれている画像を上げさせていただきました)

去年は『まだ見ぬ花を戀しく思い 遠くの春を愛おしむ』を上げました。

今年は仄暗いお話になりましたね。


①書き始めたきっかけ

②人物について

➂沙織の弟と蛍の兄




①書き始めたきっかけなど


『吐息を泳ぐ魚たち』というのが今回の台本の名前なのですが、これ自体はもう数年前に考え付いたものです。ふと思いついて口にしたら夫に、素敵だからどこかに書いておけと言われて、ずっとノートの中でふよふよしていました。

やっと書くことができて嬉しいです。


そして、被害者と加害者の家族という関係性。こちらもずっと書きたいなって思っていたのですが、なかなか書けずにいました。何度か書こうとしても、自分が考えているものよりもずっと複雑で重たいものだと思っているので、簡単に書こう!ってやって書けるものではありませんでした。

実際に事件を起こした加害者とその家族、被害者に関しての記事やインタビューなどたくさん見たのですが、知れば知るほど、それをどうやって取り扱うべきか分からなくなりました。

このお話は、二人の家族や沙織の弟と蛍の兄の事件に関して細かく考えてから書きました。

また上記にもある通り、色々調べたり、考えていたら、初夏から冬になっていました。

勿論、ずっと考えていたわけではないのですが、思い出してはああでもない、こうでもないみたいなことを繰り返していたら、もう真冬になっていました。

時の流れははやいですね……。


一つ前に上げた台本『金木犀の下で』の後書きに、『人によるとは思うのですが、私は夏の話は夏らしさがあるうちに、春は春の内に、みたいに実際の季節と同じ台本しか書けません。書こうと思えば書けるのでしょうが、書く気があまり起きません』と書きました。

この台本の季節は梅雨なのですが、冬に上がったのはほぼ作品のプロットや人物像が完成されていたからだと思っています。

そうじゃなかったら、真冬にこの台本を書こうとは思っていなかったかもしれません。


題名とずっと書きたかった関係性を、極弱火でことこと煮詰めてできたのが、今回の台本になります。

でも、またいつか、この二人の関係性と似たものをもう少しちゃんと詰めて考えることができたらなって思います。




②人物について

暗愁でも書いたのですが、私は、同じ傷を持った者同士でお互いを癒すことはできないと思っています。

それぞれに関して、詳細を書いていきます。


*沙織

彼女の設定に関して大きく”子供”と書いてあります。

沙織は私の中では幼さがどこか残る女性だと思っています。

誰よりも子供みたいに大声で泣き喚きたかった人なんだと思っています。


沙織は蛍のことを恨んでいるし、妬んでいます。

だけど、根から本当に不幸になれ、死んでしまえって思えてないと思うんですね。

沙織のかわいそうなところは、本当に根からそう思えなかったところだと思っています。

蛍に近づいたのは復讐するため、というのは本当なのでしょうが、きっとどこか痛めつけることを躊躇していたでしょうし、だからこそこんな遠回りな復讐をしたのかなって。

だから、蛍は救われたって感じたのかな。

蛍がかわいそうなことも分かっているし、周りが蛍に優しくするのも当たり前のことだと思っているし、自分たちが冷たい目で見られるのも仕方のないことだって思えてしまったのが、沙織の優しいところで、どうしようもなく救いようのないところだと個人的に思っています。


そして、最初に書いた通り、沙織はすごい子供らしさを持っていると思っています。

最終的に彼女の心の中は恨んでやるとか、そんなものではなくて、

“ずるい!ずるい!あなたばかりでずるい!”みたいな、幼稚というかなんというか、子供らしい気持ちでたくさんだったんじゃないかって。

自分の弟が殺人犯になり、父親は逃げ、どこへ行っても常に怯えていた彼女が、本当に心休まるときなどなかったと思います。

与えられるはずの愛情もなく、ずっと何とか生きることしかできなかった彼女は誰よりも甘えたかっただろうし、泣きたかったんじゃなかろうかと。


そんな彼女が、ずっと誰かに言ってもらいたかった言葉を、一番言われたくなかった蛍に言われたとき、彼女はどう思ったんでしょうか。

誰にもちゃんと見てもらえなかった彼女が、蛍だけには見てもらえた。

彼女が人殺しの家族だって分かっているのに、蛍は傍にいてくれようとしてくれた。


だからこそ、最後に沙織は蛍に対してちゃんと笑いかけることができた。

だからこそ、沙織は死を選んだ。


私はそう思っています。


*蛍

はじめて、男女それぞれで台本を書きました。

大体、セリフは同じなのですが、蛍くん、蛍ちゃんで大分感じ方が変わるんじゃないかなって思います。


蛍は沙織に対して執着心を持っています。

蛍くんの場合、そこに恋愛感情が混ざりやすくなると思うんですね。

ただ、恋愛感情を抱いていたとしても、蛍はそれが何なのかはっきりとは分かっていないとは思います。

それにより、蛍ちゃんよりも複雑な感情になると思います。

蛍ちゃんの場合の方が、まっすぐな執着な気がしています。

勿論、蛍ちゃんでも恋愛感情を沙織に抱いているという考え方もありだと思うのですが、私自身は書いている時はあまりそう思いませんでした。

同じセリフなんだけど、何だか違う。

それが面白くて、男女それぞれで書いてみました。



蛍は本当に良い子です。

だからこその過ちだと思うのですが、自分は沙織を救えると思っているし、自分が沙織の傍が呼吸しやすいんだから、沙織もそうだと無意識化にそう思えてしまってるんですよね。

きっと、最後に沙織から死ぬほど苦しいって言われたとき、心臓が止まるほど驚いたんじゃないかな。

そういう意味では蛍はまだ幼いような気がします。

大学院やめて働くから!って沙織に言うところは特にそう感じられました。

子供のときからの執着は子供らしさゆえのまっすぐさと、歳を重ねたことによる重さを兼ね備えていると思っています。

沙織に傷は負わないでほしいけど、いつか自分の傍に戻ってきてほしいって願ってしまっている時点で、蛍は沙織の幸せよりも、自分の心地よさを優先させてしまっていることとか、そう思いますね。


沙織が死んだことを知ったとき、蛍はどうするんでしょう。

どう生きていくのか、どう死んでいくのか。

私の中にはあるのですが、きっとこれは読まれた方によると思うので、書かないでおきます。



*沙織の弟と蛍の兄


この話を考え始めたとき、この二人について考えるところからはじめました。

作中には全く詳細が出て来ないのですが、これは二人とも悪くないし、どちらも被害者だったのかなって。

ただ、殺人はだめです。

これはサイドストーリーにするか、台本にするか悩ましいですね。

そのお話だけでも読めるような形にはなるのですが、いつか書こうと思ったときに書けたらいいな。





この台本、何とか60分にしたいなって思って書いたので、少しあっさりしているんですが、そんな中で交わされる執着やどうしようもない息苦しさを感じていただけたら嬉しいです。


冒頭にある通り、今日で4年目です。

これからもゆるゆると書きたいものを書いていけたらいいな。


ここまで読んでくださってありがとうございました! 

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 以上、なずなでした。


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薺箱

ー薺箱ー なずなが創作した 物語が詰め込まれた箱

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